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フードテックとブロックチェーン、繋がるレシピと家電におけるサイロ化を乗り越えるための共通OS化の仕組みとは

はじめに

以前、「物流とブロックチェーン」という話題の中で、IBM Food Trustの事例を出しましたが、今回はもう少し広く食という分野にとってブロックチェーンがどのように使われるべきかという話題にしたいと思います。

Blockchain聡明期からあった食品のトレーサビリティの考え方

IBM Food Trustという食品のトレーサビリティを行うプラットフォームの話題を聞いたのは私がブロックチェーンテクノロジーのユースケースを集め出した数年前のことなので、かなり前から検討されていました。どの土壌の作物が、どのような中間流通を通じて、いかに消費者の口に入るのかをテーマとして、IBMがWalmartと組み、デジタルプラットフォームを作り、実現していくという挑戦は今もまさに進捗しています。そして、これらの試みを受けて、coldaのコーヒー豆のトレーサビリティシステムなど、様々なブロックチェーン基盤の一つの用途として、食のトレーサビリティはテーマとなっています。
Firefoodによるココナッツのトレーサビリティの事例では、ココナッツを農家から購入し、Ethereumのブロックチェーンにデジタルパスポートというデータを入れる操作を行います。消費者はQRコードを通じて、ナッツがどこからきたか、どのような中間流通を通って、栽培した人に金額が支払われたのかを正確に確認することが可能です。もちろん農家にとっても生産した作物がどのように売られていくのかを確認できるため、実際にHPに記載されていたパイロットプロジェクトの事例では、(https://fairfood.nl/case/de-reis-van-een-eerlijke-kokosnoot/)想定より少ない金額しか農家に支払われていないことが判明し、その差額分の支払いがあとで、行われることになったと記載されています。農家、仲介者、輸送業者などそれぞれが適正な金額を分配し、適正な価格でトレードされているのかを相互に監視しあい、不正が起きないように確認することもトレーサビリティの特徴といえます。

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さて、このような食品のトレーサビリティというものは、B2Bの世界では少しずつ浸透しつつありますが、別の観点からのトレーサビリティというものも存在します。その一つが、食材が家庭に持ち込まれて、調理されるという過程におけるトレーサビリティです。それを説明するのにはキッチンOSの事例が最適です。

キッチンOSとは何か

先日、家庭用プロジェクターを購入したのですが、このプロジェクターの中にも今やAndroidOSが入っており、何かのハードウェアと接続せずに、プロジェクターの内部で、NetflixやYoutubeなどが利用できて非常に便利だと感じました。このようにAndroidOSは、今や、我々の携帯、テレビ、車、そのほか様々なところに浸透してきていますが、それと同じようなコンセプトを料理という分野で実現するのがキッチンOSです。
ドロップ(Drop)という企業が開発しているOSで、他にもInnit(イニット)、SideChef、Cheflingなど複数の企業が参画しており、フードテックという側面からレシピと食材と家電がシームレスにつながることで、新たな価値の創造を目指しています。GE、ボッシュ、ケンウッドなどの大手メーカーに採用され、100種類以上のアプライアンスに搭載されており、日本のメーカーでは、パナソニックがDropのキッチンOSを採用しています。


レシピと家電がどのように繋がるか

食のGAFAと言われるキッチンOSは、レシピをコア情報として、様々な調理家電や食品のネットショップなどを接続して、これらをシームレスに繋げることが目的です。そこを利用するユーザーが増えれば増えるほど、ユーザーの嗜好性、実績、購買履歴など様々な情報が集約され、これらのマーケティング情報をAIなどが解析し、食品会社を始め調理器具メーカーなど様々な企業をつなぐという役割を担います。一社が調理器具の開発から、レシピの開発、そしてアプリケーションの開発まで全てを行うことができれば、このようなことを実現できるかもしれませんが、実際に多様多種にわたるフローを一社がフルスクラッチで全て作ることは難しいわけで、これらを実現するために共通のOSという概念を用いて、様々な企業に参加を促しています。参加する企業はデータをOSに提供する代わりに自らも、他社のデータを自由に使うことができるという恩恵に預かれるということになります。

