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マーケティングSaaSでベスト・オブ・ブリードを実現するために、SaaS&ノーコードと制約

DoubleVerifyの小松さん(@ShoheiKomatsu)のブログリレー企画 #SaaSLovers の18日目 担当の小木曽です。攻めのDXを支援する株式会社EVERRISEにて、CDP INTEGRAL-CORE チームのビジネスサイドのマネージャーを担当しています。

SaaSは、自社独自のシステムとしてカスタマイズして構築するよりも、その製品のカバーする領域においてベストプラクティスとして機能や利用方法が提供されている"集合知"によって、(開発)導入におけるコスト、運用におけるコスト、成果を得られるまでのスピードなど非常に多くのメリットがあります。

一方で、明確にデメリットというべきでもないがSaaS製品を利用することで発生する課題や、特定の領域では発生しやすい誤った検討プロセスでの導入による問題があり、今回はそれらについて触れたいと思います。あくまでマーケティング領域におけるSaaSを想定して書いていますが、他のSaaSにおいても共通して存在している部分があるかと思います。

過去の記事と同様、自分の思っていることを書き下ろした内容となっていますが、お付き合いいただけますと幸いです。

複数のSaaSの導入によるデータのサイロ化

これは、CDP(Customer Data Platform)のベンダーとして頻繁に発信しているメッセージで、現在では複数の独自のシステムやSaaSを利用してマーケティングの業務を行うことが一般的になってきていますが、複数のデータにおいてデータ管理がバラバラになってしまっている状態をデータのサイロ化と言います。

オンラインが中心のECのビジネスにおいても、ECカートシステムにおける会員情報 / 購買情報 などのビジネスに必要な基幹としてのデータ、webサイトのアクセス解析 / メール配信システムやMA のデータ、モバイルアプリも提供していれば モバイルアプリのアクセス解析 / プッシュ通知配信のシステムのデータなど、取り扱うシステム・データは多岐に渡ります。

1顧客にとっては、webを利用してもモバイルアプリを利用しても、メールで情報を受け取ってもアプリのプッシュ通知で情報を受け取っても1つのサービスを利用していることには変わりないのですが、企業としてはシステム・データとして別れているため、分析やコミュニケーションの観点で、分断されたシステム・データごとに判断・コミュニケーションを行っていることは少なくありません。

より適切に判断し、より適切な顧客とのコミュニケーションを行うためには、データのサイロ化が弊害になる可能性があります。手動でデータを統合して分析レポートをして解決に向けたアプローチをしている企業もあるかと思いますが、更新頻度が一定上挙げられなかったり、工数が膨大となってしまったり、ミスが発生しやすい状況になってしまっていたりといった課題が残ります。

データのサイロ化の原因や発生する問題についてはこの記事で紹介しています。

各社の目的に対したアーキテクチャ設計を考えることからは逃れられない

データのサイロ化はさまざまな機能を持ったスイート形式のSaaS製品を導入すれば解決するケースもありますが、逆にスイート形式の製品で提供されている製品の機能しか使えないということになるので、事業の状況にあわせて機能を拡充できる柔軟性を持たせるという意味でデメリットが存在します。

それぞれの目的において良い製品を組み合わせて利用するベスト・オブ・ブリードという考え方は、DXということばが出てくる以前の業務システムのデジタル化、とりわけERPの領域においてすでに語られていることですが、マーケティングにおいてもベスト・オブ・ブリードの考え方を持って、それぞれの業務・機能において適切なものを組み合わせること、また状況に応じて切り替えていくことが良いと考えています。

表現は異なりますが、過去に書いたnoteでも触れています。

適したツールを組み合わせ利用することによりデータのサイロ化が起きることは前提として、データのサイロ化を解決するという観点においては、結局のところシステム間つなぐための仕組みを用いることによる解決が必要で、適切なアーキテクチャを設計して運用が必要です。

そこで、各種システム(SaaS)間で結合するというのも手段として存在するのですが、複雑に結合してしまう(密結合)の状態になってしまうと、これまた事業の成長フェーズに合わせて製品を入れ替えるということができなくなってしまいます。

そのため、マーケティングの観点においてはCDPという製品に対してデータを集約してハブとして機能させることで、複雑な結合を回避し疎結合な環境を構築することが良いのではないかという話になります。

ただし、ここにも連携の頻度や実現したい施策によっては課題が残ってしまうケースもあるので、一部はSaaS間で直接連携した方がよいといった場合もあるので、目的によって整理する必要があります。また、単にハブが欲しいということであれば、要件次第でCDPという製品ではなくAWSやGCPなどクラウドを利用して開発をしてしまったほうが良いケースもあります。

※今回はメインのトピックとして触れませんが、データが連携できるSaaSを選定する、データ統合のKeyとなる情報をいかにして各システムでできるようにしておくかという観点も重要です。

ノーコードということばの独り歩き

マーケティング関連のSaaSでは、定型的な業務をエンジニアが作業をするよりもシステムとして直接マーケティング担当者が作業できるような機能を作ってしまった方が効率が良いが、操作性や自由度の高い操作画面を作るには開発工数が膨大になってしまうような機能を提供しているという製品、各目的においてノーコードの実現に向けた機能を提供している製品が多いかと思います。

