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コロナ禍における「仕事と介護の両立」【川内 潤 ×荻原 英人 対談②】

「はたらくをよくする」ための重要テーマの一つである「仕事と介護の両立」。介護支援のスペシャリストであるNPO法人となりのかいご代表理事の川内 潤 氏との対談前編では、介護のチーム作りの重要性についてお話を伺いました。今回の後編では、テレワークと介護等、これからの働く人と介護について話し合いました。
(※対談は2021年4月下旬にリモートで行われました。)

テレワークと介護

荻原:
コロナ対策でテレワークが進んでいる環境というのは、働く人が直接介護をするケースを生みやすい気がします。「家で仕事しているんだから、介護できるでしょ」みたいな形で。環境としてはそうなりがちだし、働いている本人もそう考えがちかなと思うのですが、そういうケースは増えてきていますか?

川内:
そうですね、働く場所が選びやすくなったことによって、直接介護はしやすくなってしまったんです。そういった環境の中で、行き詰まってしまった方からの相談もたくさんあります。

荻原:
「テレワークと介護」の両立に関するテーマでは、どのような事例がありますか?

川内:
たとえば、ある難病を患っているお母さんを息子さんが介護しているケースが挙げられます。息子さんは、自宅でテレワークをしながら、1日に20回もトイレ介助を求められるのですが、トイレに行っても排泄物が出ないこともあるそうなんです。この背景には、お母さんが息子さんに不安をわかってほしいという気持ちがあります。「トイレに行きたい」とお願いすれば息子さんがきてくれる環境がある中で、息子さんに声を掛ける回数が増えて、トイレ介助の回数が増えてしまったのです。もし、息子さんがテレワークをしていなければ、お母さんはこの声を発しないかもしれないし、トイレに行く回数も減るかもしれない。息子さんが近くにいることによってお母さんの依存が引き出されてしまっているのです。これが、テレワークと介護の相性のよくないところです。

他には、感染リスクへの配慮から、外部のデイサービスやヘルパーさんを断ろうというご相談もいただきましたね。そうやって、感染不安を理由に介護のプロのサポートを自粛することで、外部と接触する回数は減りますが、親の閉じこもりを誘発し、その方の生きがいなどを含めて自立心を下げてしまう結果になり得ます。テレワークしている人も親にうつしてしまう不安から、一緒に閉じこもることになり、悪循環になりかねません。

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     テレワーク下での相談事例(提供:となりのかいご)

荻原:
それはある意味介護をしている人がイネイブラー(※1)のようになって、思わしくない行動を促進してしまい、直接の介護による悪循環を促進してしまう要素になり得ますよね。
※1: 嗜癖その他の問題行動を陰で助長している身近な人のこと。
  (参考:厚生労働省e-ヘルスネット

川内:
おっしゃる通りです。今の二つのケースはどちらにおいても、子供が疲弊していきます。デイサービスもヘルパーさんも断ってしまうと、仕事に集中できず作業効率が落ちるので、まとまった仕事はできないですよね。深夜作業になってしまったり、web会議に乱入されている人もいます。お父さんやお母さんに、「今は会議中だから声かけないでね」と事前に伝えても、それが記憶に止まらなくて声をかけられる。張り紙をしても、それも剥がされてしまって、張り紙の内容も記憶に止まらず、また乱入、といったケースもあって、これはトラブルになりますよね。そうすると、親子関係はいい形にならないですし、こういうことの繰り返しで、親自身も子供の顔を見ると恐怖を感じるようになってしまったり、発言が強くなってしまうこともあるので、症状を進行させる要因になり得ます。

荻原:
それは介護される方にとっても、テレワークをしている方にとっても、プラスにならないですね。

介護×テレワークへの職場のサポート

川内:
こういった状況を、上司の方が把握しにくいことも課題の一つです。「テレワークさせてあげているから大丈夫だろう」という上司側の気持ちや、「実家からテレワークさせてもらってるんだから、これ以上のわがままは言えない」という介護する側の気持ちが、すれ違いを生む原因になります。私が介入できる場合は、テレワークの解除を上司の方に掛け合うこともありますし、介護サービスの導入をご提案することで問題を解決できることもありますが、社会全体で見れば、そういった問題は多く起こっているのですが、テレワークによって表面上「介護がうまく行っている」かのように見えてしまう傾向があります。

