見出し画像

森岡毅氏はどうやって、うどんを外食で食べない9割に狙いを定めたのか?

(株)秤の小川と申します。日本を代表する数学マーケター森岡毅氏の「刀」社にあこがれて、「秤」という会社を作りました。

マーケティングの意思決定に必要なサイエンスや分析スキルなどを「秤」として、組織に浸透させるコンサルティング支援をしています。

このnoteのテーマはマーケティング戦略です。丸亀製麺を題材として、確率モデルの分析で戦略を仮説する方法を紹介します。

下記の森岡氏のインタビュー記事では、明確なブランディングができておらず2017年から低迷を続けていた同社が刀社とのパートナーシップによって「すべての店で粉から作る」店内製麺の強みを訴求し、2019年春から客数を増やし復活への道を歩み始めるまでの軌跡が語られています。

森岡毅氏単独インタビュー 丸亀製麺・復活の秘策

記事には、うどんを食べる人のうち、1割程度しか外食でうどんを食べないという言及があります。

まず伝えたかったのが、「お店でしか食べられないうどんがある」ということでした。外食時にうどんを選ぶ人の割合は、まだ低い。うどんを食べる人が10人いるとしたら、1人しかいない。

どうして、そんなことが分かるのでしょうか?

森岡氏と今西聖貴氏の著書「確率思考の戦略論」で紹介されていたガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルという分析で分かります。

「最後にいつ、うどんを食べましたか?」というアンケートから購買回数の分布を把握できます。その分析を用いて2021年5月(正確には5月中旬の調査時点から遡って1か月)に家で食べるうどんと外食で食べるうどんと丸亀製麺の購買回数を把握してみました。

プロジェクトでは調査パネルを使っていますが、ここではTwitter広告で簡易的に行いました。広告専用のツイートで3つの質問を用意しました。

・あなたは最後にいつ家でうどんを食べましたか?(飲食店のデリバリー、テイクアウトを除く)

・あなたは最後にいつ飲食店のうどんを食べましたか?(デリバリー、テイクアウトを含む)

・あなたは最後にいつ丸亀製麺のうどんを食べましたか?(デリバリー、テイクアウトを含む)

この3つの設問それぞれ、「14日以内」「14日~30日以内」「30日~90日以内」「90日以前、または食べたことがない」という4つの選択回答で聞きました。

ツイッターの10代(13~19歳)、20代、30代、40代の男性と女性の8セグメントそれぞれ日本国内をターゲットして広告配信をかけ、得られた結果が下記です。(例 40代男性 「丸亀製麺」)

この結果を元に書籍で紹介されていた計算を行います。

消費者行動の確率の法則の数式から得られる予測値とアンケート結果(実績値)の誤差を最小化する計算によってMとKという2つの係数の値を求めることで、調査時点からさかのぼって31日(この期間も任意に設定できます)で年代全体のうち、0回買った人、1回買った人、2回3回4回・・・買った人の割合が分かります。

画像6

筆者が開催する研修で提供している分析用Excelを使って計算したものです。

購買人数から、人口に対する外食うどん人口のシェアを導く

まず、カテゴリー需要として1回以上家でうどんを食べた人数と(飲食店のデリバリーテイクアウトを除く)と1回以上外食でうどんを食べた人数(デリバリーテイクアウトを含む)を年代性別ごとに整理します。

男性 

画像6

女性

画像6

「シェア」は外食うどんを食べた人数/人口としています。男性で39%。女性で31%です。家で食べる人数を母数をした場合は男性で72%、女性で54%です。女性のほうが家でうどんを食べる人数が男性と比較して僅かに多くなっています。

冒頭の記事には「外食時にうどんを選ぶ人の割合はおよそ1割」と言及がありました。刀社が丸亀製麺の支援を開始した2018年は、デリバリーとテイクアウトの需要は考慮せず、飲食店の店頭で食べる需要のみを想定した数字だったのかもしれません。感染症の影響から、デリバリーとテイクアウトの需要が増えたことも考えられます。

いずれにせよ、今は多くの方がうどんを外食で食べていると考えます。


(参考)下記のnoteでは、析方法を詳しく解説しています。


購買回数から、外食うどんに対する丸亀製麺のシェアを導く

うどんの需要を確認したところで、次は丸亀製麺の需要を分析します。次は購買回数で見ていきます。

男性 

画像6

女性

画像6

「シェア」は丸亀製麺の購買回数/うどん外食の購買回数です。(それぞれテイクアウトとデリバリーを含みます)。男性は25%、女性は39%です。男女とも13歳~19歳のシェアが突出しています。

女性のほうが家で食べるうどんの回数が多い一方で外食うどんを食べる回数は男性2,573万回に対して1,477万回と男性の57%しかありません。女性の外食うどんの伸び代があるかもしれません。

年代ごとの購買回数を可視化する

各年代性別ごとに1回買った人と、2回買った人の割合をバタフライチャートにします。

画像6

女性はマイナスの値となっていますが、実際はプラス値です。※グラフ作成の都合です。

1か月で2回以上丸亀製麺を食べる方の割合を年代ごとに見た場合、30代男性(5.47%)40代女性(4.83%)が特に多くなっていました。

今回は丸亀製麺を食べましたか?とひとくくりで調査しましたが、店内、テイクアウト、デリバリーと3種に分けて調査すれば、それぞれの購買回数を把握できます。競合ブランドとの比較もできます。

いつ聞くか?によってアンケート結果が変わるため、需要(分析結果)も変わります。よって、年代性別ごとに、競合ブランドそれぞれ、「需要の月次のダイナミックな変化を捉える」ことができるのです。その結果から戦略を仮説することができるのです。


「お店でしか食べられないうどんがある」を伝えるTVCMから読み解く

「すべての店で粉から作る」店内製麺の魅力を伝え、シズル感のある映像でうどんの魅力を伝えるTVCM。ブランドのタグラインは「ここのうどんは生きている」。

TVCMに出てくるうどんを食べている方、顧客の象徴は女性です。外食うどんの回数(男性比57%)の伸びしろを踏まえてのことでしょうか?女性は一人では外食に行かない方もいるかと思いますので、お店への入りやすさ訴求でしょうか?

お弁当のTVCMの顧客の象徴はビジネスマンらしき男性です。購買回数が2回以上の割合が最も多い(5.47%)のは30代男性でした。この世代を中心にランチ需要で頻度をさらに増す目的でしょうか?

「最後にいつ〇〇しましたか?」から、興味のあるブランドとカテゴリーの需要を構造的に把握して戦略を仮説することができます。


市場構造を見極め、ブランド成長の核となるメッセージを見極める

多くの企業のマーケティング課題に向き合い、わかってきたことがあります。ブランドの顧客について把握していても、カテゴリー需要を定量的に把握している企業はほとんどいません。ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルでそれを把握すると多くのケースで、思っていたよりも戦っている市場が狭いことが分かります。

大きな市場で戦い、中長期的でブランドを成長させるためには、「すべての店で粉から作る」「ここのうどんは生きている」の様に、最も注力するシンプルなメッセージを何にするか見極める必要があります。

それを決めるには綿密な仮説検証プロセスが必要です。私は統計や因果推論を学び、そうした検証法を突き詰め、マーケターに知識を共有する書籍を出版し、さらにそのノウハウをよりわかりやすく共有するオンライン研修も行っています。

ご紹介(拙書):Excelでできるデータドリブン・マーケティング

マーケティング意思決定のための統計や因果推論を学ぶことができる書籍です。

追加情報(2023年12月23日更新)

マーケティング・アナリストとして、どんな価値を提供しているのか?紹介しております。