リツイートだって違法になりえます

ウェブ上で発生した名誉毀損について、リサーチを請け負いました。この記事にあるように、この案件では、オリジナルの投稿主だけでなく、リツイートなどの手段で拡散した人も訴訟対象としています。

記事への反応を見ると、(1)「リツイートだけで違法なの?」(2)「たかがリツイートでやりすぎじゃない?」(3)「訴訟をすると言論が萎縮してしまうのでは?」という反応も見られます。それらに意見について、いくつか整理しておきます。


「リツイートだけで違法なの?」

まず、(1)「リツイートだけで違法なの?」という問いについて。すでに複数の判決があるように、リツイートという行為も違法になりえます。

もともと日本の法律では、刑法上は「公然と」「事実の摘示によって」「人の名誉を毀損する」行為が、民法上でも「社会的評価を低下させる」行為が、名誉毀損に当たります。なお、ここでいう「事実の摘示」は、「<真実>の摘示」という意味ではありません。

例えば誰かについて、「Aさんは枕営業をした」といった噂話を広げたとしましょう。そしてそれが<真実>ではなかったとします。しかし、そのような発信することで、相手の名誉は傷つき、社会的評価は低下します。発信された事柄が<真実>でなくても、名誉毀損は成立する。むしろ、虚偽に基づく発言の方が悪質にもなりえます。

※わざわざこうした注釈をつけるのは、例えば「枕営業」「ハニートラップ」等といった言葉について訴えている今回の裁判に対して、法律を理解しない人から、「どうせ真実を言われたから怒ってるのだろう」と、曲解される可能性があるためです。

名誉毀損行為は、その「表現内容」がオリジナルか否かは問いません。人から聞いた誹謗中傷的な噂話を、一言一句改変せずに他人に伝えても、それは名誉毀損です。なぜなら、その「表現行動」が、新たな加害となるからです。

一つ例を出しましょう。あなたは街で、たまたま誰かへの中傷ビラを拾いました。あなたはそれを面白がって、100枚コピーし、他人に配りました。あなたはそのビラで中傷されている人のことは知りません。ただ、ビラが面白い、興味深いと思って、ビラの拡散を行なったのです。

当然ながら、この場合も、名誉毀損は成立します。「100枚コピーして配布」という行為が、新たな加害行為となるためです。動機が何であれ、です。

ビラのコピー配布は流石にアウトだろう、と思われる方は多いでしょう。では、他人にもらった中傷メールを、多くの人が参加するメーリングリストに流したら? それをメルマガで配信したら? 掲示板で見かけた中傷コメントを、別のスレッドにコピペしまくったら? これらももちろん、それもアウトになりえます。

では、twitterのリツイートやいいね、Facebookのシェア機能はどうでしょうか。使い慣れていると、「それぐらいセーフ」という感覚になるかもしれません。

しかし、これらの行為は、そのアカウントをフォローしている複数の人間の目に触れることを通じて、他者の社会的評価を低下する行為になります。だとすれば、法律上は中傷コピービラの100枚配布と同様、名誉毀損行為となりえます。

ここでは、「行為の容易さ」は問題となりません。ビラを100枚コピーして配るのはなかなか大変ですが、メーリングリストに流す行為であれば数秒で済みます。しかし、行為が容易であるから法的責任が免除される、ということには必ずしもなりません。

ビラのコピーであれ、手紙の送付であれ、メールの送信であれ、名誉毀損は成立してきました。それらの判決を支える法律は、今も変わらず存在します。そうしたことを踏まえると、「え、リツイートやシェアでも違法になるの?」という反応については、法的には、「え、なんでリツイートやシェアだけ、法的責任が免除されると思っているの?」と返すこともできます。

それでも、名誉毀損についての同じ法律を用いた上で、司法が「リツイートやシェアは例外的に違法ではない」という判断をするのがよいのでしょうか? あるいは、これから新たに、国会で「リツイート無罪法」「リツイート違法性免除法」を立法するのが良いでしょうか? 僕はそうは思いません。その理由は、さらに以下の項目で述べます。


「たかがリツイートでやりすぎじゃない?」

(2)「たかがリツイートでやりすぎじゃない?」について触れましょう。やりすぎかどうかと思うのは、それぞれの主観なので構いません。ただ、先に書いたように、リツイートも法的責任が生じうる表現行為です。「たかがリツイート」という人はまず、ネット上のノリと、行為の容易さに、論点が引っ張られすぎているように思います。

