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ZOOM H3-VR を使ったバイノーラルサウンドの聴こえ方 #1 電車の通過音

ZOOM H3-VRの機能の一つ、「バイノーラル録音」を実験するため、試しに"踏切で電車が通過する音"を録音しに行ってきました。H2nのXYステレオ録音とH3-VRのバイノーラル録音の結果を比較して感じたことを共有します。音源もアップロードしておきますので是非ヘッドフォンで聴き比べてみてください。(スピーカーではバイノーラル効果を得られません)


ステレオサウンドとバイノーラルサウンドの比較感想

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H2nのXY方式で録音したステレオファイルは、左右の広がりよりも正面を捉えている印象が強く、電車が右から左へ通過する音の定位感は弱めです。踏切の警報音、鳥の鳴き声などもある程度距離感を感じることができ、全体的にまとまりがあって一体感のあるサウンドの印象です。


対して、H3-VRのバイノーラル方式で録音したファイルは、左右、上下、奥行きに広がりを感じ、踏切の「コンコンコン」という警報機の位置がなんとなく感じ取れたり、鳥の鳴き声も上のほうで鳴いているのが分かります。電車が通過するときの右から左へ走っていく様子もステレオファイルに比べて音の定位がしっかり感じ取れますね。個々の音が独立して聴こえる印象で、全体的に良い意味で分離して聴こえるサウンドです。


H3-VRのバイノーラル方式

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H3-VRのバイノーラル録音方式は、360度全方位の音を4つのマイクで収録するAmbisonics(アンビソニックス)と呼ばれる立体音響技術から得られる、Aフォーマットというデータから変換して作られる方式です。

ダミーヘッドを使って物理的に耳の形や頭の形から音の回折、反射を直接得るバイノーラルサウンドではなく、コンピューター処理によって得られる疑似的なバイノーラルサウンドです。
そのためバイノーラルサウンドとしての精度は、ダミーヘッドを使用したものより低いことは否めませんが、

・マイクが小型なので、外への収録でも取り回しが楽
・Aフォーマットから、Bフォーマット(FuMa,AmbiX)やステレオファイルに変換できるなど、柔軟性が高い
・Ambisonicsは音像を任意に変更できるので、収録後に音像を変えてからバイノーラルサウンドに変更することもできる

といったメリットがあります。


バイノーラルサウンドの課題

バイノーラルサウンドはステレオ録音された音に比べて、立体感や空間のリアリティが格段にアップするので、ゲームサウンドへの取り込みも積極的に行いたいところですが、ヘッドフォン、イヤホンをつけていないと効果を得られないところが課題です。スピーカーから聴くことも出来ますが、本来右の耳だけに伝えるべき音が左耳にも届き、左の耳だけに伝えるべき音が右耳にも伝わってしまうため、バイノーラル効果が得られず音像が崩れてしまいます。

また、ゲームに組み込んだときに音像をリアルタイムに変化させることができないのも課題です。サウンドノベルのような固定された定点視点のゲームであれば、バイノーラルサウンドは本領を発揮できそうですが、1人称視点でカメラが回転するようなゲームではカメラと同時に音像も回転する必要があるため、固定された音像でしか効果を得られないバイノーラルサウンドでは、期待した結果を得ることができません。こうした問題に対する対策は、

・ゲーム内オプションで、サウンド出力をヘッドフォンとしたときのみ、バイノーラルサウンドに差し替える
・カメラの動きに依存せず、音像が固定されている音にバイノーラルサウンドを使用する
・録音段階ではなく、ゲームサウンドエンジン側で出力時にバイノーラル処理を施す

といったことが思いつきますが、このあたりも実際に試してはいないので機会があれば試してみたいです。1人称視点のゲームでも、プレイヤーがアイテムを拾う、銃を構える、ジャンプする、などはカメラが回っても常に固定された音像で再生されることが多い音なので、これらの音をバイノーラル録音で作成した場合どのような結果になるのか興味があります。


まとめ

ステレオファイルと比べて,、上下や奥行きのある立体感を感じることができたので、ZOOM H3-VR は私のようにフィールドレコーディングを目的としたバイノーラルマイクとしても価値はあると感じています。また、バイノーラルマイクとしてだけではなく、Ambisonicsを基本としているため、VR映像との親和性も高く、導入コストも2021年6月現在、約23,000円くらいで販売されていますのでおススメです。

ZOOM H3-VR

イヤホンタイプのバイノーラルマイクなども試してみたいので、試す機会が得られればこちらも感想を共有したいと思います。
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効果音素材を専門に受注制作・販売するOGAWA SOUNDの小川と申します。「効果音をどんな手法、思考で作っているのか」、また「効果音に関する日常」を発信しています。

・ゲーム会社にゲームサウンドデザイナーとして約5年従事
・2021年現在、OGAWA SOUNDとして約9年間活動中
・Audiokinetic Wwise101.201技能検定認定ユーザー
・工学社出版 著書「サウンドエフェクトの作り方」

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