【シリーズ】街角をゆく Vol.2 大和郡山
こんにちは。エネルギー・文化研究所の山納洋(やまのう・ひろし)です。
僕は2014年から「Walkin'About」という、参加者の方々に自由にまちを歩いていただき、その後に見聞を共有するまちあるき企画を続けています。
その目的は「まちのリサーチ」です。そこがどういう街なのか、どんな歴史があり、今はどんな状態で、これからどうなりそうかを、まちを歩きながら、まちの人に話を聞きながら探っています。
この連載ではWalkin'Aboutを通じて見えてきた、関西のさまざまな地域のストーリーを紹介しつつ、地域の魅力を活かしたまちのデザインについて考えていきます。
今回ご紹介するのは、奈良県大和郡山市。近鉄橿原線郡山駅・JR大和路線郡山の周辺です。
大和郡山は金魚のまちとして知られていますが、城下町として開かれ、その雰囲気を今でも残しているまちです。今回はそのあたりを紹介したいと思います。
大和郡山は、1580年に筒井順慶が郡山城を築城したことに始まる城下町です。1585年には豊臣秀吉の弟、豊臣秀長が紀伊、和泉、大和三国で百万石を領して郡山城に入りました。この時に秀長は商工業保護政策として同業者を町に集め、「箱本十三町」を造りました。これは営業上の独占権を認めるとともに、1ヶ月交代で全町の治安、消火、伝馬の世話をする当番制の自治制度です。
近鉄橿原線の西側には今も城跡が残されていて、周辺は武家地でしたが、線路の東側は町人地でした。地図を見ると藺町(いのまち)・茶町・豆腐町・材木町・雑穀町(ざこくまち)・綿町・紺屋町(こんやまち)・魚町・塩町といった町名が見えますが、これらは箱本十三町の名前を今に残しているものです。
紺屋町には「箱本館 紺屋」という、1728年頃から続いてきた染物屋の建物が残され一般公開されています。館内では金魚のコレクションや藍染の展示、染物屋時代の様子を見学することができ、藍染も体験できます(要予約)。建物の前には、かつて藍染め商人が染め物を晒すために使った水路が道の真ん中を流れています。
1615年の大阪夏の陣における郡山城の戦いを経て、徳川方の武将・水野勝成が藩主となり、荒廃した城郭の修築を行いました。その後松平家、本多家と続いた後、1724年に甲府藩主であった柳沢吉里(やなぎさわ・よしさと)が転封されて藩主となりました。そして明治維新まで、柳沢氏が郡山藩主家として一帯を統治しています。
大和郡山は金魚養殖が盛んですが、これは柳澤吉里が郡山へ入城した時に始まると伝えられています。江戸時代は侍の趣味として飼育されていましたが、幕末の頃になると藩士の副業として、明治維新後は明治4年(1871)の廃藩置県によって職禄を失った藩士や農家の副業として盛んに行われるようになりました。
柳澤家6代目、最後の藩主・柳澤保申(やすのぶ)もまた、廃藩置県によって藩知事を免官されています。彼自身はその後神職についたのですが、一方で旧士族の授産事業に援助を行い、養蚕・紡績関係の発展に寄与しています。
JR 郡山駅の北西側にはUR の団地がありますが、その敷地の一角に「大日本紡績郡山工場跡」と書かれた碑があります。この地には1893年、城下町の再興と士族の授産を目的に郡山紡績が設立されています。同社はその後合併を重ねて大日本紡績に、そしてユニチカになっています。
金魚の方も授産事業の要素があったのですが、やがて地域を代表する経済活動に成長しました。昭和40年代には養殖技術の進歩に伴い生産量が年々増加し、欧米諸国や東南アジアにも輸出されていました。近年生産量は減少したものの、養殖農家約30戸、養殖面積約30ヘクタールで、年間約2,800万匹が販売されています。
近鉄郡山駅から南西に進んでいくと、金魚を養殖している池がいくつも現れます。その中に、郡山金魚資料館があります。
ここを営むのは、有限会社やまと錦魚園。設立は昭和元年(1926)。先代の嶋田正治(しまだ・まさじ)さんが事業を拡大し、全国の卸売、小売店に金魚を出荷するようになったそうです。昭和30年代初期に中国金魚を輸入し、繁殖に成功したことで、水胞眼、青文魚(せいぶんぎょ)、茶金、丹頂といった中国金魚を全国に広める役割も果たしてきたそうです。
先代が一年中いつでも金魚が見られる観光施設をと、1982年に私費で開設したのが郡山金魚資料館で、さまざまな種類の金魚とともに、金魚の錦絵や古書、民俗資料なども展示されています。入場は無料で、金魚の販売も行っています。
資料館のすぐ近くには、金魚の自動販売機があります。卵の自販機を再利用したもので、朝にパッキングされた金魚(琉金など)が1匹200円で売られていました。
郡山の商店街には、呉服屋・和菓子屋・陶器屋・時計屋など、 古くから続いているお店が残されていますが、それぞれのお店の前に金魚の水槽があり、金魚のまちをPRしています。一方で若い人たちにも人気の書店やパン屋、カレー屋などもできていて、ウロウロ歩いているといろんな発見があって楽しいです。
また10年以上前から、奈良を基盤に演劇制作者として活動されている向井徹さんという方が「鯨椅子プロジェクト」というユニット名で、大和郡山市内の歴史的な建物を使って演劇公演を続けておられます。昨年は「箱本館 紺屋」の建物の中で、そして今年は9月1日(金)〜3日(日)に、町家物語館(旧川本家住宅・もともと料理旅館として使われていた建物)で「刈田に秋雨」という演劇公演が行われます。明治時代に実際に奈良で行われた陸軍特別大演習のお話だそうです。お時間がありましたら、ぜひ足を運んでみてください。
※【シリーズ】街角をゆくは、毎月1回お届けいたします。
※Walkin'Aboutについては、都市魅力研究室のHPをご参照ください。
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