そこからさらに、自動化や提案という観点での機能が増えて、ますます便利になっています。また、自社ではとても構築できないような難易度の高い技術を用いている分析や外部データの収集を行う製品もあります。

前者のSaaSの話を中心にできればと思いますが、事業としての全体最適を見たときに、マーケティング施策の実施のためにエンジニアリソースを割くよりも、サービス・製品を磨くためにエンジニアリソースを割くべきであることは確かです。機能として切り出せる箇所については切り出してSaaSを利用することが、事業の成長スピードを伸ばすことにつながります。

ただし、ノーコードで実現できるということは、SaaS製品が自社で操作画面を作るよりも操作性が高く自由度が高いといえど、必ず制約が発生するということです。この前提をツールを導入する企業が明確に認識していない状態で導入を進めると、やろうと思ったことができないという事象が発生します。制約が存在する以上、課題を明らかにした上で目的を定めて選定を行い導入を進める必要があります。

SaaS製品を提供している企業としては、その前提を認識しているはずなので、営業担当が細かい要件を聞かれたときに確認せずに「できます!」と言ってしまったり、「ノーコードでなんでもできます」!といったミスリードを促すような情報発信はするべきではないと思っています。

目的が明確でない状態のSaaS導入

目的が明確でない状態のSaaS導入であっても、問題が起きにくいケースと問題が起きやすいケースがあると思います。

そもそも、該当のコミュニケーションチャネルでの施策を実施していなかったので、該当のチャネル(メール配信 / プッシュ通知配信 / LINE配信など)の施策を実施するためのツールの場合は、そもそもやっていなかったことをやるという話なので、検証という意味も存在して期待する効果の目標が決まっていれば、結果を振り返り判断をするのみです。

一方で、すでに行っていることをよりデータを使って発展的なことを行いたいというケースにおいては、やりたい施策が明確でそもそもそれが実現できるかを決めて導入を検討しないと問題が起きやすいです。

当たり前の話ではあるのですが、ここが重要だと思っていて、"データ活用"という話になった途端にいきなりデータ活用という手段が目的化してしまうケースが多いです。

・どのような成果を得たいのか
・どのような分析・施策を行いたいのか
・どのようなデータが存在するのか(統合すべきか)

といった観点を整理しておかないと、さまざまなシステムに点在しているデータを使って何らかの成果を得えられる可能性は低いです。データ活用はシステムの状況によっては業務効率化の観点のみで成果が得られるケースも多いですが、マーケティングの観点ではベスト・オブ・ブリードに向けたアーキテクチャの設計および運用としての意味合いが大きいためです。

裏返すと、SaaSベンダーが組み合わせで提案する際には、このような観点でクライアントが検討できるようにサポートできるとベストだと思います。

ノーコードの製品を利用して試すことはもちろん良いと思いますが、データ活用のためにデータを統合しようとしても存在しているデータの状態によっては、特に基幹システムのデータなど一部のデータは整形してから連携が必要なケースも多く、そこにはエンジニアリングの要素が必要となるケースがほとんどです。

ノーコードを謳っているデータ活用の製品を導入するときには、実際には非エンジニアのみでは実現できない可能性があるという前提を持っていないと、実現できなかった際に全社的に"データ活用"や"DX"の取り組み自体に対して敬遠しがちな風土を作ってしまう可能性があります。

買い手も売り手も、そして業界としても

SaaSはビジネスを成長させる有効な手段なので、利用進めるべきであることは大前提です。

買い手としては、システム自体は自社で開発する、外部パートナーに依頼して開発するという選択肢もある中で、メリット・デメリットを考慮したうえでSaaSを選択するというものであることを認識しておく必要があります。ただし、SaaSは機能的には制約が必ず生じるため、適切に判断できるようにするために課題の設定および導入の目的の設定が必要だということです。

また、自社のシステムやSaaSを自社にとって良い形で組み合わせられるよう、適切なアーキテクチャを設計するという観点も持っておく必要があり、そのためのハブとしての仕組みの導入の検討も重要です。自社で知見が足りない場合には、コンサル会社やシステムのコンサル会社に相談をすることは一つの選択肢として有効です。

(少し宣伝)
EVERRISEでは、CDP INTEGRAL-COREの提供のみでなく、目的に対してどのようなデータが存在しているかの調査、実現可否、実現に向けた適切なアーキテクチャの提案といった観点でのシステムコンサルティングも行っています。

売り手としては、当然の話としてミスリードを促すような情報発信や営業活動を行わないようにする必要があります。

本題としては、業界として連携によるベストプラクティスを増やしていき、顧客にとって価値のある形を作っていければと思っています。現在、僕はCDPベンダーとしての立場ですがCDPとして疎結合の連携を増やすのは当然として、重要なことはSaaSを組み合わせることでより大きな価値を生み出すことだと考えています。

より多くの企業やケースに対して有効なソリューションを作って、日本の企業のサービス・製品の提供価値を向上する取り組みを行っていければと思います。

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