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【2話】 ドメインうぉーず! 〜EP1 空とNULLの姉妹〜
前回
2話
○病院
反射的に空は化け物に背を向ける。
怯えるなんかよりもただ走るだけしかできなかった。
有海 空「(落ち着ける場所なんて、なさそうなんだけど……!! は、ハッキングとかできないの……!?)」
ヌル「(あれは油断している相手にしか使えない……)」
大柄の怪人「〜〜〜〜〜〜!!」
化け物は大剣を空に向けて槍のように投げる。
それは空の横を通り過ぎて奥の壁を破壊する。
有海 空「ひぃ!?」
空は背筋を凍らせながら逃げている途中で階段を見つける。
階段を登ると大柄の怪人が簡単に通れる幅ではなかったので追ってくることはなかった。
有海 空「(アレ、どうやって2階まで来たんだろう……?)」
ヌル「(アレはイケロスによって召喚された存在。多分、さっき2階のあの部屋で召喚したと思われる)」
有海 空「(そ、そんなゲームみたいな……。……着いた)」
ヌル「(やっぱり、あなたはそこを選ぶんだね)」
目の前にあるのはいつもの病室の引き戸。
いつもなら軽く開けられるのに今は重く感じた。
あの最愛の妹が無惨な姿になる悪夢が何度もフラッシュバックする。
その度に空の息が荒くなる。
有海 空「(……こんなところで……!)」
空は勢いよく引き戸を引く。
ヌル「(…………)」
有海 空「玖弎……!」
そこには病室のベットで眠る妹の玖弎がいた。
目は閉じたままだけど、息はちゃんとしている。
手を握ると暖かい。
有海 空「っ……!!」
胸の中にあった恐怖とか色々なもの弾けそうになって、
気付けば目元が熱くなっていた。
有海 空「……夢なのか現実なのかもうわかんないよ……!」
ヌル「(……この世界で起きたことは現実世界にも影響を受ける。ある意味、現実と夢の狭間かもしれない)」
有海 空「ま、待って、それって、あの二人組に殺されでもしたらーー」
ヌル「(……現実世界でも、事故や事件に巻き込まれて死ぬ。この仮想世界CUBEに仕組まれた運命という名の仕組まれたプログラムで……)」
有海 空「…………!? じゃあ、玖弎と一緒にここを出なきゃ……!」
ヌル「(……それはできない)」
有海 空「え……?」
ヌル「(有海玖弎に関する記憶消して、あなたを元の世界に帰す)」
ヌル「(それが有海玖弎の願いだから)」
有海 空「何を言ってるの……?」
ヌル「(玖弎はCUBEのプレイヤー……コロニストの一人で私のパートナーだった……)」
有海 空「コロニスト……?」
ヌル「(私はこのデスゲームの3体いるゲームマスターの一人だったけど、CUBEの破壊工作をしたことで排除の対象になっている。その時、一緒に破壊工作をしたのが玖弎……)」
ヌル「(そして、私たちは敵に敗北した……。私は声と意識以外全て失い、玖弎はCUBEによるブレインハックでマンションの屋上から飛び降りた……)」
空はそれを聞いて静かに妹の手を握ったまま俯く。
有海 空「…………どうして……? どうして、玖弎がそんな目に遭わないといけないの……? また、私は玖弎を見捨てなきゃいけないの……? それは玖弎が自分の意思で選んだ末の結末なの……?」
ヌル「(…………)」
有海 空「……また大事なことは何も教えてくれないんだね……」
有海 空「私って、やっぱり頼りないのかな……!」
有海 空「(まただ、また私はーー)」
○回想 公園のベンチ
半年前
夕陽が照らす公園で空と玖弎はベンチで座りながらお互いの手を握っている。
有海 玖弎「空ねぇ、今日は楽しかったっ」
玖弎はいたずらな笑顔を見せる。
有海 空「こちらこそ、久しぶりに玖弎と一緒に遊べて楽しかったよ……! ゲーセンでなんかフルボッコにされたけど……」
有海 玖弎「……ガンシューティングだけでは負ける……。まあ、その気になれば勝てにゅ! ひゃ、ひゃにお!」
空は玖弎は頬を軽く引っ張る。
有海 空「おねぇちゃんにそんなこと言う悪い子はこうだよー?」
有海 玖弎「…………」
空が玖弎の頬から手を離すと玖弎は黙ってジト目で空を見る。
有海 空「なんか玖弎ってやっぱり猫みたいだよね」
有海 玖弎「……一体どこがどう似てるのか教えて欲しい。私はにゃあと鳴かないし、あんなあざとく尻尾振ったりしない、いや、そもそも尻尾なんか生えていないっ」
有海 空「えへへ、どこだろうねぇー? まあ、そんなことよりも、はいっ」
空は小さなカバンから可愛らしいラッピングがされた箱を渡す。
有海 玖弎「こ、これは……?」
有海 空「誕生日おめでとう! やっぱり、忘れてたかー……自分の名前と同じ9月3日が誕生日なのに」
有海 玖弎「名前が安直すぎることを思い出すから忘れてるだけ……」
有海 空「でも、そのおかげで私は365日ずっと玖弎の誕生日答えられるし、祝えるよ?」
有海 玖弎「空ねぇは別に私の誕生日がこの日でなくとも覚えてると思う……。その……ありがとう……。開けてもいい……?」
