Web2.5かWeb3.0か、悩める技術とビジネスの妥協点
はじめに
Web2.5というのはその名前の通り、Web2とWeb3の間を目指そうという動きのことです。Web3は完全に分散化された世界です。企業などにおける中央集権の管理を排除して、すべてを分散管理していこうと動きです。
しかしながら、今の多くのウェブサービスはWeb2で作られており、Web3に移行するには大きな痛みを伴うことは事実であり、ユーザー自身もWeb2の慣習になれていて、Web3を受け入れるのには時間がかかると言われています。そういった懸念から、Web2とWeb3の間にクッションを挟もうというWeb2.5の議論があります。
システムには移行期間は必要であることには理解できるため、ビジネスという側面からは、そのアイデアに対してはさほど違和感は抱かないと思います。しかしながら、テクノロジーという側面のみから捉えると、Web2.5の議論は非常に奇妙であると言わざるをえません。水と油ほど異なるもの、DXにおいて紙とデジタルを同時に検討するような非常に矛盾した動きになってしまう危険を孕んでいると言えます。
テクノロジーとしてWeb2とWeb3は混在できない
Web2とWeb3のハイブリッドを目指すというと聞こえは良いかもしれませんが、テクノロジーとして、Web2とWeb3は全く異なる次元のものです。技術の側面からのみ、見るとWeb1とWeb2は同じhttpというプロトコル上に存在しているため、非常にシームレスに接続ができます。
それでは、Web2とWeb3はどうかというと、これは、技術としてはまったく異なる技術です。
Web3が語られるようになった前提として、GavinWood氏が語るように、テクノロジーの進化によって、今のインターネットは様々な矛盾を抱えるようになったからであるという根本的な理由があります。
(Gavin Wood氏がはじめて "Web3" という概念ĐApps: What Web 3.0 Looks Likeとして発表しました。<2014.4.17>)
Web3.0は別名として、 "Post Snowden Web"と言われることがありますが、今のインターネットの仕組みは崩壊しているため、抜本的なな部分を分散化というアプローチによって変えることによって、大きく見直しを行おうとしているわけです。
つまり、Web2を残すことは、即ち、Web2から変化をしないと言えます。これを説明するにはビットコイン前夜のデジタル通貨について考えみると非常にわかりやすいかもしれません。
ビットコインはいまや、国の通貨の代替としても使われ始め、運用者のいない自律分散化されたアプリケーションの代表とも言えます。ビットコイン以前にこのような自律的アプローチの通貨がなかったかというと存在しています。たとえば、DigiCash(デビッド・チャウム)、Bit Gold(ニック・サボ)、B-Money(ウェイ・ダイ)などが、それに当たるかもしれません。それでは、なぜこのような通貨がビットコインのように普及しなかったかと言うと、ビットコインには自立分散的にサービスが継続するための、驚くべき発明が存在しており、ビットコイン 前夜の通貨にはそれがありませんでした。それが、「ナカモト・コンセンサス」と言われるものです。
ビットコインを発明したサトシナカモトは、コンセンサスメカニズム「ナカモト・コンセンサス」をプロトコルに組み込むことによって、ビザンチン将軍問題や、シビル攻撃などを防ぐための仕組みを確立させました。この発明によって、ビットコインは、自律分散化の道を突き進み、圧倒的な存在感を示すことになったわけです。
https://eurocrypt.iacr.org/2018/Slides/Wednesday/InvitedTalk.pdf
あらためて言えることは、Web2.5によるサービス展開は、Web3がもつ、自立分散へのアプローチを諦めることによって、ビットコイン前夜の通貨になってしまう可能性があるということに他なりません。
ボーイング777や原子力発電所にみるBFT
分散化された仕組みは、様々な参加者が参加し、誤った情報を提供され、結果として判断が間違ってしまう可能性があります。このことは、たとえば、複数のコンピューターによって制御されている何らの構造において、故障した場合に、通信や処理が間違った状況で動き続けた場合の対処に似ています。その一例として航空機の制御や原子力発電所のケースがあげられるかもしれません。
一つのセンサーにおける処理の内容によって制御をした場合に、単一の回路がネズミに食い破られただけで、非常に大きな事故を引き起こしてしまう可能性があります。そういうケースを防ぐために、ボーイング777および787では、ARINC 659 SAFEbusというネットワークを使い信頼性を担保しているそうです。このシステムでは、各ノードが重複した送信機を使用して、2つのバスペアを介してメッセージを送信し、受信者ノードはそれぞれ4つのコピーを受け取り、4つすべてが同一である場合にのみメッセージを記録するように作られています。このようなセキュリティケースをビザンチンフォールトトレラント(BFT)とも呼び、ビットコインのコンセンサスアルゴリズムでは、新しい情報を検証するために参加者が暗号パズルを解くことによるプルーフオブワーク(PoW)というコンセンサスを通じて、解決されています。
アルゴリズムが決めることで公平性を担保する
昨今のエネルギー消費問題などから、Ethereumの世界では、PoWというコンセンサスから、PoSというコンセンサスに移ろうとしていますが、ビットコインのPoWにおける運用実績から比べると歴史が短く、果たして本当にこの方法で、うまく機能するかはわからないと言う声もありますが、Ethereumの創業者Vitalik氏は新しいEthereumのアルゴリズムを考案して、いくつかの論文を通じて発表しています。
たとえば、最初の論文CaspertheFriendlyFinality Gadgetでは、1990年代の映画「Casperthe Friendly Ghost」の演劇であり、コンセンサスシステムが高レベルでどのように機能するかを説明しています。
また、2番目の論文、
Casper the Friendly Finality Gadget
で、インセンティブの設計について説明されています。(ユーザーはバリデーターとして参加するために資金をデポジットしますが、ルール違反によってそれらを取り上げる手法を明らかにしています。)
https://www.coindesk.com/markets/2017/02/22/ethereum-economics-gets-spotlight-in-vitalik-buterin-edcon-keynote/
そして、3番目の論文「AutomatedCensorshipAttackRejection」
https://github.com/ethereum/research/blob/master/papers/censorship_rejection/censorship_rejection.pdf
は、51%の攻撃について説明しています。
このようなアルゴリズムは法治国家における法律のようなものに等しく、一度このアルゴリズムが動き出した場合、例外なくこのシステムに則り、運用される必要があります。仮にWeb2.5の議論があった場合に、これらのコンセンサスルールを誰がどのように担保するのか、既存の仕組みを使っていかに代用するかと考えると、なんとなく難しそうなイメージが伝わるでしょうか。
Conclusion
暗号と経済的インセンティブを通じて、エコシステムの参加者の不正を防ぎ、安定的に運用を行う仕組みのことを、コンピューターサイエンスの分野で、暗号経済学という新たな学問として捉えられているそうです。人間の本質的な損と徳による価値観を使い分けることによって、これまでの仕組みのように、長い条項によってお互いを契約によって縛ることなく、はじめて出会った人でも、安心して取引ができる工夫により、分散化された組織DAOというものが実現され、新たな組織のあり方として期待されています。そうはいっても、既存の枠組みをいきなり崩してしまうことは非常に難しい、と言うことは理解できるため、たとえばまったく異なる異業種や、まったく異なるサービスで、Web2.5とWeb3を完全に切り分けて使うなどの工夫が必要だと思います。すくなくとも、日本において、Web2.5に安住の地をみつけてしまい、電子マネーが遅れた理由のように、Web3.0の普及が遅れるような事態は避けなければなりません。
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