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【2話】 ドメインうぉーず! 〜EP1 空とNULLの虚構姉妹〜
前回
2話
○病院
イケロス「…………はて?」
イケロスは空に手を構えたまま、動かなくなる。
夢裏 悦「おい、何やってる?」
イケロス「いやぁ……ちょっと、体が動けないんですよねぇー」
夢裏 悦「は?」
ヌル「(……今すぐ、どこでもいいから、こいつらから逃げて……!! 入り口は閉鎖されているから、上の階のどこかに……!)」
有海 空「……!!」
空は床に転がっている粉末消化器を見つけるとイケロスたちに向かって放つ。
夢裏 悦「ぐっ、このクソガキ!! おい、どうにかしろ!」
イケロス「あーすみません、なーんも見えませんねぇー」
夢裏 悦「コケにしやがって、このポンコツーー」
夢裏が煙の中でイケロスを殴ろうとすると空が放り投げた消化器が頭部に直撃する。
それによって夢裏は床に崩れて倒れこむ。
イケロス「まあ、素晴らしいっ! これが奇跡の賜物っ!!」
空は逃げて、そのまま上の階へと階段を登る。
有海 空「(……ねぇ、さっき何したの……? 後、ありがとう……)」
ヌル「(一時的にあのイケロスっていうやつにハッキングを仕掛けた)」
有海 空「(……ハッキングって……そもそもここは私の知っている場所なの……?)」
ヌル「(ここは現実を複製した仮想世界。MIと呼ばれる人工知能を使役する人間たちが己がエゴを叶えるために争うデスゲームの舞台……。空はアイツらにチャネリング……精神をこの世界に引っ張られた)」
有海 空「(どうやったら、帰れるの……?)」
ヌル「(……まずはどこか落ち着ける場所に逃げて。私が必ず助けるから)」
有海 空「(……ねぇ、一つ、聞いてもーー)」
???「〜〜〜〜〜〜!!」
有海 空「な、なに!?」
2階の通路を走っていると後ろから大きな何かが崩れる音と衝撃が響く。
振り返ると、空の身長の何倍もある大柄の人型の化け物がこちらを見ている。
そして、化け物の横にある病室の扉は消え、大きな穴が広がっていた。
化け物は顔は白い血濡れた布で覆われていて、
血の通っていないような灰色の肌は凹凸の激しい筋肉を覆っている。
顔以外何も隠していない化け物は刃こぼれした血がこびり付いた大きな大剣をこちらに向けた。
反射的に空は化け物に背を向ける。
怯えるなんかよりもただ走るだけしかできなかった。
有海 空「(落ち着ける場所なんて、なさそうなんだけど……!! は、ハッキングとかできないの……!?)」
ヌル「(あれは油断している相手にしか使えない……)」
大柄の怪人「〜〜〜〜〜〜!!」
化け物は大剣を空に向けて槍のように投げて、空の横を通り過ぎて奥の壁を破壊する。
有海 空「ひぃ!?」
空は背筋を凍らせながら3階への階段登る、大柄の怪人が通れる幅ではなかったので追ってくることはなかった。
有海 空「(アレ、どうやって2階まで来たんだろう……?)」
ヌル「(アレはイケロスによって召喚された存在。多分、さっき2階のあの病室で召喚したと思われる)」
有海 空「(そ、そんなゲームみたいな……。……着いた)」
ヌル「(やっぱり、あなたはそこを選ぶんだね)」
目の前にあるのはいつもの病室の引き戸。
いつもなら軽く開けられるのに今は重く感じた。
あの最愛の妹が無惨な姿になる悪夢が何度もフラッシュバックする。
その度に空の息が荒くなる。
有海 空「(……こんなところで……!)」
空は勢いよく引き戸を引く。
ヌル「(…………)」
有海 空「玖弎……!」
そこには病室のベットで眠る妹の玖弎がいた。
目は閉じたままだけど、息はちゃんとしている。
手を握ると暖かい。
有海 空「っ……!!」
胸の中にあった恐怖とか色々なもの弾けそうになって、
気付けば目元が熱くなっていた。
有海 空「……夢なのか現実なのかもうわかんないよ……!」
ヌル「(……この世界で起きたことは現実世界にも影響を受ける。ある意味、現実と夢の狭間かもしれない)」
有海 空「ま、待って、それって、あの二人組に殺されたらーー」
ヌル「(……現実世界でも、事故や事件に巻き込まれて死ぬ。この仮想世界CUBEに仕組まれた運命という名の仕組まれたプログラムで……)」
有海 空「…………!? じゃあ、玖弎と一緒にここを出なきゃ……!」
ヌル「(……それはできない)」
有海 空「え……?」
ヌル「(有海玖弎に関する記憶消して、あなたを元の世界に帰す)」
ヌル「(それが有海玖弎の願いだから)」
