森岡毅氏はどうやって、うどんを外食で食べない9割に狙いを定めたのか?
(株)秤の小川と申します。日本を代表する数学マーケター森岡毅氏の「刀」社にあこがれて、「秤」という会社を作りました。
マーケティングの意思決定に必要なサイエンスを「秤」として、組織に浸透させる支援をしています。
2024年6月26日更新
新著「『その決定に根拠はありますか?』確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング」Amazonでの販売を開始しました。
2021年から2024年4月までに行ったのべ96.6万人の調査からエビデンス・ベースド・マーケティングの法則を確認し使いやすく体系化したノウハウを紹介しました。このnoteで紹介する確率モデル(NBDモデル&ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデル)を応用し、エナジードリンクの場合は、5問の調査でTVCM(施策)→コンビニで商品を見た(要因)→売上がいくら増えたか?→年間16.67億円(効果)の様に構造的に効果を把握する国際特許(PCT)を出願した分析法など、戦略を導くために活用しているエビデンスの作り方を紹介しています。これ以降、本noteで紹介する分析は2021年時点の初歩の研究ですが、簡単な調査データから俯瞰して需要を捉えることができる方法です。
本noteのテーマ
このnoteのテーマはマーケティング戦略です。丸亀製麺を題材として、確率モデルの分析で戦略を検討する方法を紹介します。
下記の森岡氏のインタビュー記事では、明確なブランディングができておらず2017年から低迷を続けていた同社が刀社とのパートナーシップによって「すべての店で粉から作る」店内製麺の強みを訴求し、2019年春から客数を増やし復活への道を歩み始めるまでの軌跡が語られています。
森岡毅氏単独インタビュー 丸亀製麺・復活の秘策
記事には、うどんを食べる人のうち、1割程度しか外食でうどんを食べないという言及があります。
どうして、そんなことが分かるのでしょうか?
森岡氏と今西聖貴氏の著書「確率思考の戦略論」で紹介されていたガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルという分析で分かります。
「最後にいつ、うどんを食べましたか?」というアンケートから購買回数の分布を把握できます。その分析を用いて2021年5月(正確には5月中旬の調査時点から遡って1か月)に家で食べるうどんと外食で食べるうどんと丸亀製麺の購買回数を把握してみました。
プロジェクトでは調査パネルを使っていますが、ここではTwitter広告で簡易的に行いました。広告専用のツイートで3つの質問を用意しました。
この3つの設問それぞれ、「14日以内」「14日~30日以内」「30日~90日以内」「90日以前、または食べたことがない」という4つの選択回答で聞きました。
ツイッターの10代(13~19歳)、20代、30代、40代の男性と女性の8セグメントそれぞれ日本国内をターゲットして広告配信をかけ、得られた結果が下記です。(例 40代男性 「丸亀製麺」)
この結果を元に書籍で紹介されていた計算を行います。
消費者行動の確率の法則の数式から得られる予測値とアンケート結果(実績値)の誤差を最小化する計算によってMとKという2つの係数の値を求めることで、調査時点からさかのぼって31日(この期間も任意に設定できます)で年代全体のうち、0回買った人、1回買った人、2回3回4回・・・買った人の割合が分かります。
購買人数から、人口に対する外食うどん人口のシェアを導く
まず、カテゴリー需要として1回以上家でうどんを食べた人数と(飲食店のデリバリーテイクアウトを除く)と1回以上外食でうどんを食べた人数(デリバリーテイクアウトを含む)を年代性別ごとに整理します。
男性
女性
「シェア」は外食うどんを食べた人数/人口としています。男性で39%。女性で31%です。家で食べる人数を母数をした場合は男性で72%、女性で54%です。女性のほうが家でうどんを食べる人数が男性と比較して僅かに多くなっています。
冒頭の記事には「外食時にうどんを選ぶ人の割合はおよそ1割」と言及がありました。刀社が丸亀製麺の支援を開始した2018年は、デリバリーとテイクアウトの需要は考慮せず、飲食店の店頭で食べる需要のみを想定した数字だったのかもしれません。感染症の影響から、デリバリーとテイクアウトの需要が増えたことも考えられます。いずれにせよ、今は多くの方がうどんを外食で食べていると考えます。
