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NFTマーケットを超えてNFTは取引できるのか?相互運用性を担保するテクノロジーの現状と今後

マーケット間のNFTの流動性

昨年から、NFT(non-fungeble-token)への期待が非常に高まっています。しかしながら、急速に発達したテクノロジーをつかったビジネスにおいて、信頼性、スケーラビリティ、相互運用性、アセットの保管、アクセシビリティなど様々な課題があります。
私が日頃、顧問先のMTGや、勉強会などで、特に質問に多いのが、NFTマーケットを超えてNFTは取引できるのか?、複数マーケットを超えて売買されるケースでもロイヤリティは受け取り続けることはできるか?など、マーケット相互の連携について聞かれることが非常に多くあります。
多くのNFTは今、Ethereumにある状況ではありますが、日本国内においては、LINEや楽天など様々な選択肢が登場しています。そのような中で多くの人は、最も身近なマーケットで出品を検討してつつも、将来的な展開として考えたときに、他のマーケットでも扱いができるかどうかについて、考えておこうと思われているのではないかと思います。
複数のマーケットを通じてNFTが連携する状態をNFTの相互運用性、インターオペラビリティという風に表現します。NFTが相互運用可能でない場合、その価値と取引は1つの市場内でのみ制限されてしまうことになります。
DEXといわれる分散型取引所があり、ユーザーは好きな草コインを売りに出すことは自由ですが、買い手が見つからない場合、当然、取引は成立しません。取引が少ないニッチな取引所であれば、あるほど、人が様々な取引所を使って分散化されればされるほど、その取引のマッチングされる機会は減り、流動性を失ってしまいます。
LIQUID WORLD BOOKという、世界中の取引所のオーダーを1つに集めて、全世界で行われる取引の板情報を集約し、参加する人たちがいつでも、どこでも、コインを売買できるようにするというコンセプトのプロジェクトがあります。


複数の取引所で同じ板を使うのでアービトラージはできなくなりますが、実際に購入したい人と、販売したい人のマッチングは今よりも増えるため、流動的な取引がなされることを期待されていますが、NFTもまたこういった仮想通貨と同様にして、相互運用性を通じて、流動性を担保される必要がでてくるのではないでしょうか。
このブログでは、様々な人に読んでいただきたいので、テクノロジーに寄せた中身にはしないようにと心がけていますが、相互運用性について考える場合、ブロックチェーンのテクノロジーが今現在、どのような状況にあるのかを正しく知る必要があります。技術部分については、簡潔に記載したいと思いますので、最後まで読んでいただければと思います。

NFTマーケット間の流動性の現在

まず、前提として、現状を少し説明しておくと、たとえば、現状では単一のエンティティにおいては、各ブロックチェーンはある程度の流動性を担保しています。例えば、同じEthereum基盤であるマーケット間では、ERC-721という共通の規格を用いることによって相互運用が実現されています。
EhtereumのWalletなどで様々なNFTが横にならんでいるのは、同じ規格で統一されていることによるものです。もちろんすべての項目において可能なわけではなく、ERC721という規格のルール以外にある独自の変数などについては、マーケット毎のルールに則って実装する必要があります。
ロイヤリティなどについても、マーケット間の取り決めによってロイヤリティを返すように設計しているものもありますが、必ずしも、一貫性が担保されるわけではありません。しかし、EIP2571(Creator's Royalty Token Standard)や、EIP2981(NFT Royality Standard)などのアイデアを通じて共通化しようとする動きがあります。将来的には、このような規格を通じて、複数マーケット間のロイヤリティの担保が実現する可能性はあります。

一方で難しいのは、2つの独立したプラットフォームにおけるマーケット間の連携においてです。BITCOINやEthereumの場合はブロックのチェーンが深くなるほど、ブロックが再編成される可能性が低くなる、確率的ファイナリティとよばれる手法を用いてトランザクションの状態を決めています。これは、巻き戻される確率がほぼ0、ただし厳密に0にはならない(正確には、6つ前のブロックが覆えるのは天文学的確率になるなので、覆ることはないと言われている)わけで、片方のチェーンでロールバック(reorg)が起きると、整合性がとれなくなる危険性があることは容易に想像できると思います。このようなことから複数の基盤を担保するような作業は非常に難易度が高いと言えます。
今現在、RaribleなどのマーケットではEthereumとFlow、Tezosという複数ブロックチェーン基盤をサポートすると発表されているものの、相互に連動しているわけではなく、アカウントも、トークンも、それぞれで異なる世界毎に存在しており、連動しているわけではなかったりします。

WRAPPED-BITCOIN

仮想通貨などのスレッドをみている人であれば、wBTCやwETHという表示を見たことがある人もいるかもしれません。wBTCはラップドビットコイン、wETHはラップドイーサリアムと呼ばれていて、それぞれのコインをERC-20という規格で包んでいる(Wrapped)ことからこのように呼ばれています。wBTCは、BitGoやKyber NetworkといったDeFi企業によって作られれたステーブルコインで、価格は1:1で裏付け資産をもっていて、常にビットコインと連動するようになっています。
DEXといわれる分散型取引所などは、Ethereumのスマートコントラクトで作られたERC20という規格によって取引することができますが、BTCは異なる基盤技術によってつくられているため、Ethereumのコントラクト上では取引することができません。意外に思われるかもしれませんが、Ethereum自体も実はERC20に対応していないため(ERC20はEthereumが誕生してから後に作られた規格であるため対応していません)、wETHを通じてERC20でつくられたコインと互換性を担保することができます。ラップされたトークンはサードパーティに依存し、一元化することができないことや、データの連携はできないため、あくまでトークンの量のtransferのみであるなど、不十分な可能性もありますが、相互互換性を実現するために作られた一つのアイデアといえます。

