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Red Bull VS モンスターエナジーの顧客構造を把握する方法とは?

このnoteでは、マーケティングの名著「確率思考の戦略論」で紹介された需要予測法のガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルを使って2つのブランドの顧客構造を把握する方法を紹介します。Zoom研修【Excelでできる】確率モデルで需要予測の内容を一部紹介するものです。マーケティングに関わる方や書籍を読んだ方であれば、「Twitterで行う簡単な調査でこんなことが分かるのか!?」という気づきがあると思います。

自己紹介

(株)秤 代表の小川と申します。セールスプロモーション業界で4年、電通グループなどの広告会社の営業、プランナーとして10年強。データ分析を軸にしたコンサルティング支援で3年強。マーケティング戦略から戦術まで幅広く関わってきました。2018年11月には「Excelでできるデータドリブン・マーケティング」という書籍を出版しました。「TVCMやインターネット広告などのマーケティング施策が、それぞれ売上をどれだけ増やしているか?」数理モデルによって効果を推定し、予算配分の最適化試算まで行う、マーケティング・ミックス・モデリングを学べる書籍です。

業務委託でパナソニック(株)D-Locator’s HUBのアドバイザリーメンバーや、PR会社(株)カーツメディアワークスのフェローなど、複数の肩書で活動しています。

D-Locator’s HUBは、データを活用したマーケティングや商機の提案をパナソニック社内で横断的に行っているメンバーのチーム名です。Digitalizationへの道を拓くLocators(水先案内人)という意味が込められています。

追加情報(2023年12月18日更新)

クッキー規制で目減りする効果計測の課題を解決法をnoteにしました。無料で使えるMETA社の高機能なMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)ツール「Robyn」を徹底解説する2時間強のYouTube講義を公開しました。


2つのエナジードリンクとの関わり

レッドブル

10年ほど前、独身で30歳前後だった私はゴリゴリの広告代理店マンでした。喫煙は1日2箱で徹夜するときはもっと。レッドブルも多い日は5本くらい、平均して1日2〜3本飲んでいました。ということは、レッドブルとタバコに1か月で4万円位はつぎ込んでいたわけです。ほぼ毎日飲み歩き、週1日か2日飲み明かしていましたと思います。今となっては非常識な生活をしていました。唯一、健康的だったのは毎週末、仲間でサーフィンに通っていたことでした。今は引退していますが、当時好きだったミック・ファニングというサーファーをレッドブルがサポートしたのを覚えています。

10代の頃から、スケボー、サーフィン、スノボ、ヒップホップダンスやPUNKバンド、とエクストリーム系のスポーツや音楽を一通りかじってきた世代なので、レッドブルは自分にとって身近で恰好良いブランドでした。

モンスターエナジー

モンスターエナジーが日本で発売されたのは2012年だそうです。レッドブルを真似して量を増やした商品という印象で、なんだか、自分のブランドじゃない気がしていました。駅でサンプリングしていた時はちゃっかり、もらっていましたが、買うことは殆どありませんでした。

モンスターエナジーがレッドブルを抜いた!?

去年こんな記事を見かけました。

リード文は下記です。※上記記事より引用

拡大を続けるエナジードリンク市場。世界シェアトップは「レッドブル」だが、国内のドラッグストアやスーパーマーケットのPOSデータで見ると、「モンスターエナジー」(アサヒ飲料)が大差でレッドブルをリードする(True Data調べ)。その秘密は、若者への集中マーケティングだった。

ID-POSデータのTRUEDATA社は、拙書でコラムで紹介させて頂いたことあり、良く知っていました。データはウソをつくはずはありませんが、レッドブルに思い入れがある私は「嘘でしょっ!?」と思いました。

確率モデルで需要を把握

「確率思考の戦略論」では、マーケティングの分析に「最後にいつ〇〇したか?(ここでは飲んだか?)」というアンケート結果(専門用語でリーセンシーデータ)を分析することで、需要を把握できるガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルという手法が紹介されています。競合の東京ディズニーランドの来場数を推計する方法のひとつとしても使われたそうです。リーセンシーデータさえあれば、競合など、自社以外のブランド顧客の需要も構造的に把握することができます。

緊急事態宣言が解除され、日常を取り戻しつつあった2020年7月1日~2日にかけて、Twitterのアンケート機能と広告ターゲティング機能を使って、レッドブルVSモンスターエナジーでリーセンシーの調査を行ってみました。10代20代30代40代50代の男女の10セグメントに対して全国を対象に広告配信しました。設問はモンスターエナジーとレッドブルの2種類です。

