荻上チキ

評論家、ラジオパーソナリティ、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」代表理事

荻上チキ

評論家、ラジオパーソナリティ、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」代表理事

最近の記事

大西つねき氏の「命の選別」発言の問題点(文字起こし付き)

れいわ新撰組の一員である大西つねき氏が、「命の選別」なる発言を行い、twitterで議論になっていました。僕もこの動画を見た上で、この発言は問題であり、優生思想的な発言だなと感じました。そのことはラジオでも言及しています。 他方で、大西氏の発言を擁護する者もいます。「優生思想ではない誤解だ」と言いたいらしいのです。典型的な擁護論は、以下のようなもの。 優生思想を「優良な遺伝子を残す」目的であると狭く定義し、そのような主張をしているわけではないから優生思想ではない、と言って

    • リツイートだって違法になりえます

      ウェブ上で発生した名誉毀損について、リサーチを請け負いました。この記事にあるように、この案件では、オリジナルの投稿主だけでなく、リツイートなどの手段で拡散した人も訴訟対象としています。 記事への反応を見ると、(1)「リツイートだけで違法なの?」(2)「たかがリツイートでやりすぎじゃない?」(3)「訴訟をすると言論が萎縮してしまうのでは?」という反応も見られます。それらに意見について、いくつか整理しておきます。 「リツイートだけで違法なの?」 まず、(1)「リツイートだけで

      • 「死にたいと思うくらい、ツラい」という人へ

        毎年3月は、自殺対策強化月間です。この度、NPO法人ストップいじめ!ナビの無料コンテンツとして、「心理的危機対応プラン:PCOP(ピーコップ)」をリリースしました。 日本の自殺者数は、統計的には減少傾向とはいえ、未だに年間2万人超が自殺で亡くなっています。自殺対策の相談窓口などは増加していますが、まだまだ課題があるのも現状です。 「死にたい、と思うくらい辛い気持ち」のことを、私たちは「心理的危機状態」と呼びます。心理的危機状態に陥った時、自殺や攻撃以外の出口を、短時間で見

        • 勝手に「一丸」に入れないで 〜民放オリンピック同時キャンペーンへの疑問

          僕はラジオ番組のパーソナリティをしていて、平日は毎日、赤坂にある放送局に通っている。局にはニュースルームというのがあって、そこで待機しながら放送準備を行なっている。そこには複数台のテレビモニターがずらりと並んでいて、NHKや民放各局、それからいくつかの海外ニュースなどが一望できるようになっている。 2020年1月24日。いつもより早くニュースルームに到着した僕は、テレビモニターをみて首を傾げた。あれ、なんで同じチャンネルを流してるんだろう? ずらりと並ぶほとんどのモニターが

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          感染症に地域名をつけることのリスクーー新型コロナウィルスをめぐる「命名政治」について

          「新型コロナウィルス」こと、COVID-19のネーミングについて、一部では極めて政治的な議論が展開されている。一部「保守派」議員やオピニオンリーダーなどが、同ウィルスについて「武漢ウィルス」「武漢肺炎」「武漢熱」という名前を用いるべきだと主張しているのだ。 しかしWHOはもともと、ウィルスなどの名前に国、地域、人の名前、動物の種類などはつけてはいけないというベストプラクティス(最善方法:ガイドライン)を発表している。 なぜ地名などをつけることを避けるのか。それは、疾患名が

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          「なに笑ってるんだ」と言わないで……僕とジョーカーの〈失笑恐怖〉

          そういえば映画『ジョーカー』は撹乱的な映画で、「ジョーカーは自分だ」と簡単に言えてしまう映画ではなかった。 主人公アーサーが突発的に行った殺人を、メディアが「富裕層への反発」という解釈に落とし込み、人々がそれに(勝手に)共感し、それがカスケード現象を生むというこの映画では、人々は「真実」にたどり着かないし、それを探ることもままならない。それどころか、ラストシーンでのアーサーの語り口によって、それまでの心理解釈的なストーリーさえも、全て「事後的に作られたフェイク」である可能性

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          学歴ロンダリング、と言われて

          僕は成城大学で文学を学んだ。師匠からは後に、「君は文学が好きなんじゃなくて、文学を通じて社会を考えるのが好きなんだよな」と言われたのだけれど、いずれにしてもゼミでの研究は楽しかった。もっと研究を続けたいな。そう思っていた僕は、大学3年の後半にはすでに、大学院に行きたいと考えていた。 とはいえ、親の勤めていた会社が破産するなどして、決して暮らしが豊かではなかった僕は、大学進学の時点ですでに数百万円の奨学金(という名の借金)を抱えていた。「早く働いてお金を返さなくては」という思

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          メディアがもたらす「報道ストレス」と「共感被害」

          報道は、誰かの命綱になることもあれば、誰かを脅かす凶器にもなる。 2017年1月。ラジオ番組「荻上チキ・Session-22」で、「薬物報道ガイドライン」を作成した。薬物依存症当事者、自助グループ、家族会、医師、支援者、リスナー、メディア関係者とで作り上げたこのガイドラインが掲げた問題意識は、少しずつ広がっているようにも思える。 このガイドラインを作成するとき、意識していたことの一つが、「共感被害」ともいうべき現象だった。薬物報道が行われ、著名人がメディア上でバッシングを

          メディアがもたらす「報道ストレス」と「共感被害」

          「桜を見る会」と芸能報道から考える、「結果スピン」の効能

          共産党の田村智子議員が、11月8日に「桜を見る会」の「モラルハザード」を追求してから、多くのメディアが、このイベントの不透明さ・不可思議さについて追求を始めた。もともと国会では、兼ねてから、共産党の宮本徹議員や、立憲民主党の初鹿明博らが、本件を追求していた。 このイベントの招待人数が安倍政権になってから大きく増加し、予算も当初の3倍ほどに膨らんでいる。それはなぜか。その根拠は何か。そのようなヌルい財政ガバナンスでいいのか。こうした点が野党から繰り返し問われたが、政府の答弁は

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