荻原:
なるほど、当社でもコロナ禍で働く人のストレス状況の調査を実施したのですが、仕事のonとoffの切り替えの難しさや、家での家族の対応、身体的な運動不足が浮かび上がってきています。その中でも介護が負担になっている状況もあるんだなとお話を伺っていて認識しました。その辺りは会社側や上司側も把握する必要がありますよね。

川内:
人事の方からよく問い合わせいただくのですが、会社としてテレワークを介護のために活用したいとか、実家からテレワークをしたいという要望に関しては、受け付けていただかない方が良いと考えています。働く側の権利もありますから、難しいのですが、それが必ずしも介護との両立には繋がらないですからね。むしろ、介護の両立をしにくくする場合の方が多いです。ですから、テレワークをするのは良いのですが、ある程度時限を決めてほしい、あるいは体制を作るためのテレワークにしてくれないかと。そのためにまずは地域包括支援センターに連絡をしてから、テレワークに入ってほしいということは伝えてほしいですね。

荻原:
それは重要ですね。そういう相談があって、直接介護するのでテレワークにします、というアイデアって、安易に考えると良いプランの様に聞こえてしまいそうですが、必ずしも適切な判断ではないので、冷静なアドバイスをしてあげたいところですね。

川内:
そうですね。コロナが収まって、出社する機会が増えた後でもテレワークをしながら介護を行う方々は出社しない状況が続きますから、注意したいところですね。従来の考え方ではテレワークは介護に有効であるように情報発信されていたように思うのですが、実際には全くそうではないのです。

テレワークを介護に有効活用する
① 通院・ケアカンファレンス

荻原:
なるほど、育児もそうですよね。緊急事態宣言下では、お子さんが家にいる状態でテレワークをする状況というのもあって、それがメリットとして考えられると、ストレスになりますし悪循環ですよね。逆に、テレワークを有効な形で介護に活用する方法もあるのでしょうか?

川内:
病院の受診の付き添い時に、テレワークを活用することは有効だと思います。毎回病院の受診について行く必要はないのですが、「これは大事な受診で、お医者さんとしっかり話をした方が良いだろう」という場合に、診察の間に中抜けして待合室などでテレワークができるのであれば、非常に有効だと思います。また、介護のチームが出来上がって行くと定期的にケアカンファレンスがあるのです。それは、ケアマネジャーが中心となってお父様お母様の介護に関わる方が一堂に会して、「お父さんお母さんの介護を今後どうしていきましょうか」と話し合う場なのですが、参加するためにその日だけはテレワークをするというのは有効だと思います。恒常的な介護のためにテレワークを活用するというのが従来の発想だと思うのですが、ピンポイントで活用する方が効果的だと伝えたいですね。

荻原:
なるほど。テレワークを活用して病院付き添うなどスポットで対応できる場面、で活用すべきで、恒常的に活用するのは双方負担になりますし、良いことがないことは理解しておきたいですね。

テレワークを介護に有効活用する
② がんの看取り

川内:
もう一つ、がんの看取りの場面において、余命わずか一週間という時に、テレワークをしながら声をかけることは有用だと思っています。これは介護をする側の方々の気持ちによった考え方かもしれないのですが、呼吸が苦しくなっていたり体に痛みがある父母をずっと見ていると辛いけれど、いつ最後の瞬間が来るかわからないという状況の時に、一旦そのことを忘れて仕事に集中できると、気持ちの負担が軽くなる場合があります。限定的ではありますが、有効な利用法ですよね。

介護休暇・休職の利用の仕方

荻原:
介護休暇、介護休職に関しても同じような考え方ができますよね。

川内:
そうですね。介護休暇、介護休職に関しても、国も言っているのですが、直接の介護のために使うことは有効ではありません。だから、私は柔軟に取りやすくしていくのは良いけれども、日数を増やしていくことが本当に仕事と介護の両立に役立つのかということに関しては疑問が残ります。例えばある企業では、国の指定よりもかなり長い、365日介護休業制度があります。どのように活用されているかというと、どっぷり一年間休んで、休業が切れたら退職するケースが多いです。私も辞める方と面談させていたのですが、「一年休職をとっていて、もう会社に戻れる席がない。自分がこれ以上、父母の介護に関わらない方が良いということが頭では理解できても、とてもじゃないけれども、そういう気持ちにはなれないから辞めるんだ。」とおっしゃるんです。せっかく用意された休暇・休業が、実は離職を後押ししている、という結果になる場合もあるので注意が必要です。