20代の男性では、圧倒的にモンスターエナジーのほうが多く飲まれているようでした。

調査結果をそのままグラフ化

10代~50代男女の調査結果をバタフライチャートにしました。

バタフライチャート作成の都合で、女性は負の値になっていますが、実際は正の値です。「d」は「day(何日)」の略です。

図1
図2

モンスターエナジーのほうが、最近飲んだ方の割合が明らかに多くなっています。50代男女を見ると、~14d(=2週間以内に飲んだ)方の割合が40代よりも高くなっています。この結果には違和感を覚えました。50代のツイッター利用率は男性24.26%、女性が21.64%と年代全体の1/4しかないので、世代を代表する標本とはなっておらず、「50代なのにツイッターを使っている人」というバイアスが生じていると感じました。ここでは、50代男女の調査結果は使わず、分析を行っていきます。

※令和元年発表の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」のTwitter利用率を参照しました。【Excelでできる】確率モデルで需要予測の講義では、50代男女の調査結果で感じたバイアスの原因についての仮説も詳しくお伝えします。


各年代ごとに購買分布を把握

「確率思考の戦略論」で紹介されたのは、消費者の購買の回数の分布において共通する「法則」を用いることで需要を定量的に把握する方法です。その法則を再現する数式が下記に参照するNBDモデルの数式です。

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この数式で、ある一定期間における市場浸透率(Pr)を導くことができます。分布をつかさどる2種類の係数がMKです。は、自社ブランドを全ての消費者が選択した延べ回数を消費者の頭数で割ったものです。

例えば、レッドブルの総販売本数が2.4億本で、母集団となる国民の数が1.2憶人であれば、M=2です。観測データから簡単に求められます。は、消費者の購入確率がどのような分布の形になるかを決める係数です。MKという値が決まると、例えば2週間以内に購買した方は何パーセントか?期間別市場浸透率(Pn)という予測値も求めることができます。その予測値と実際のリーセンシーデータの値との誤差(正確には誤差のを2乗した値の合計値)を最小化するMKをExcelのソルバーという最適化計算ツールで求めます。

GIFアニメで操作イメージを紹介します。これは20代男性で7月1日以前の30日間のモンスターエナジー(つまり6月の1か月)のMとKを求める計算を行っているものです。

アニメ

MKを求めることができれば母集団人数(20代男性6,063,000人)のうち、6月1日~30日までの30日間で購買回数が0回だった人は60.48%、1回だった人は11.01%など、r回ごとの浸透率、オレンジ色のセルの(Pr)を計算し、購買回数ごとの人数や延べ購買回数を把握できます。

【Excelでできる】確率モデルで需要予測の講義では分析用のExcelシートを使った演習で、計算内容を丁寧に解説します。

年代ごとに購買回数の分布をグラフ化


さらに、10歳ごと性年代別の人数に対して4回以上買った人、3回、2回、1回買った人がそれぞれ何パーセントか集計しました。

※横軸は左右それぞれ40%上限に変更しています。50代男女はバイアスが考えられるため除外しています。

図3
図4

男女ともに、モンスターエナジーのほうが、月4回以上買う人の割合が圧倒的に多いことが分かると思います。これをさらに集計します。

図5

C列は年代性別ごとの人口です。D列はのべ購買回数です。E列のMはD(のべ回数)÷C(母集団の人数)で求めることができます。
G列では「4回以上購入した人」による購買回数を集計しています。H列ではG列の4回以上購入した人による購買回数が購買回数全体の何%になるか計算しています。

モンスターエナジーの10~40代男女の購買延べ回数は5,810万回(D15セル)で、レッドブルは2,191万回(D29セル)となっており、2.65倍の差となっていました。4回以上の購買者をヘビーユーザーと定義すると、モンスターエナジーの売上の80.76%(H15)がヘビーユーザーの購買によって支えられていることが分かります。レッドブルは57.01%です(H29)。レッドブルはヘビーユーザーをモンスターエナジーに奪われていることが推察されます。G列の値に注目すると、男性10代の一人あたり4回以上購買した方の総購買本数がモンスターエナジーが635.2万本に対して、レッドブルは64.2万本と、10倍近い差が開いています。若者のレッドブル離れがここまでとは・・・。正直そんな印象でした。

