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3Dプリンタでサックスのマウスピースを作ってメルカリで2万円稼いだ話(設計思想やコツなども公開)


こんにちは。みなさん3Dプリンタ使って創作してますか?

このnoteはぼくが3Dプリンタで作ったサックスのマウスピースについてのお話です。設計しようと思ったきっかけやかかった期間、設計の流れや印刷時の設定、印刷後のヤスリ掛け処理、メルカリでの売り上げなどを語っていきます。

設計しようと思ったきっかけ

ぼくは小学校のころから11年余り、テナーサックスという楽器を吹奏楽部などで演奏してきました。大学生の何年かのころ、政府から10万円の給付金が貰えるということで3Dプリンタを購入、いくつか適当なものを作って遊んだりしていました。そのうち「サックスをやってきた経験を活かそう」と思い、マウスピースをモデリングして、メルカリで売って小遣い稼ぎをしてやろうと思っていました。

そのあと、作っては「クソムズい形しとってモデリングできんわ!」と匙を投げてはまた挑戦し・・・を1年くらい繰り返し、やっとテナーサックス用のマウスピースを製作。メルカリで出品したら案の定コメントで「アルト用は作らないんですか!?」ときたので「じゃ、他のも作るか~」となりました。Amazonやメルカリで本物のマウスピースとネック(マウスピースと本体の間のパーツ、サックスの上側の折れ曲がっている首的な部分)を購入、順次アルト、ソプラノ、バリトン用を製作するに至りました。

設計の流れ

画像はないのでわかりにくくて申し訳ないです。が、あんまりおおっぴらにしちゃうとよくないと思うのでざっくりと説明します。

①大まかに円筒形を作る → ②ピークやテーブルなど非対称な部分をさっきの円筒から削る → ③印刷してネックやリガチャーと合うか、音が鳴るかをチェック、合わなければ①の段階で寸法を0.1mm刻みで調整してやり直し。

これの繰り返しでやっていきました。とんでもなく時間がかかり、驚くほど多くの失敗作を生み出しました。創作とはそういうもんだと割り切ってやっていきましたが、かなりストレスフルでした。

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マウスピース、リガチャー、キャップの設計思想

マウスピースはいたって普通にラバーのものを模した作りですが、リガチャーとキャップはオリジナリティあふれる設計にしてもいいわけです。トライ&エラーを繰り返しながら、以下の特徴におちつきました。

マウスピースについて
・ 一般的なラバー(エボナイト)のマウスピースを模した。テナーはYAMAHA YTS-82Zを、バリトンはSelmer S80 Dを参考にモデリング。
・ なんなら本物のマッピについているリガチャーが嵌まるくらいビタビタに同じ寸法にした。
・ ローバッフルのロールオーバー型、ラージチェンバーのスクエア型にしましたが、ぶっちゃけよくわかっていません。参考にしたのがこの型だったのでこれにしたまでです。
・ リガチャー、キャップともにオリジナルの刻印を入れて自分の作品だとアピール。

リガチャーについて
・ 順ネジ1本締め
・ ネジは本物のリガチャーのネジを代用できるように、M4×15mm
・ ネジ部はタッピングしてちゃんと通るようにする(プラスチックなので無理やりネジ込めば入るには入るけど)
・ ネジはホムセンで買えるものに限定、ローレットネジがオシャレでまわしやすい。
・ 単純にリードを囲むだけだと脆そうなので、上と下にリブをつけて補強

キャップについて
・ コロコロ転がらないように多面体にする
・ 3Dプリンタじゃないとできないようなものすっごい形(あみあみとかトゲトゲとか)にするのはめんどくさかったので無難に8角形の末広がり型。
・ 隙間を長めにとって、プラスチックの柔らかさで適度に嵌まるようにする

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印刷時の設定

使用した3DプリンターはQiDi TECH社のX-Smartというもので、現在Amazonでは取り扱いしていませんが、2020年7月9日時点で4万3000円くらいでした。普通のFDM(積層式)の3Dプリンターです。ちょっとごつくてデカい。フィラメントは3000円くらいです。
↓以下、印刷時の設定をメルカリの説明文より引用↓

◆3Dプリンタの設定など
3Dプリンタ:QIDI TECH X-Smart
スライサー:QIDI Print
フィラメント材質:PLA
色:白
インフィル:マウスピース 100%、リガチャー&キャップ 15%
レイヤーの高さ:0.2mm
印刷時間:マウスピース 1時間53分、リガチャー 33分、キャップ 1時間19分
材料の長さと重さ:マウスピース 4.91m 15g、リガチャー 1.53m 5g、キャップ 2.21m 7g
ラフト:あり
サポート:無し
モデリングソフト:Autodesk Fusion 360