購買回数から、外食うどんに対する丸亀製麺のシェアを導く
うどんの需要を確認したところで、次は丸亀製麺の需要を分析します。次は購買回数で見ていきます。
男性
女性
「シェア」は丸亀製麺の購買回数/うどん外食の購買回数です。(それぞれテイクアウトとデリバリーを含みます)。男性は25%、女性は39%です。男女とも13歳~19歳のシェアが突出しています。
女性のほうが家で食べるうどんの回数が多い一方で外食うどんを食べる回数は男性2,573万回に対して1,477万回と男性の57%しかありません。女性の外食うどんの伸び代があるかもしれません。
年代ごとの購買回数を可視化する
各年代性別ごとに1回買った人と、2回買った人の割合をバタフライチャートにします。
1か月で2回以上丸亀製麺を食べる方の割合を年代ごとに見た場合、30代男性(5.47%)40代女性(4.83%)が特に多くなっていました。
今回は丸亀製麺を食べましたか?とひとくくりで調査しましたが、店内、テイクアウト、デリバリーと3種に分けて調査すれば、それぞれの購買回数を把握できます。競合ブランドとの比較もできます。
いつ聞くか?によってアンケート結果が変わるため、需要(分析結果)も変わります。よって、年代性別ごとに、競合ブランドそれぞれ、「需要の月次のダイナミックな変化を捉える」ことを行うことで、戦略の検討や需要予測ができる様になります。
「すべての店で粉から作る」店内製麺の魅力を伝え、シズル感のある映像でうどんの魅力を伝えるTVCMで表現されているブランドのタグラインは「ここのうどんは生きている」。家で食べられるうどんの需要の総量を把握したことで、外食うどんの価値を再定義し、外でも食べたくなる、新しい需要を喚起しています。
市場構造を見極め、ブランド成長の核となるメッセージを見極める
多くの企業のマーケティング課題に向き合い、わかってきたことがあります。ブランドの顧客について把握していても、カテゴリー需要を定量的に把握している企業はほとんどいません。ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルでそれを把握すると多くのケースで、思っていたよりも戦っている市場が狭いことが分かります。
大きな市場で戦い、中長期的でブランドを成長させるためには、「すべての店で粉から作る」「ここのうどんは生きている」の様に、最も注力するシンプルなメッセージを何にするか見極める必要があります。
それを決めるには綿密な仮説検証プロセスが必要です。ここで紹介した確率統計や因果推論を駆使した効果検証や効果予測を突き詰め、マーケターにノウハウを共有しています。学びのプラットフォーム、ストアカではここで紹介したような戦略を決めるために役立つ数理モデル活用などのオンライン研修を開催しています。マーケティングを科学する方法にご興味いただける方はぜひご覧ください。
2024年6月26日更新
新著「『その決定に根拠はありますか?』確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング」Amazonでの販売を開始しました。
2021年から2024年4月までに行った96.6万人の調査からエビデンス・ベースド・マーケティングの法則を確認し、使いやすく体系化したノウハウを紹介した書籍です。このnoteで紹介した確率モデル(NBDモデル&ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデル)を応用し、エナジードリンクの場合は、5問の調査でTVCM(施策)→コンビニで商品を見た(要因)→売上がいくら増えたか?→年間16.67億円(効果)の様に構造的に効果を把握する国際特許(PCT)を出願した分析法など、戦略を導くために活用しているエビデンスの作り方を紹介しています。
2024年8月6日更新
マーケティング業界メディア「MarkeZine」でエビデンス・ベースド・マーケティングの実践的な内容でマーケターのスキルアップを後押ししてくれる一冊として紹介されました。確かなデータから戦略を導く方法をご自身または組織の武器にして頂けると思います。
以上となります。ここまでお読み頂きありがとうございました。