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『湯神くんには友達がいない』を語りたい

『からかい上手の高木さん』のヒットやアニメ化。
『かぐや様は告らせたい』の実写映画化やアニメ化。
「くんさん漫画」なくして漫画を語るべからず。様々なくん、さん、ちゃん等々が世間を賑わせています。その多くは、ラブコメというジャンルにくくることができるでしょう。

しかし、この漫画はコメディではあるものの、ラブはあるんだかないんだか。そんな”お一人様コメディーの決定版”『湯神くんには友達がいない』が私はとても好きです。どこが面白いのか。綴っていきたいと思います。

湯神くんのここが面白い①登場人物が変わっている

この漫画で一番変わっているのは、間違いなく湯神くんです。タイトルに偽りなし。高校の野球部のエースで、落語をこよなく愛する彼には友達がいません、というより友達を必要としていません。
他人には頼らない、自分が納得すれば良い、そういったスタンスの彼の隣の席に転校生のちひろがやってきます。
ちひろは、当初声をかけるのを遠慮してしまいなかなかクラスに馴染めません。
湯神くんは彼女に無関心なようで気にかけてたり、気にかけているんだけど方向性がズレている。彼女のほうも、一人でいる湯神くんには話しかけやすい。(そして嫌味を言われる。)
この二人を中心に物語は展開されていきます。

湯神くんらしさが出ている場面を一つ紹介してみます。

雨宿りをしているちひろの前に、傘を持った湯神くんが通りかかります。鉄板といっても良いシチュエーションに、読書の期待が大いに膨らむ場面でしょう。『湯神くん~』でなければ。

ちひろに対し、「自分の身は自分で守らないと。」と言い残し、彼はその場を立ち去ってしまいます。呆然とするちひろは、雨に打たれてでも家に帰ることにしました。
そこに戻ってきた湯神くんの手には新品の傘が。買ってきてくれたんだと喜ぶちひろに、湯神くんは、ただ「500円。」とだけ言うのでした。湯上くんは傘を渡しお金を受け取ると、上機嫌で去っていきます。
この話は、ちひろの「湯神くんは悪い人ではありません、こんな感じの人です。」という言葉で締められます。

彼を取り巻く登場人物も、どこか変わっています。極端に理想化した湯神くん像を抱き、ラブレターを送ってくる藤沢、キャッチャーだからとラブレターの返事を代わりに考えてくれる後輩の門田などなど。

なんかこれくらいなら現実でもいなくはないなという、絶妙な変人っぷりの彼らが起こす行動はあらぬ方向に進展し、こじれます。そして気づいたら収まるところに収まっていく様子が描かれていきます。

現実の世界では、変わっているということはどこかネガティブな意味に捉えられがちです。人間関係でちょっとした違和感が生じたときやなにかうまく行かないとき、自分は変わってるんじゃないかと悩むことがあると思います。
しかし、湯神くん達のようにみんなどこかしら変わっているところがあるよな、変わっていることって普通のことだよなと思わせてくれます。

湯神くんのここが面白い②ゆるやかに変化する関係性

『湯神くんには友達がいない』では、終始ローテンションに話が進んでいきます。なにかの出来事をきっかけに、劇的に感情が変化する。ずっと抱えていた思いの丈を吐き出す。
青春真っ只中の若者を描く作品には、そういう「エモさ」がつきものです。
この作品では、おそらく意図的にそういったものから距離をおいています。

ちょっとしたすれ違いが、妙に気になってしまったり、なんでもないあの場面で生じた、ちょっとした感情が次の場面の行動に反映されていったり。
そうやって積み重なった小さな感情が、ちひろを中心とした登場人物の関係性もゆるやかに変化させていきます。

皆さんも、あの人最初はあまり好きじゃなかったけどふと気がついたら一緒にいること多いな。特別な感情を抱いたことはないけど、なんかあの人といると落ち着くな。そういうことにふと気づくといった経験があると思います。

そういうちょっとした感情の機微をすくい取る丁寧さが、この漫画の大きな魅力です。

湯神くんのここが面白い③結末

物語は16巻で象徴的な結末を迎えます。それは、作中の彼らだけでなく、見守ってきた我々読者にも大切なものを残してくれるような終わり方でした。
これに関しては、あれこれ言うと野暮になってしまいます。

毎日何かがすり減っているような、こんなご時世にこそ読んでほしい。人間のおかしさにくすっと笑えて、じんわり温かくなるようなマンガです。

もしこのnoteに迷いついて最後まで読んでくださった奇特な方がいらっしゃったなら、その勢いで全巻買ってみてください。




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