例えば2ちゃんねる上の書き込みから恣意的にいくつかをピックアップする「まとめサイト」について、裁判になったことがあります。大手まとめサイトは、1日に万単位の閲覧数を獲得することもあります。元の書き込みが投稿されたスレッドを数百人しか閲覧していなかったとしても、まとめサイトに掲載されることで、より多くの人に閲覧されることになるわけです。

ある判決では、元の書き込みからピックアップして掲載するというまとめ記事も、独立した表現行為であるとし、元のスレッドの書き込みとは異なる読者に向けた、新たな配布行為であるとしました。元の書き込みの存在とは異なる読者に向けた新たな配布行為。これはまとめサイトだけでなく、リツイートやシェアなどにも該当しえます。

こうしたケースなどを考えると、twitterについて、「オリジナルの書き込みが悪いか」「リツイートが悪いか」という単純な線引きでは議論できないように思います。というのも、twitterはその性質上、特に被害が拡大するのは、より多くの人に拡散された時。全く拡散されていなければ、被害は最小限に済んだかもしれません。

数十人しかフォロワーがいない人が名誉毀損的な書き込みを、数十万人のフォロワーを持つ著名人がそれを拡散した。この場合、オリジナルとリツイート、どちらがより被害をもたらしたと言えるでしょうか。もちろん、ケースバイケースではあるでしょう。ケースバイケースであるなら、「たかがリツイート」と一括りにできない。ここまでは同意いただけるのではないでしょうか。

例えば今回、リツイート行為で訴訟の対象になった2人は、千人以上のフォロワーがいるアカウントです。つまり技術的には、千人以上のフォロワーに対して、ある表現を新たに配布した行為だと言えます。そして拡散された表現内容は、人を誹謗中傷するイラスト。そのような表現の拡散行為には、法的責任があるのではないか。今回の裁判はそのことを問うています。

引用リツイートで批判しているものもあるため、全てのリツイートが違法になるとは限りませんし、全てのリツイートが法的責任を負うべきだとも訴えていません。あくまで、今回のような誹謗中傷を、それと知りながらリツイートする(し続ける)行為。その責任が問題となるのです。

※ちなみに今回の訴訟は、すでに訴えられた者だけに限定するものではありません。代理人はこの2名の方以外について、特に免責をする方針はないとしています。具体的な検討はこれからですが、RTされた方どなたについても、今後訴訟提起される可能性はあると理解しておくのが良いでしょう。

twitterなどはとても便利で、利用が簡単であるがゆえに、「たかがリツイート」と思ってしまう方もいるでしょう。しかし、時にtwitterなどのアプリは、「タップ一つで、誹謗中傷ビラを100枚コピペできるアプリ」になるのです。

もちろん、「タップしただけだ」と使用者は言うかもしれません。でも、その行為がどれほどの難易度・容易度であっても、生じた結果には責任が生じます。それがどの程度のものなのかは、事案によって異なる。だからこそ、タイトルのように「リツイートだって違法になりえる」と理解しておくことが重要です。

※なお、誤操作の可能性は一つの論点にはなります。ただし今回のリツイート主については、それが「誤操作によるものではない」とする相当の根拠も収集しています。

中には備忘録的にtwitterを使っているかもしれませんが、備忘録なら別のアプリを使いましょう。あるいは、リツイートやいいねではなく、人に見られないブックマーク機能や、鍵垢でやればいい。備忘録のつもりで、公開アカウントで延々とリツイートするというのは、「このビラを保存しておこう」という理由で、駅前にコピーを貼り出すような行為です。リツイートは、法的にはその都度の新たな「表現行為」なのです。

※「いいね」機能が、事実上の「もう一つのリツイート」になっているtwitterの仕様は、これまた問題だと思います

「中傷ビラを100枚コピーしてない。あくまで1000人のフォロワーに向けてリツイートしただけだ」。リツイート主が今後、そうした説明を法廷でするかもしれませんが、「twitterならしょうがない」「リツイートなら問題ない」と、裁判所が判断するでしょうか。もちろん判断は司法に委ねられます。

ただ、それぞれ気楽に、スマホやPCをいじっているだけなのかもしれませんが、その行為の先には、人の存在があります。叩かれる人。嗤われる人。悲しむ人。リツイートは、その人への攻撃に加担する行為であるとは知っておいたほうがいいでしょう。

最も重要なのは、実際にリツイートで被害が拡大し、名誉感情が傷つけられたと、被害者が訴えているという事実です。リツイートする人にも法的責任がある。ならば、誰を訴訟の対象に入れるかは、被害者に選択の権利がある。

