見出し画像

ピースボートのポスターを貼りにきた若者との会話

2年ほど前に書店であった出来事。FBに書いていたものを加筆修正して紹介します。

先程、冒険研究所書店で店番をしているときに、若者がポスターを抱えてやってきた。

「ピースボートのポスターをお店のどこかに貼らせてもらえないですか?」と言う。

ピースボートについては、世間で色々言われているようだが、個人的には特に感情はない。ようは、よく知らないので関心がなかった。
その若者は、うちが「冒険家」のやっている本屋であるとか、私が冒険をしている人物であるとか知らずに、片っ端から飛び込んでお願いしている中でたまたまやってきたようだった。

「ピースボートかぁ、あんまり貼りたいとは思わないけど、ノルマとかあるの?」と尋ねると「僕も船に乗りたいと思ってて、ボランティアで貼っているんですが、貼った枚数で割引になるんです」と言う。

その話は聞いたことがあったが、本当にあるんだね、と思いながら少し考えた。正直言うと、あんまり貼りたくはない。というか、このでかいポスターを貼るスペースがない。あるとしたらトイレか。でも、あんまり貼りたくない。
かと言って、断るのは簡単だけど、なんとなくそれでは面白くないし彼にとってただの断られた一件のお店という通りすがりの関係で終わってしまう。
と、10秒ほど考えを巡らせて私はこう言った。

「ピースボートと一緒に、あなたのポスターも貼ってくれるなら、トイレに貼ってもいいよ」

彼はキョトンとした顔で一瞬止まったが、次の瞬間こう言った。
「あの、このポスターを貼らないといけなくて…」
「いや、そのピースボートのポスターを貼ってもいいんだけど、条件としてあなたが何者でなぜ船に乗りたくて、それで僕がこのポスターを貼りにきましたってことを、隣に手書きでもなんでもいいから貼ってくれれば、ポスター貼っていいよ。ピースボート単体だけじゃだめ」

「あの、そういうのないんですけど」
「なんでもいいよ、手書きでもいいし、作って持ってきてくれたら貼っていいから。いまここでA4のコピー用紙に手書きでもいいから、紙とペンあるし。あとで持ってきてくれてもいいよ。書いたら戻っておいで。ピースボートにはあんまり興味はないけど、あなたに興味があるから」そう言うと、彼は残念そうに帰っていった。

結果的には彼は何も書かず、自己PRポスターも持参してくることがなかった。残念。

意地悪だなぁ、貼ってあげればいいのに、と思うかもしれないが、正直言うとあのデカいポスターは貼りたくないので「貼らない」というのが私の選択だ。が、この状況を逆転して面白くする方法はないかと考えたときに、ピースボート云々ではなくこのポスターを貼りにきた「彼」は誰なんだろうかということを思った。

私としては、彼が私の提示したチャンスを面白く活用してくれれば、彼にとっても、私にとっても、それを見たお客さんにとっても、みんながちょっと面白くなると思った。
あのデカいポスターがただ無言で貼ってあるだけではあまり面白味がない。彼が自分のことを書いて横に貼ってくれれば、ポスターは言葉を持って語り出す。

きっと彼は「許可される」「断られる」という2択の答えを待っていたところに第3の答えが飛んできて戸惑ったのだろう。どうすれば良いか分からず、意味もわからず、知っている2択の答えの中で近いと思われる「断られる」を心の中で選んだような気がする。

彼はピースボート乗れたのかなぁ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?