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『ZOOM F3 フィールドレコーダー』ファーストインプレッションレビュー

ZOOM社から販売されたフィールドレコーダー「ZOOM F3」のファーストインプレッションレビューです。発売発表からすぐに注目を浴び、ネットでは瞬く間に完売していく中、運よく入手することができました。

注目されている機能が、32bit float録音です。32bit float録音による恩恵は、ゲイン過大入力による音の歪みや、逆に録音時のゲイン入力が小さすぎてSN比が悪くなってしまう、といったゲインコントロールによる録音の失敗がなくなることです。F3はこの機能を手のひらサイズのコンパクトな本体に収めながら、外部入力を2ch備えています。

私は32bit float録音機能を備えたレコーダーをまだ持っていなかったため、ZOOM F3の発表を見てすぐに購入を決めました。これまで32bit float録音機能を備えたレコーダーは、「ZOOM F6」、「TASCAM Portacapture X8」などがすでに存在していましたが、どれも6~8万円の価格帯で32bit float録音のためだけに手を出すには少し躊躇をしていました。そんなところに約35000円の「ZOOM F3」が発表されたので購入は必然でした。

余談ですが私は小さいのにこんなすごい機能が詰まっている!というモノが大好きで、ミニファミコンなどのゲーム機のミニシリーズ然り、クルマであれば軽自動車でありながら電動式オープンカーであるコペン、携帯電話はプレミニという極小サイズの携帯電話をサービスが終了するまで使うほど好きでした。「ZOOM F3」のこのコンパクトさは、フィールドレコーディング時の携帯性と取り回しのしやすさに大きなメリットを感じます。

可愛らしいガジェットにも溶け込む

1.パッケージと同梱物

ZOOM F3 パッケージ

パッケージはこれまでのZOOM製品のパッケージからガラリと印象が変化。カラー印刷からモノクロになり、材質も段ボール素材で出来ており、必要最低限の構成という印象を受けます。

パッケージ開封

同梱物は、

  • F3本体

  • テスト用単三アルカリ電池2本

  • クイックツアー説明書

  • 保証書

  • 安全上の注意書き

というシンプルな構成。転送用のUSBケーブルなどオプション品はなく、こちらも必要最低限の内容で構成されています。


2.外観

手のひらサイズ

手に持ってみると意外にズッシリと重みを感じることができます。仕様には電池を含んで242gとの記載。Xの形で覆われた硬質な素材のおかげで、誤って落としてしまっても突起物がなければプラスチック部分や液晶画面に当たらないような工夫がしてあります。

液晶画面はモノクロですが、レベルメーターがなく波形がリアルタイムに表示されるのみなので、視覚性で不便に感じることはなさそうです。ゲイン入力のツマミが存在しないのが本当に新鮮です。


3.32bit float録音の実験

金具のガチャガチャ音を録音

さっそく32bit float録音を実験してみます。録ってみた素材は、写真のような金具をガチャガチャさせた音です。金具系の衝突音は、つんざくような「キン!」という高音が発生しやすく、マイクを近づけていた場合ゲインをかなり絞らないとすぐにレベルオーバーしてしまいます。

録音されていく様子

ここではわざとレベルオーバーするように少し大げさにマイクを近づけて「ZOOM F3」のディスプレイ表示で波形を拡大表示させてから録音をしてみました。ここで重要なポイントがあります。

「ZOOM F3」にはゲインツマミは存在しませんが、波形の拡大縮小ができるようになっています。このとき、波形と連動してモニターされる音量も波形に準じた大きさになるのです。
そのため、録音前に波形の拡大、縮小を操作して音量、音質の確認を行うことが大事。セッティングしたマイキングが自分のイメージする音質になっているかはここで確認を行うので、注意が必要です。

レベルオーバーしている(?)波形

録音されたファイルを波形編集ソフトに読み込ませると、上記のようにガッツリとレベルオーバーの表示が確認でき、聴感上も音が歪んでいるのがわかります。このようなファイルは通常復元不可能であり、16bitや24bitで録音された場合では「録音に失敗したファイル」として扱われます。

しかし今回試した32bit float録音では、こうした一見レベルオーバーしているように見えるファイルも、実は録音時のダイナミクスがしっかり記録されているのです。

ノーマライズ後の波形

先ほどのファイルを0dBにノーマライズしてみると、上記のように録音時のピークを0dBに合わせて縮小され、ダイナミクスがしっかり再現されています。もちろん音の歪みもまったく存在していません。素晴らしいですね。

どうしてこんなことができるかというと、浮動小数点という数値データを扱うことで、整数データよりもはるかに膨大なデータを扱えるようになるからだそうです。そのため、扱える音量の解像度が膨大となり、小さい音量も大きい音量も、拡大縮小したとしてもほぼ正確にダイナミクスを再現できてしまうとのこと。32bit floatの「float」が浮動小数点という意味なんですね。

実は32bit float録音自体は現在の一般的なDAWではほぼデフォルトで対応していて、コンピューター内部の処理については普通に行われています。試しにDAW内の音源でレベルオーバーさせたファイルを波形編集ソフトでノーマライズしてみると、さっきの例と同じように音の歪みがなく0dBにピークが合うことが確認できます。しかし、コンピューターの外から取り入れた音、例えばオーディオインターフェイスに接続したマイクの音などは、オーディオインターフェイスが32bit float録音に対応していなければ同じ効果は得られません。