片道のOneWayPegと往復のTwoWayPeg

先に、サードパーティーの企業によって作られたWrappedBTCの事例を紹介しましたが、本来、ブロックチェーンのインターオペラビリティ(相互運用性)とは、サードパーティーが介在せず、ブロックチェーンプロトコルを介して様々なデータを送受信できることを言います。
<※マージバリデーション、マージマイニングの有無などで、準インターオペラビリティなどと細かく区別している事例もありますが、ここでは広義の意味で捉えていただければと思います。>
複数のチェーンで相互運用性を実現するといわれると非常に難しく感じますが、根本となるコンセプト自体は非常にシンプルです。仮想通貨などトークンの場合は、トークンを新しく生成するmint(鋳造)と、価値を担保するためにコイン自体を燃やし破棄する、burn(焼却)という機構が備わっています。それを利用して、片方から片方にトークンを送る場合、送りたい数量を、送り元からをburn(焼却)し、送り先にmint(鋳造)することで転送を実現させます。片道通行の場合は、OneWayPegといわれ、往復の場合は、TwoWayPagで実現されます。細かく言えば、途中にプールと呼ばれる中間の場所を用意したり、burnの前にロックさせるなど様々な挙動はありますが、基本的にはこのような動きによって作られています。

コンセプト自体は非常に簡単なものですが、チェーン間の移動時に仮にバグがあって、コインが増殖したり消滅するようなことがあれば大問題となります。先に、確率的ファイナリティなどの話題をだしましたが、相互に不正が起きないように、このコインが通過する道路においては、厳しく監視を行う機構が必要になってきます。
現在、TrustedThirdPartyとよばれる複数の権利者によって監視する手法や、HTLC方式といわれる当事者間のHashで生成された鍵と時限式ルールによって実現するアトミックスワップ方式、さらには、Relay方式とよばれるチェーン同士で互いのチェーンを監視しあうような方法が取られるケースなど監視方法には、様々なアイデアがあります。OnewayPegのような片道の移動であれば、片側のチェーンに手を入れるだけで実現できるケースもありますが、双方向となると既存のBITCOINやEthereumといったメジャーなブロックチェーンに対しても改修を行う必要があったり、相互運用性を担保したいすべてのチェーンに共通の規格を用意する必要があります。それらを共通のプロトコルを通じて、実現しようとしているのが、PolkcadotやCOSMOSなどのプロジェクトです。

PolkadotやCOSMOSが実現する相互運用性

既存のチェーンを使わずに、専用のブロックチェーンを自力で作ることはできないだろうか?と疑問に思われる方もいるかもしれません。もちろんそうしたことは可能かもしれませんが、下記のTweetで記されているように、基盤を作るためには、コンセンサスルールやセキュリティなど必要な機能をすべて実装する必要があり、なかなかフルスクラッチでの実装はハードルが高いのが現実です。


独自チェーンをつくるために、Polkadot(基板自体はSubstrate)や、COSMOSという仕組みがあります。

Ethereumの共同開発者であるGavin Woodが代表を務めるParity TechnologiesによってつくられているSubstrateですが、Webアプリケーションがhttpから作る必要がないのと同じように、ブロックチェーンをつくることができるようになるということを証明するために、カンファレンスの最初に新品のMacを取り出し、インストールから始める様子は非常に話題になりました。・
つくられた基板自体が他のネットワークと孤立していた場合には、相互運用性といわれる部分が失われてしいまうことになりますが、この点でも、SubstrateやCOSMOSで作られたチェーンは相互に接続し合うことが可能となっています。
Polkadotでは、XCM:Cross-Consensus Message Format(クロスコンセンサスメッセージ方式)、COSMOSではIBC:Inter-Brockchain Communication(ブロックチェーン間通信)というプロトコルを通じて、複数のチェーンのやりとりを実現しています。
ここから先は、かなり技術よりの話題になってしまうので、興味のある方は、いろいろなブログや文献をよむことをお勧めしますが、このような共通規格を通じて、ブロックチェーンもまた、相互運用を実現しようとしています。


非常に興味深いのは、近年、この2つのソリューションが手を結んだということも大きく報道されました。長い間ライバル関係とも報道されていましたが、相互運用性という大きなテーマについて、このような2大テクノロジーが手を結ぶのは非常に興味深いニュースであると言えます。


Conclusion

Web3という文脈によって、今、ブロックチェーンの技術は大きな潮目を迎えています。メタバースなどの注目によっても、ブロックチェーン技術やNFTは注目されていますが、多くの人が持つブロックチェーン技術への期待値と、実際にテクノロジーが提供できる技術にはまだ少し乖離があることが現実としてあります。ただ、テクノロジーのスピードは非常に早く、今現在は仮説の話であったことは、数ヶ月後には、現実の話であることも多く、おそらく半年前にはTwitterが投げ銭や、NFTのプロフィール写真に対応していることは想定されていなかったことだと思います。NFTマーケットごとの相互運用性についても、今はまだ十分とはいえませんが、コンセプトとしてあり、多くの人が同じ方向を向いているという現実さえあれば、数ヶ月後、数年後にはまったく異なる状況が生まれている可能性があります。少し先の未来をみすえながら、人々の暮らしがよりよくなるような面白いサービスを考えていきたいと思います。

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