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田崎健太 作「横浜フリューゲルスはなぜ消滅しなければならなかったのか」

 ノンフィクション作家 田崎健太さんの著作は、大きくは、スポーツ分野と芸能分野に分かれ、これは、作名通り、スポーツ分野に類する作品です。
 私が、サッカーが好きだとか詳しい、といういうことはまるでありません。スポーツ分野では他に、野球やプロレスの作品がありますが、サッカー同様、野球やプロレスを、私が好きだったり、詳しかったりするわけではありません。でも私は、それらの著作を全て読んでいます。それは、田崎さんの作品のクオリティの高さゆえです。真摯な取材(インタビュー)から得たものを、多面的に整理して、事実(真実とは言えないでしょう)と思われる形に紡いでいくことから生まれてくる作品は、どれも、ノンフィクション作品として、その分野に無知な人をも魅了します。
 いまままでの作品が、個人にフォーカスを当てたものであるのに対して、今作は群像劇と言えるでしょう。横浜フリューゲルスの誕生から消滅までに、数多くの人々が登場します。そして、登場する人々の人生全てに、大きな影響を与えます。

 作品の詳細を書いてもしかないので、私の私観を書きます。
 ビジネスマネージメントの概念で、Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)サイクルというのがあります。「上半期の売り上げ10%増」などという目標を立てた時に、PDCAを行うことで、目標を達成しようと言うマネージメントです。「上半期の売り上げ10%増」程度の目標達成なら、PDCAでいいかもしません。しかし、『一からプロサッカーチームを作る』というような、目標というより偉業を達成しようとする時、PDCAでは、無理なのではないか、と思います。いや、マネージメント概念としてはPDCAでいいのかもしませんが、それを推進していく人に「強烈な信念と創造力」がないと達成することはできないでしょう。
 128ページに、木之本興三氏著作「日本サッカーに捧げた両足 ~真実のJリーグ創世記~」から「メーカーは工場建設からイニシャルコスト回収まで数十年スパンで考えていて、サッカーのチームを強くするのと一緒(安吾が略)」という引用があります。まさに「強烈な信念と創造力」です。
 なかには「強烈な信念と創造力」を持った方も登場します。特に、フリューゲルス成り立ちは「街の文化財」をめざし、スタートしますが、多くは企業の厚生である実業団スポーツから始まっており、集団主義と同調圧力しかない人々によって歪なPDCAサイクルが回され、フリューゲルスの母体会社に関しては、PDCAサイクルすら行われていません。
「横浜フリューゲルスはなぜ消滅しなければならなかったのか」と、私が訊かれたら「誰もリーダーシップと責任をとらない日本社会の縮図のせい」と答えるでしょう。
 私もサラリーマンです。サラリーマンですから、集団主義と同調圧力からのがれられません。選手を含む登場人物の一部の人々は、集団主義と同調圧力の中で、なんとかもがき、自分に正直にあろうとしており、そういう人々は幸せに見えます。一方、集団主義と同調圧力に抗わなかった人々は、不幸に見えます。何が幸せで、何が不幸かは、その人に価値観なので、一概には言えませんが。
 
 最後に146ページの田崎さんの取材方法について、触れます。田崎さんは、自身の取材精度をあげるための方法を、このページで述べているのですが、ものを作るクリエイターだけでなく、私たちサラリーマンも、このような「仕事の精度をあげる努力」をするべきですね。勉強になりました。

※写真は、羽田空港全日空出発カウンター前で撮影
#横浜フリューゲルスはなぜ消滅しなければならなかったのか


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