確率思考の戦略論で紹介されていた分析はExcelで実行することができ、購買回数の確率的分布を年代ごとに分析することで、顧客の構造を把握できます。調査を月次で行うことで、月ごとの需要も把握することができます。飲料はID-POSデータなど、消費者パネルデータがあるため、そうしたデータからも直接分析ができますが、飲食チェーンなどは、そうしたデータが手に入りづらいため、ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルの分析結果は、より貴重な情報となります。以下のnoteは、2020年のゴールデンウィーク明けに調査を行い、マクドナルドとケンタッキーのゴールデンウィークの需要を分析してみたものです。

ストアカで展開しているオンライン研修の【Excelでできる】確率モデルで需要予測では、ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルNBDモデルを活用するための分析用Excelを提供し、みなさんが分析を実務で使って頂くために、複数の演習を行っていきます。日本を代表するマーケターの森岡氏と今西氏に開示いただいた数式を、実際に使ってみたい方は、ぜひご参加下さい。書籍を読んだ方には、特にオススメです!



「シーン」と「コミュニティ」を支援するレッドブル


ここからは、分析者ではなく、レッドブル好きの個人として、ブランドのことを考えていきます。マーケターには周知の事実だと思いますが、レッドブルは売上の1/3をマーケティング予算にあて、さらにその1/3をスポ―ツに投資しています。スポーツへ莫大な投資を続けることで、数多くのスポーツを世に送り出し、育ててきたのです。

 レッドブルは膨大な額をスポーツに費やしている。年間総売り上げの3分の1をマーケティングに、そのうちの3分の1をスポーツに充てている。実に売り上げの9分の1をスポーツ・マーケティングにつぎ込んでいるのである。この二重の「3分の1ルール」がレッドブルのスポーツ帝国の原動力となっている。(下記記事より引用)

最近は、5G本格化を見据えたauとの事業提携が発表されました。「au×Red Bull Augmented Sports experience」のムービーを見ると、さまざまなスポーツを支えてきたレッドブルのフィロソフィーを感じます。私がレッドブルが必需品となっていたハードな生活を送っていた当時サポートしていたミック・ファニングから世代交代し、今は高橋カノアをサポートしているようです。映像の後半にかけて盛り上がっていくシーンで、全身レッドブルのウェアで、面ツルの波のリップに当て込んでカットバックを決めるカノアさんのシーンがすごく格好いいです。

日本のモンスターエナジーも、スポンサードしているアーティスト、マキシマム ザ ホルモンのBGMでエクストリームスポーツをテーマにした映像を作っていました。10代がコアターゲットでしょうか?若いって素晴らしい!

グローバルの映像では、こんなものがありました。SEXYな女性がちょいちょい映り込む演出が気になります笑。タトゥーびっしりのアスリートもいます。砂漠でいい大人が無茶しまくって、夜は、パーリーって感じで良い子は見ちゃだめ感満載です。若い男性がコアターゲットなので、それはそれで、正解なクリエイティブだと思います。

後発のモンスターエナジーと元祖(エナジードリンク)レッドブルとのコミュニケーション戦略の違いは何でしょうか?2020年5月25日に発売されたアスリート×ブランド 感動と興奮を分かち合うスポーツシーンのつくり方という書籍を読んでみました。

2007年にレッドブル・ジャパンに入社し、2010年から7年半、CMOとして日本におけるエナジードリンクのカテゴリーの確立及びレッドブルブランド製品を日本市場で浸透させてきた長田氏が著書として、ファンやアスリートとともに熱狂するスポーツシーンのつくり方を初公開し、企業がアスリートとスポーツを支援する本質に迫ります。同書では「シーン」「コミュニティ」という2つの言葉が多用されており、あくまで長田氏個人の解釈と説明されていますが、以下のように定義しています。

 例えば、ブレイクダンス(Breakking)の場合、「ブレイクダンスシーン」と言ったり、「ブレイクダンスコミュニティ」と言ったりすることがある。その違いは何なのか。私の定義はこうだ。「シーン」は、プレイヤーや仕掛け人、スタッフたちが中心となり、文化や価値観を醸成、発展させていく場。自部たちの文化の社会的地位や認知を向上させ、共に盛り上げていこうという共通の目的意識を持つための枠組み。
 対して、「コミュニティ」というともう少しその範疇は広く、”繋がりの場”と定義することができる。それはプレイヤーとファンとの繋がりだけでなく、ファン同士の繋がりからなる集団もまた「コミュニティ」に含んでいいだろう。ブレイクダンスカルチャーをシーンとして、集まり、繋がり、勝ちを共有し楽しむ枠組みが「コミュニティ」であると解釈したい。カルチャーを盛り上げようとする”共通の目的意識”が「シーン」にあるとすると、「コミュニティ」のなかでは皆共通して、”そのカルチャーが好きという気持ち”を持っている、と言えるだろう。