有海 空「うん、どうぞっ!」
箱を開けて取り出すと蓋をされたガラスのボトルが現れる。
ボトルの中には緑の自然が広がっていた。
有海 玖弎「テラリウム?」
有海 空「うん、今年は何を渡そうか迷ったんだけど、今回は自分の好きなものを渡してみようかなって……。ど、どうかな……?」
有海 玖弎「……空ねぇの好きなものを共有してくれて嬉しい……」
有海 空「よ、よかったぁ……! ……あのね、玖弎……」
有海 玖弎「ん?」
有海 空「……玖弎の抱えてるものも共有して欲しいな……」
玖弎の表情は一瞬硬直するが、何もなかったかのようにきょとんとする。
有海 玖弎「なんのこと?」
有海 空「……最近、ずっと帰りが遅かったり、家にいない時間が多いよね……? 何かあったのかなって……」
有海 玖弎「……別に大したことじゃないから、空ねぇが心配するようなことはない」
有海 空「嘘……思い詰めている顔をしてるよう時も多いし、何か巻き込まれたりしてるよね……?」
玖弎は空から目を逸らす。
有海 空「……っ!」
有海 玖弎「そんなことはないから。ほっといてもらって問題はーー……っ!」
有海 空「……私だけだったのかな……? 玖弎は大切な家族で信頼しているし、頼りになるし、何か辛いことがあったら相談できるようなそんな存在だよ。でも、私は玖弎にとって信頼も相談もできない姉だったのかな……? 私は玖弎の姉の資格があるのかな……?」
気づくと何かが溢れて、目から流れているものと気持ちを空は抑えることができなくなっていた。
有海 玖弎「そらーー」
有海 空「ごめん、聞きたくないっ……!!」
有海 空「(この日、私は妹に初めて背を向けて逃げた)」
有海 空「(これが妹とこうして話せる最後だったかもしれないのに)」
有海 空「(ここで逃げなければ、あんなことにはならなかったのかもしれないのに)」
○病院
ヌル「(…………)」
有海 空「……ううん、ごめんね……。……本当は……本当はわかってるのに……!」
有海 空「ただ自分が何もできないを思い知るのが嫌で逃げてるだけだって……! それが人を傷つけることだってことも……!!」
だから、玖弎があんなことになってから人と深く関わるのが怖かった。
また苦しんでいる人に覚悟もないのに上部だけ手を差し伸べて、逃げる臆病者になるのが怖かった。
有海 空「私、今日に至るまで誰一人傷つけたことが無いと言えるのかって聞かれたとき、すぐに否定できなかったっ……!」
妹しかいない空間で空の懺悔のような言葉が響く。
有海 空「私、悪い人と変わらないよ……!」
ヌル「(……空、少しいい?)」
有海 空「……?」
ヌル「(……私は有海玖弎になる資格はない。けど、有海玖弎が伝えたいことを伝えさせて。これが最後かもしれないから)」
空は何も答えなかった。
ヌル「(……私も空ねぇと変わらないよ。私だって空ねぇから逃げたんだから)」
有海 空「……!?」
ヌル「(……安心させる自信も、全てを打ち明けて頼る勇気もないから、私は遠ざけるふりをして逃げた……)」
ヌル「(……それが大切な人を傷つけたことから目を背けて)」
ヌル「(そして、今だってあなたを遠ざけようとしている……!)」
ヌル「(……こんな嘘つきで偽りばかりの私があなたの妹でごめん……なさい……! あなたの人生を滅茶苦茶にしてごめんなさいっ……!!)」
ヌル「(……だから、もうこんな妹のことなんか忘れて、普通に生きて……!!)」
顔は見えない。
でも、その声はあまりにも悲痛だった。
有海 空「…………」
ヌル「(…………これが最後に有海玖弎が……大切な人にずっと言えなかったけど最期に伝えたかったこと……)」
空は跪きながら握っていた玖弎の手を離して、フラフラと立ち上がり何もない壁の前に立つ。
有海 空「(何やってるんだ私はっ……!!)」
![](https://assets.st-note.com/img/1719057640053-cctYmSOPZ3.png?width=800)
ヌル「(……!?)」
空は壁に向かって頭を強く打ちつけた。
その後、深呼吸をすると何もなかったかのように妹のいるベッドの前に戻る。
有海 空「……ねぇ、私もあなたに伝えたいこと伝えていいかな?」
ヌル「(……そのあなたはどっち?)」
有海 空「どっちだろうね。でも、どっちでも伝わるって私は信じてる」
ヌル「(……)」
有海 空「……私、あなたを置いて逃げることも忘れて生きるつもりもないから」
ヌル「(どうして……? どうして、辛いのに怖いはずなのに……!)」
有海 空「……泣いてる妹を置いて逃げるお姉ちゃんはいないから……!」
ヌル「(……!!)」
有海 空「あなたが何を抱えて、どうしてこんなことになってしまったのかはわからない……。そして、何を隠していて何が嘘なのかも……。私にはその問題を解決する力は今はないのかもしれない。けどね」
有海 空「最期まで私はあなたのお姉ちゃんだから」
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