印刷時間については下記表にまとめました。

上の表を見てもらえばわかる通り、マウスピース単体であってもものすごく時間がかかります。なぜかと言えば、詳しくは後述しますが、3Dプリンターでは滅多にやらないインフィル(充填率)100%だからです。

ちなみに、もともとリガチャーとキャップは別々で印刷してましたが、「充填率(インフィル)が同じだから一緒に印刷していいじゃん」と気づいてからは同時に印刷するようにしていました。マウスピースは充填率が違うので同時には印刷できませんでした。これはスライサーソフト側の仕様かも。

マウスピースはなぜインフィル100%なのか

通常3Dプリンターでのものづくりにおいて、充填率、つまり『内側をどれくらい埋めるか』は、10~15%が相場のようです。適度に中抜きをすることで材料の節約、印刷時間の短縮を狙っているわけで、インフィル形状にもよりますがそんなめちゃくちゃ力を掛けるわけでもないのであればその程度の%で十分です。

しかし、いくつかの実験の結果、マウスピースの充填率が15%程度だとなぜか全く音が鳴らず、100%だと鳴るようになった、という経緯があります。厳密にじゃあ50%なら?75%なら?と試した訳ではないのですが、ともかく100%じゃないと満足のいく出来にならなかったのです。不思議ですね。

印刷後のヤスリ掛け処理

この工程もまた非常に重要です。というかやらないと音が出ません。
FDM式の3Dプリンタ製作物は表面に『積層痕』と呼ばれる細かい段差があります。マウスピースにおいて、リードが触れる面をテーブルと言いますが、この面はリードの密着性を高めるため滑らかである必要があります。耐水紙やすりの400~500番で、フェイシングとテーブルを、積層痕がほぼなくなるまで念入りに、かつ慎重に削っていきます。

また、バッフルはロールオーバー型といって先端(ティップ)の部分から緩やかなカーブを描くように削っています。精密棒ヤスリでちょっとずつ削りながら試吹します。この工程により、初期ロットよりも大幅に音が鳴りやすくなりました。体感ではほんのちょっとしか削っていないんですが、不思議ですね。

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メルカリでの価格設定と売り上げ

価格設定については、最初から薄利多売でいこうと思っていたので、Amazonで買える一番安いマウスピースよりちょっと高いくらい、新品はもちろん中古でもこんな安いことはない、といったレベルを目指しました。現在は1800~3000円に設定しています。当然ソプラノよりアルト、アルトよりテナーのほうを高く設定していますが、ちゃんと音が鳴るマッピがこの値段で手に入るのはちょっと考えられないくらい安いと自負しています。そもそもAmazon最安マッピ、僕も参考のために買いましたが、プチプチ袋梱包なのでリガチャーは潰れて使えないし、マッピも全然音が鳴りませんでした。1500円ドブでした。

意識したのはAmazon最安のほか、3Dプリンタ製マウスピースとしてすでに世に出ている『SYOS』です。こちらは新品で2万4千円ほどします。つうじょうのラバーやメタルの新品とトントンくらいの値段で、気にはなるけど手は出しづらいんじゃないでしょうか。ぼくは持っていませんが、マッピとしてのクオリティは間違いなくSYOSのほうが上だと思っています。プロ監修なので当然ですね。所詮ぼくのはアマチュアの趣味レベルを脱しません。

メルカリでの売り上げですが、おかげさまで累計40個ほどご購入いただき、送料を引かなければ6万円ほど、メルカリ送料などを引いた残高は4万円ほどです。しかし、メルカリ上での数字であって、実際は材料費は上述のアルトなどの本物のマウスピース購入費用などがかかっているので、黒字分は2万円ほどでしょうか。でも満足しています。3Dプリンタで量産できるから薄利多売でいこうと思っていてここまで稼げたので。

これからについて

4月から就職の関係で他県に引っ越すのですが、引っ越し先が狭く、3Dプリンタは持ち込めなさそうなので実家に置いていくことにしました。この記事の執筆中にも印刷をして、できる限り作って向こうに持っていこうと思っています。一区切りついたということでこの記事を書こうと思い立ったわけです。

『3Dプリンタさえあれば無限に在庫が増やせる』というシステムが崩壊した今、この記事とともにThingiverseに3Dデータを公開することにしました。3Dプリンタを持っている人は自分で作れるようになりますし、メルカリでの価格よりもずっと高くなるとは思いますが、DMM.makeでPLA以外の材料で作れるかもしれません。調べてないので知りませんが。

Thingiverseリンク

おわり


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