有海 空「何を言ってるの……?」
ヌル「(玖弎はCUBEのプレイヤーの一人で私のパートナーだった……)」
有海 空「プレイヤー……?」
ヌル「(私はこのデスゲームの3体いるゲームマスターの一人だったけど、CUBEの破壊工作をしたことで排除の対象になっている。その時、一緒に破壊工作をしたのが玖弎……)」
ヌル「(そして、私たちは敵に敗北した……。私は声と意識以外全て失い、玖弎はCUBEによるブレインハックでマンションの屋上から飛び降りた……)」
空はそれを聞いて静かに妹の手を握ったまま俯く。
有海 空「…………どうして……? どうして、玖弎がそんな目に遭わないといけないの……? また、私は玖弎を見捨てなきゃいけないの……? それは玖弎が自分の意思で選んだ末の結末なの……?」
ヌル「(…………)」
有海 空「……また大事なことは何も教えてくれないんだね……」
有海 空「私って、やっぱり頼りないのかな……!」
有海 空「(まただ、また私はーー)」
○回想 公園のベンチ
半年前
夕陽が照らす公園で空と玖弎はベンチで座りながらお互いの手を握っている。
有海 玖弎「空ねぇ、今日は楽しかったっ」
玖弎はいたずらな笑顔を見せる。
有海 空「こちらこそ、久しぶりに玖弎と一緒に遊べて楽しかったよ……! ゲーセンでなんかフルボッコにされたけど……」
有海 玖弎「……ガンシューティングだけでは負ける……。まあ、その気になれば勝てにゅ! ひゃ、ひゃにお!」
空は玖弎は頬を軽く引っ張る。
有海 空「おねぇちゃんにそんなこと言う悪い子はこうだよー?」
有海 玖弎「…………」
空が玖弎の頬から手を離すと玖弎は黙ってジト目で空を見る。
有海 空「なんか玖弎ってやっぱり猫みたいだよね」
有海 玖弎「……一体どこがどう似てるのか教えて欲しい。私はにゃあと鳴かないし、あんなあざとく尻尾振ったりしない、いや、そもそも尻尾なんか生えていないっ」
有海 空「えへへ、どこだろうねぇー? まあ、そんなことよりも、はいっ」
空は小さなカバンから可愛らしいラッピングされた箱を渡す。
有海 玖弎「こ、これは……?」
有海 空「誕生日おめでとう! やっぱり、忘れてたかー……自分の名前と同じ9月3日が誕生日なのに」
有海 玖弎「名前が安直すぎることを思い出すから忘れてるだけ……」
有海 空「でも、そのおかげで私は365日ずっと玖弎の誕生日答えられるし、祝えるよ?」
有海 玖弎「空ねぇは別に私の誕生日がこの日でなくとも覚えてると思う……。その……ありがとう……。開けてもいい……?」
有海 空「うん、どうぞっ!」
箱を開けて取り出すと蓋をされたガラスのボトルが現れる。
ボトルの中には緑の自然が広がっていた。
有海 玖弎「テラリウム?」
有海 空「うん、今年は何を渡そうか迷ったんだけど、今回は自分の好きなものを渡してみようかなって……。ど、どうかな……?」
有海 玖弎「……空ねぇの好きなものを共有してくれて嬉しい……」
有海 空「よ、よかったぁ……! ……あのね、玖弎……」
有海 玖弎「ん?」
有海 空「……玖弎の抱えてるものも共有して欲しいな……」
玖弎の表情は一瞬硬直するが、何もなかったかのようにきょとんとする。
有海 玖弎「なんのこと?」
有海 空「……最近、ずっと帰りが遅かったり、家にいない時間が多いよね……? 何かあったのかなって……」
有海 玖弎「……別に大したことじゃないから、空ねぇが心配するようなことはない」
有海 空「嘘……思い詰めている顔をしてるよう時も多いし、何か巻き込まれたりしてるよね……?」
玖弎は空から目を逸らす。
有海 空「……っ!」
有海 玖弎「そんなことはないから。ほっといてもらって問題はーー……っ!」
有海 空「……私だけだったのかな……? 玖弎は大切な家族で信頼しているし、頼りになるし、何か辛いことがあったら相談できるようなそんな存在だよ。でも、私は玖弎にとって信頼も相談もできない姉だったのかな……? 私は本当に玖弎の姉なのかな……?」
気づくと何かが溢れて、目から流れているものと気持ちを空は抑えることができなくなっていた。
有海 玖弎「そらーー」
有海 空「ごめん、聞きたくないっ……!!」
有海 空「(この日、私は妹に初めて背を向けて逃げた)」
有海 空「(これが妹とこうして話せる最後だったかもしれないのに)」
有海 空「(ここで逃げなければ、あんなことにはならなかったのかもしれないのに)」
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