さらに同書より引用すると、

「レッドブルでは多くの場合、まず「シーン」へとアプローチすることから始めた。例えばそのスポーツの文化や風潮をかたちづくる起点となるコアな人たち、つまりプレイヤーやキーパーソンたちにレッドブル・ブランドを好きになってもらい、彼らによる発信から、あるいは彼らの言動から、ブランドラブをコミュニティ全体と波及させていく。一歩踏み込んで真摯にサポートするブランドとシーンの固い繋がり、あるいはシーンとブランドの固い繋がり、あるいはシーンからブランドへの感謝の気持ちを、コミュニティが察知して汲み取る。すると今度はコミュニティの中に「いつもシーンをサポートしてくれてありがとう」というブランドラブが醸成される。
 そうしてレッドブルは、様々なシーンやコミュニティとの良好な信頼関係を築き上げてきた。

レッドブルは、マイナースポーツをシーンからバックアップし、シーンの真ん中にいる、プレイヤーやキーパーソンとともに、信頼を築いてきました。TVCMでは、「レッドブル 翼をさずける」といブランドスローガンを伝え続けています。このスローガンが見据えているゴールは、レッドブルのプロダクトが売れることだけでなく、消費者がレッドブル・ブランドに背中を押されて、それぞれの目標を達成したり、夢に一歩近づいたりすることだそうです。

一方、モンスターエナジーは、レッドブル比較でのお得感を武器に、365日サンプリングを仕掛けまくって、スポンサードはスポーツよりターゲットへのリーチ効率がよさそうなアーティストに注力しています。シーンからバックアップするのではなく、大きな若者のコミュニティに効率的にアプローチする作戦です。俺たち、どーせ(レッドブルみたいな)資金力ないから、ゲリラ戦法で行くぜ!的な割り切りを感じます。フォロワーブランドのマーケティングの戦略(何かに注力し、何かを捨てる)としては、正解だと思います。そもそも、今は、フォロワーブランドではなくなり、日本市場では、トップブランドになっていることが驚愕です。

以下の記事では、モンスターエナジーが若者向けのサンプリングに注力し、スポーツ選手とのスポンサー契約が多いレッドブルとは違い、マキシマム ザ ホルモンなど、アーティストとのスポンサー契約に注力し、若い層の取り込みを狙っていること、またアーティストのほうが、より若者との接点が多くなることについて言及しています。

レッドブルよりモンスターエナジーのほうがお得ですし、レッドブルは、シーンから実直に支えてきたこと、モンスターエナジーが後発で差し込んできた、なんてことは、おそらく、若い方の購買行動には一切関係ないのかもしれません。ただ私は、さまざまなスポーツをシーンから支え、消費者やアスリート、アーティストたちに「翼をさずけたい」という想いで活動するレッドブルを支持したいと思います。

とはいえ、筆者も、モンスターエナジーもたまに飲んでます。仕事の時に飲むなど、長持ちさせたい時は、つい・・・笑

売上の1/3をマーケティングに注ぎ込むと決めているレッドブルのおかげで、多くのシーンやコミュニティ、アスリートたちが成長し、我々が驚くコンテンツを今後も届けてくれるはずです。スポーツや音楽で夢を成し遂げたい若者を増やしてくれるはずです。個人的には、レッドブルがまたトップに返り咲いて欲しいと思っていますが、マーケターとしてのフラットな視点では、ゲリラ戦法の割り切りによって、日本市場のトップを奪ったモンスターエナジー、天晴れ!といったところです。

今後、レッドブルがモンスターエナジーに対して、何かドラスティックな手を打つのか?気になります。この2つのブランドはどうなっていくでしょうか?他にも、ちょいちょい差し込んでくるブランドは今後もいるでしょうが、おそらく2強体制は揺るがなそうです。エナジードリンク市場を今後も興味深く見守っていきたいと思います。


2020年7月25日更新(追記)

飲まず嫌いしていた「モンエナ」で気になった「パイプラインパンチ」を飲んでみて、考察してみました!大学生の娘に聞いた「味」のバリエーションの拡げ方が上手いと思いました。(レッドブル派としては、悔しい気もしますが笑)

2021年1月11日追記

とうとう・・・レッドブルが2月1日から値下げの模様です。今後も追っかけていきたい2つのエナジードリンクブランド。いずれにせよ、若い世代、われわれ世代に活力を与えて続けてほしい、応援したいブランドです!

追加情報(2023年12月23日更新)

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