荻原:
なるほど、その点も客観的に専門家からアドバイスをもらえると腑に落ちるポイントかなと思いますね。

これからの「働く人と介護」

川内:
怖いのは、このゴールデンウィークで老いた親を目の当たりにした人たちが主観的に「もうこれは誰かがついていないとダメな状態だ」と判断し、テレワークを選択することだと思っています。

荻原:
ありますね。そういう話が整理されないまま一人で考えると、そのほうが直接できるって考えますよね。

川内:
私のところへの相談件数はやはり増えてきているので、そこでの対応は積極的にしたいと思っているんですけれども、本当の意味での両立を支援できる相談窓口がないとやっぱり厳しいだろうなと思ってしまいますよね。

荻原:
今の話の延長になりますが、働く人が働き続けながら仕事と介護を両立するために、会社側、経営者に気をつけて欲しいことなど、川内さんからプロの視点でメッセージをいただけますか?

川内:
仕事と介護の両立というものを、福利厚生として捉えているうちは、おそらくうまくいかないと思います。むしろ人事戦略として捉えて、優秀な人材が会社からいなくならないために、介護という大きなライフイベントがあっても、最小限の影響で済んで、仕事に戻ってこられるような仕組みを考えなければならないと考えていただきたいです。介護は育児とは異なります。育児の場合は、男性も女性もお休みする期間はあれど、保育園や幼稚園が決まれば、手が離れます。一方で、介護はいつまで続くかわかりません。福利厚生で休暇・休業を付与することではなくて、戻ってきて戦力になれるような体制づくりをしていただくことが、仕事と介護の上手な付き合い方で、介護を受ける方々としても、その方が好ましい形になりやすいと思いますね。

荻原:
そこは重要ですよね。今日もお話を伺って、働く人個人に介護についての適切な情報を届ける、情報を整理してあげるということは大事ですし、経営者や人事、管理職の方にも社員への対応方法についても理解が進むような取り組みを、うまくやらせてもらえると非常に良いと改めて思いました。

川内:
ちょっとした考え方の転換です。直接介護を始めた方を引き戻すのはとても大変です。直接介護をしている人に、「そうじゃなくてこうやった方がいいですよ」と言っても、「あんたに何がわかるの」と怒られることもあります。「自分が倒れるまでやる」と仰る方もいますが、それって誰のためでもないですよね。介護を受けている方が、自分の子供が自分の病気のせいで毎日傷つきながら生活をしている姿を見せつけられて、幸せなわけがない。日本人の気質でそういった考え方になってしまうケースが多く、親のために頑張ろうと思う人ほど、蟻地獄にはまってしまう。何とかして差し上げたいと思っています。

最後に

荻原:
今日お話していただいた「仕事と介護の両立」のテーマは、基本の対応姿勢やチーム作りの必要性をインプットすることと、何か困ったり悩んだりして相談をした時に、客観的に整理してもらうということが必要だなと改めて思いました。非常に有益な情報をありがとうございました。
ピースマインドは「はたらくをよくする」というビジョンのもと、働く人がサスティナブルでよい状態で働くことをサポートする事業を推進しています。今回のお話「仕事と介護の両立」は私たちにとっても重要なテーマですので、介護をテーマに今後ご一緒に取り組んでいけたら嬉しいです。

川内:
ありがとうございます。私も是非勉強しながらと思います。

●対談協力:
川内 潤 氏(NPO法人となりのかいご代表理事)
1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」設立。2014年に「となりのかいご」をNPO法人化、代表理事に就任。2020年3月4日にNHK「あさイチ」出演。著書『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法(ポプラ社)』

【参考】
介護とテレワーク 難しい両立 職場は孤立させない配慮を(東京新聞)

調査分析】with/afterコロナの働き方で求められるストレス対処法とは? 

仕事と介護の両立をはじめとした働く人のためのワーク・ライフ相談窓口


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