「ZOOM F3」の魅力的なポイントは、この32bit float録音に対応しているにも関わらず、

・低コスト(約35000円)
・極小サイズ(腕時計のように腕にベルトで巻くことも可能)
・外部入力2CH対応

といった特徴を備え、さらには将来的には32bit float対応のオーディオインターフェイスとしても使えるようになることです。(公式では2022年3月にアップデートで対応)


4.各機能

正面

正面

正面から。モノクロ液晶画面と下部に4つのボタンを備えています。4つのボタンはどの画面表示をしているかで役割が変わり、液晶画面の最下部に表示される4つの役割が随時変化します。この4つのボタンを使って項目の選択や決定、キャンセルなどを行います。

モニター画面

本体の電源を入れるとその瞬間からリアルタイムに波形をディスプレイ表示します。音をモニターしているときには、画面が左右に分かれてそれぞれ、インプット1CH、インプット2CHの入力をリアルタイムで波形表示します。使わないチャンネルはオフにしておくことで電池の持ちを良くすることができます。

このとき4つの物理ボタンはモニターしている波形の拡縮ボタンと、各チャンネルのインプットマイクの設定を選択することができます。先にも述べましたが、録音前にこの段階でモニターする音量と音質のチェックを行いましょう。

項目選択時

メニューや項目選択をするときは、カーソル移動や決定、キャンセルといったUI操作を行うことができます。

手前側

手前側

側面手前。LINE OUT端子とヘッドフォン端子、ヘッドフォンボリュームの操作ができます。

左側面

左側面

再生、一時停止ボタンと停止ボタン、MENUボタンがあります。録音した素材を操作するときに使います。MENUボタンは、どの階層からも戻れるホームボタンとしても使えます。また、ファイル転送やUSB接続を行うためのUSB端子(Type-C)と記録用にmicroSDカードのスロットがあります。

奥側

奥側面

奥の側面。XLR入力を2つ備えています。コンボジャックではないので、フォーン端子は挿せないので注意が必要です。ケーブルが抜け落ちないようにロック機構がついているのが嬉しいですね。

右側面

右側面

HOLD & RECボタンと電源ボタン。RECへスライドさせると録音がすぐに始まります。プリ録音を設定しておけば、最大6秒までさかのぼって録音されます。記録サンプリングレートによって時間が異なり、

  • 44.1kHz、48kHzの場合 6秒

  • 88.2kHz、96kHzの場合 3秒

  • 192kHzの場合 1秒

となっています。また、少し見づらいですが、電源ボタンの左側に専用の無線アダプターを挿す端子があります。別売りの「ZOOM BTA-1」を挿すことで、スマートフォンアプリ「F3 Control」と接続してリモート操作を行うことができるのらしいですが、こちらは2022年3月のアップデート後に可能ということで楽しみにしています。

底面

底面

底面。電池ボックスと三脚やスタンドを取り付けるためのネジ穴があります。四隅の足にはゴム足がそれぞれついており、接地面を傷つけずに済むので嬉しいですね。

また、両端にベルトを通すための機構があり、マジックテープのベルクロなどを使えば本体を腕に巻き付けたり、ブームポールに巻き付けることもできるようです。

ブームポールに取り付けたい

このようにして取り付けたいのですが、ベルクロ探しに難航中。測ったところ、5cm幅のベルト幅だったので近くのホームセンターへ見にいたのですが、腕やブームポールに巻き付けられる短い伸縮性のベルクロが見つけられませんでした。自作しようとも思いますが、もう少しホームセンターを回ってみようと思います。(ZOOMさん、オプション品での発売待っています)


※2022年2月5日追記
なかなかホームセンターにベルクロがなかったため、ネットで探してみたところ、5cmx30cmのベルクロを試しに注文。結果、腕にもブームポールにも巻き付けることができ大変満足しています。ただし、ブームポールに取り付けるときには、ベルクロの長さが余ってしまうので折り畳んでから止めるとよいです。

腕に巻き付ける
ブームポールに巻き付ける

5.32bit float録音を活用するために

「ZOOM F3」のファーストインプレッションレビューでした。最初にお伝えしたように、32bit float録音は過大入力による歪みや、入力ゲインが小さすぎることで起こるSN比のノイズに悩まされないのが大きなメリットです。ゲインコントロールを行うことなく、安全に高いSN比で録音、復元できることはとても画期的で喜ばしいことです。いつも素晴らしい製品を作ってくださるZOOMさんに感謝です。

効果音制作においては、フィールドレコーディングで活躍することを期待しています。例えば、飛行機の離陸音、クルマのエンジンや走行音、花火、銃火器イベントなど、音量の起伏が激しい音の収録も、「ZOOM F3」を使えば、過大入力による失敗を防いでくれます。

また、将来対応する32bit float対応のオーディオインターフェイス機能も自宅内での録音に活躍しそうで、期待しています。

しかし忘れてはいけないのは、こうした技術進歩は事故や失敗を防いでくれるものであり、『録音時の最高音質』はマイキングで作るということです。ゲインコントロールという作業コストを解消してくれる32 bit float録音の恩恵を活用すれば、最高の音質を得るためのマイキングに時間や集中力をより注ぐことが出来るのではないかと感じました。

効果音制作として「ZOOM F3」が今後どのように活躍するのかは、しばらく使ってみて改めてレビューの機会を設けさせて頂きますので、よければ是非フォローをしてくださいね。それでは次回の記事もお楽しみに。


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