今回の訴訟は、特にウェブ上での「セカンドレイプ」の問題を投げかけるものです。「自分は拡散しただけなのだから悪くない、自分は広めただけだから許してくれ」という論理を擁護し、訴訟した人を「心が狭い人」かのように位置付けたがる、「たかがリツイート」論。それは、本件においては、それ自体が二次的な加害への加担です。

人によっては、自分がこれからも安心して、他人への中傷をもリツイートする権利を確保しておきたいということなのかもしれません。まさか自分が、あるいは身近な誰かが、中傷される側になり、拡散され、苦しむ可能性など考えていないのかもしれません。そこで、次の論が出てきます。


「リツイート者を訴えると言論が萎縮してしまうのでは?」

(3)「リツイート者を訴えると言論が萎縮してしまうのでは?」。今回の訴訟に、そのような反応が出るのは、実は意外な面もあります。というのも、リツイートが名誉毀損になりうると判断した裁判例が、すでに複数存在していますし、大きくニュースにもなってきました。今回初めて、はたとその危険性に気づいたなら、ネットの使い方を考え直したほうがいいでしょう。元々、どのようなリツイートにだって、慎重さが必要ですから。

表現の自由はとても重要です。しかし、他者に危害を加える表現については別です。名誉毀損、侮辱、風説の流布、プライバシーの侵害、威力業務妨害など、すでにこの社会では一定の制限をかけています。そして今回の裁判は、現在ある法律に即して対応を求めるもの。そこで狙われる効果とは、「表現は自由だが、名誉毀損はしないようにしてください」という、極めてシンプルな内容です。

また、仮に「他人の社会的評価を低下させる表現」であっても、一定の事由が整えば、現行法でも保護されます。例えばただの罵倒ではなく、公益性を図る目的であったと認められる場合などは、その権利が保護されます。そのため、「他人の社会的評価を低下させる表現」が、直ちに違法ということにはなっていません。

言論委縮の問題は、現状でも法的な手当がなされている。その法体系に則って、被害者が訴訟を起こしたからといって、萎縮するじゃないかと攻撃するのは的外れです。

ちなみに、ネット上の名誉毀損・誹謗中傷については、法律や省令を見直す動きも出てきています。それが、国家による検閲システム・言論統制のようなものになるなら反対です。他方で、民事裁判で、被害にあった個人が、相手に対する法的責任を問い難い今の環境を改めることは必要かつ急務だと考えます。

例えばネット上の書き込みは、サービスによっては「実質時効1ヶ月状態」になってしまう場合もあります。というのも、開示請求をした対象となるサービスプロバイダが、アクセスログを短期間しか保存していないことがしばしばあるためです。これは、法が定める時効(例えば刑事の公訴時効は3年)や除斥期間よりも相当に短いものです。

名誉毀損、例えば今回のようなセカンドレイプ表現を、大量にネット上で受けた時。すぐさま書き込みを捕捉し、弁護士に依頼し、証拠を取り、司法手続きを始める、ということができるでしょうか。心理的な壁、経済的な壁があり、開示請求を起こすことすら難しい。そうした中、なんとか開示請求を行ったとしても、「ログがありません」で終わってしまう。

また、開示請求がなされる要件は、「権利を侵害されたことが明らか」であること。この条件により、「実際に名誉毀損だと認定されうる書き込み」よりも、開示範囲がかなり限定されることになる。そのため、「グレーな書き込みなので法廷で判断してほしい」というケースでも、開示請求の段階で門前払いとなってしまいうるのです。

現在のシステムでは、裁判にたどり着ける人は、本当に一握り。損害賠償どころか、司法の判断を仰ぐ前で止まってしまう。その実態を前に、多くの人が泣き寝入りしてきたでしょう。こうした事実の積み重ねが、一部ウェブ空間を、「誹謗中傷者にとってのボーナスステージ」にし続けている。

「言論の萎縮」を懸念することは大事です。だとするならなおさら、誹謗中傷の被害を受け続けることで、発信を控えたり、SNSを閲覧し難くなった人など、様々な言論機会などをすでに奪われてきた方々の権利を考えることも必要です。

最後に。今回の訴訟は、「誰かへの恨みを晴らすこと」が目的ではありません。誹謗中傷などが繰り返される社会に対する問題提起です。だからこそ、被告となった人に対して行われる誹謗中傷にも、私は抗議をします。


※ログの保存期間や開示範囲。削除対応や説明責任などプラットフォーマーの責務。どうした法改正が必要なのかについては、自分なりに思うことを別途まとめます。

※本原稿を執筆するにあたっては、所属の異なる、複数の弁護士の方に原稿チェックをしていただきました。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?