Smart Kitchen Summit

Drop Kitchen OS
the operating system for the smart kitchen
https://partner.getdrop.com/

色々と参考になる情報が多いので、リンクを掲載していますが、下記の記事の中でInnitのKevin Brownが"we can act as a Culinary GPS system along the entire food journey"(食品業界のGPSのような存在)と例えていたのが非常に興味深かったです。

“Help people eat and live better.” With Fotis Georgiadis & Kevin Brown

Our mission is to build technology and services that help people eat and live better. If we can act as a Culinary GPS system along the entire food journey — plan, shop, prep, cook — people can achieve major benefits in health, time savings, delicious meals, and quality time with friends and family.

https://thriveglobal.com/stories/help-people-eat-and-live-better-with-fotis-georgiadis-kevin-brown/

この手の枠組みを作る場合、これはプラットフォームなのか?という問いかけが存在しますが、プラットフォームはなんとなく、強大な1社が独立したシステムとして提供する存在のように思えます。もちろん言葉の定義次第だとは思いますが、複数の企業が集って知恵を出し合い、協力するようなこのような仕組みは、GPSという例えなのか、規格という例えなのか、OSという言い方が良いのか、日本語でなかなかしっくりくる呼び方がまだ無いように思います。

繋がることは何が良いのか

レシピと家電が接続されると何が良いのか?という問いがあります。
我々の生活は、料理に限らず、全てのサービスが分断されて、個々のサービスの使い分けによって成り立っています。先ほどの私が購入したAndroidOSが掲載されたプロジェクターの事例でも同じことが言えます。数年前までは、レンタル店でDVDを借りて、プレイヤーとプロジェクターをコードで繋いで、さらに、スピーカーもコードで繋いで、部屋の電気を消して....ようやく再生できていたものが、様々なものが繋がることによって、プロジェクターの電源を押すだけで、全ての過程を一発でskipして映画を見ることにフォーカスできるようになります。
料理にも様々な過程があります。例えば、お金を銀行でおろし、購入したものを配送業者に手配、冷蔵庫の中身と消費期限をメモしたものを加味しつつ、アプリでレシピを検索し、調味料を準備し、手順にそって料理を行う...ような一連の流れがあるかもしれません。これらを行うためには、少なくとも調理家電は使われるだけではなく、事前にユーザーが何を作ろうとしているのか、焼き、煮る、蒸すなのかといったレシピ情報を事前に知っておく必要があります。そしてそれを知るためには、レシピの情報はもちろん、過去の購入情報、ユーザーの嗜好性などあらゆるデータを家電が知っているとなお良いでしょう。もちろん、車にATとMTがあるように、料理を楽しむユースケース、忙しい日常の中で最低限の料理を必要とするケースなど、利用者のケースによってもその過程は柔軟に変化するとは思います。

スマートシティと料理

様々なものとコネクションするメリットがキッチンOSであるわけですが、
食という分野ほどローカル、地域に密接に繋がりを持つものはないと思います。日本は海外に比べるとハイコンテクスト文化と言われることが多いわけですが、実は食という分野においては少し異なるのでは無いかなと思います。日清食品の「どん兵衛」も西日本と、東日本で味が違うことは有名ですし、ラーメンなどもよく言われますが、レシピ情報はおそらく各地域で大きく異なっているはずです。もちろん和食という観点では、ハイコンテクストなのかもしれませんが、その中には少し繊細なものが存在していることは事実です。これらの食の情報を、地域に根ざして、再構築すること、こういうことは家電やレシピなどが上手にひも付き、データを吸い上げることをしな限り難しいと思います。(よっぽど発信力のあるYoutuberのような方が各地域にいるとすれば可能かもしれませんが。。)


Conclution

サイロ化されていた世界が少しずつシンクすることによってユーザーにとって便利になるという世界はとても面白いと思います。宇宙兄弟の最新刊の中で、宇宙で寿司をフードプリンターを使って再現するシーンがありましたが、これなんかが、典型的な事例かもしれません。出かけることなく、配送も必要なく、手元に食事が届くようになる世界...。
https://all3dp.com/1/best-3d-food-printer/
レシピさえあれば、材料を調達し、適切な調理を行い、同じ味を再現できることは、人々の心の支えとなるような気がします。


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