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走るうららと芦田愛菜〜映画「メタモルフォーゼの縁側」感想〜

映画「メタモルフォーゼの縁側」がとても良かった。一応ネタバレあり。(タイトル画像はhttps://lp.p.pia.jp/event/movie/218234/photo-gallery/index.html?id=1より引用)
BL漫画を通して17歳の佐山うらら(芦田愛菜)と75歳の市野井雪(宮本信子)が出会い友達になっていく。好きを共有することに年齢は関係ないとかそういう話なのだが、主人公うららを演じきった芦田愛菜が見事だった。

うららとリンクする芦田愛菜

天才子役として世間に名が知られた芦田愛菜は、いつの間にか高校を卒業する年齢になっていた。落ち着いた佇まいや大人びた言動で「人生二周目」と形容される彼女の演技を、見たことがなかった。「マルモのおきて」や「Mother」のような、彼女が知られるきっかけとなった幼少期の作品以来、代表作と呼べるものに出会えてないように思う。
スクリーンに映った彼女への第一印象は背が低いなあということだった。雪を演じる、157cmの宮本信子と比べても一回り小さく、幼馴染の紡とは見上げるほどの身長差がある。その隣に立つ彼女も背が高い。その「小ささ」が序盤で主人公が抱いているような疎外感へと繋がっている。医学部への進学が噂されているように才能に溢れる彼女。だが、その身長でことスクリーンの中の人物になり続けることができるかという点で、同じようなやりきれなさを感じているのかもしれない。とんでもない邪推かもしれない。しかしそう思わせるほどにうららは芦田愛菜でしか成立し得ないような人物だった。

物語中盤で、うららは雪を誘って同人誌のイベントコミティアで本を売ることを決意する。進路希望の紙に落書きしている絵は決して上手とはいえないし、ましてや一度も漫画を描いたことがないうららは、見様見真似で漫画を作り、なんとか製本まで漕ぎつけた。(ひたすら机に向かってペンを走らせるシークエンスがとても小気味よい。)
しかし、いざ出展当日に雪は腰を悪くしてしまう。一人で行かざるを得なくなったうららは不安や孤独感から出展のブースにいられなくなってしまった。その後雪の家でおにぎりを泣きながらほうばる。才能を解放されることであらゆることが解決するような数多の作品のようにはいかない。行動することが必ずしも自分を救ってくれるとは限らないし、ほろ苦い後味を残してしまうかもしれない。ただもがくことで何かが変わった印象的なシーンだった。

走るうららと新たな出会い

うららは何度も走る。最初に走ったのは、雪と初めてカフェに行った帰り道で、彼女と一緒にいる紡に会ってしまった時だ。その気恥ずかしさから前傾姿勢で手を左右に振りながらに逃げてしまう。その姿はなんとも不恰好だ。(ちなみに原作では、後ろから声をかけられて腰を抜かすという場面だった。漫画から映画の表現移行という点で素晴らしい改変ではないだろうか。)
その後所々で、走るシーンが出てくる。放課後に雪の家へ向かったり、漫画を描き終えた後だったり。そして最後の場面が決定的な変化を表していた。紡が公園の滑り台で座り込んで、彼女(厳密には元)が留学先へ旅立つ姿を見送るか躊躇っている。その姿に遭遇したうららは自分の予定があるにもかかわらず紡の手を引っ張って走る。その走りっぷりは最初とはまるで違った堂々としたものだった。
雪と出会い、もがき、スクリーンを駆け抜けたうららを通して、芦田愛菜が走り出してくれていたら、その行き先が映画の道だったらなあと思わせてくれる作品だった。


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