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本質的なDDM(データドリブン・マーケティング)を実現する為に。

このnoteはストアカで行っているマーケター向けのZoom研修「データドリブン・マーケティング道場」を紹介するものです。

自己紹介

(株)秤 代表の小川と申します。セールスプロモーション業界で4年、電通グループなど広告会社の営業とプランナーとして10年強、データ分析を軸にしたコンサルティング支援4年強。マーケティング戦略から戦術まで幅広く関わり、2018年11月に「Excelでできるデータドリブン・マーケティング」という書籍を出版しました。「TVCMやインターネット広告などのマーケティング施策がそれぞれ売上をどれだけ増やしているうか?」数理モデルによって効果を推定し、予算配分の最適化試算まで行うマーケティング・ミックス・モデリングを学べる書籍です。

業務委託でパナソニック(株)D-Locator’s HUBのアドバイザリーメンバーなど、複数の役割で活動しています。

D-Locator’s HUBは、データを活用したマーケティングや商機の提案をパナソニック社内で横断的に行っているメンバーのチーム名です。Digitalizationへの道を拓くLocators(水先案内人)という意味が込められています。

【2020年8月12日追記】
MarketingNativeインタビューでは、20~30代の若手マーケターの方向けに、キャリアのお話をさせて頂きました。


日本のDDMはなぜ進まないのか?

アクセンチュアとQlik Technologies Incが2019年9月に実施した、イギリスやドイツ、フランス、アメリカ、日本など全9ヵ国の従業員数50名以上の企業に務める正社員計9,000人(日本人は1,000名)の調査結果によると、「データを効果的に利用するために十分な準備ができていると回答した人は15%(グローバル25%)で、データリテラシースキルに自信があると回答したのはわずか9%(グローバル21%)」でした。
※以下プレスリリースより引用

世界と比較して、日本のビジネスマンがデータリテラシーに自信がないことが分かります。私は、これまでに多くの企業のマーケティング課題に向き合い、調査分析を行って来ましたが、今はそれを受託することを重視せず、研修やアドバイザリー支援に注力しています。

なぜか?

それは、これまでの経験でマーケティングの意思決定者に最低限のデータリテラシーがない状態で何をしても、本質的なデータドリブンは実現しないと分かったからです。では、そのために必要なリテラシーとは何でしょうか?まずはDDMについて、3つに分類し整理します。

DDMを三つに分けて考える。

一つ目は「トラディショナルなDDM」。二つ目は「カスタマーセントリックなDDM」。三つ目は「顧客理解を前提としないDDM」です。

本noteでは顧客理解という言葉を潜在的な顧客を含めた広義のものとして、人間理解に近い意味として用いていきます。

①トラディショナルなDDM

トラディショナルとは伝統的であるさまです。日本を代表するマーケターの森岡毅氏と今西聖貴氏による名著、確率思考の戦略論

で紹介された、消費者のブランド選択における確率的法則を用いた需要予測や、拙書で紹介した数理モデルで広告による売り上げへの介入効果を推定する方法などです。こうした手法は、10年以上前から一部のマーケティング先進企業では行われてきたものです。扱うデータも数千人程度の標本サイズの消費者調査データや数百日程度の時系列データなど、スモールデータです。統計や因果推論や確率モデルなどの学術的知識さえあれば、簡単に分析できます。

マーケティングの現場では、こうした基礎となるデータサイエンスが浸透していない状況です。私が設立した「秤」は森岡氏が経営するマーケティング精鋭集団「刀」

から着想を得たものであり、マーケターに本来必要なデータサイエンスを「秤」として提供し、日本のマーケターの意思決定を確かなものにすることをミッションとしています。

トラディショナルなDDMではデータ収集蓄積の基盤などの環境構築は前提ではありません。消費者調査データや時系列データのスモールデータ分析が主体となるため、Excelなどで扱える内容も多いです。しかし、統計や因果推論などの基礎知識があり、「調査やABテストなど定量分析における差に意味があるのか?」「因果関係を推定しても問題ないケースなのか?」などの意思決定を、適切に行えているマーケターは実は少ないのです。そうしたリテラシーが、マーケティング組織の意思決定による成功確率を大きく左右します。


②カスタマーセントリックなDDM

デジタルマーケティング時代の顧客中心思考によるDDMです。これを実現するにはCXD(カスタマーエクスペリエンスデザイン)が重要です。CX(カスタマーエクスペリエンス)とは、製品やサービスの認知から、検討、購入、情報共有に至るまで、企業と顧客のコンタクトポイント全体のことを指します。これを顧客目線で最適なものとすることを追求するのがCXDです。

スマホの普及以降、企業は顧客の行動をサイトやアプリのアクセスログやSNSの書き込みや実店舗での購買ログや位置情報などによって把握できる様になりました。どんなコンテンツを見て、どんな言葉で検索をして、どんな時にどんな商品を買っているか?こうしたデータによって顧客をある程度理解できる様になりました。こうした顧客理解のためのデータやデジタルマーケティングツールを活用して、顧客ごとにサービス体験を最適化していきます。昨今よく耳にするカスタマーサクセスD2CカスタマーセントリックなDDMの枠組みの中で捉えることができると思います。

カスタマーセントリックなDDMの要点は主たるデータとして顧客の行動ログをマネジメントし、顧客との関係づくりをコミュニケーションやサービスデザインによって行うことです。それをアシストするツール(DMPやMAツール、BIツール、WEB接客ツール)もよく活用されています。

しかし、行動ログで顧客の理解ができるようになったと言っても、取得できるログは対象ユーザーの行動のごく一部であり、顧客の考えを全て理解できるわけではありません。確かな戦略を導くためには顧客理解に必要な洞察力や仮説構築力、仮説検証力など、優れたマーケターの力が必要です。

日本初のCDO(Chief Digital Officer)として、オンラインとオフラインをまたいだ体験づくりを構築してきた長瀬次英氏らのインタビュー記事では、カスタマーエクスペリエンスデザインにおける重要な視点を学ぶことができます。

CXDは全社の経営改革という意識で臨まないといけません。例えば飲食チェーンが、ネットで注文を受けたら、ユーザーが店頭で並ばずにスムーズに商品を受け取れる「アプリを開発」するとします。この場合、検討すべきは店頭オペレーション改善を含む業務改革となり、アプリ開発チームだけでは完結しないものとなります。全社で取り組まなければ、競争優位の源泉となるCXは作れません。行動データを活かした素敵なCXをユーザーに提供し、ユーザーの行動データがさらに集まるサイクルを作ることがカスタマーセントリックなDDMの要点です。


③顧客理解を前提としないDDM

トラディショナルなDDMカスタマーセントリックなDDMでは顧客理解が前提となっています。今後、ビッグデータを活用した顧客理解を前提としないDDMが新たなトレンドになると思います。D非構造データも格納するデータレイクを構築し、AutoML(Automated Machine Learning)による予測や推定を駆使したDX(デジタルトランスフォーメーション)DATAFLUCTの取り組みを例に紹介します

データレイク+AutoML(Automated Machine Learning)

仮にみなさんが、全国のサッカースタジアムの最寄り駅前に出店している飲食店チェーンのマーケティング責任者だとします。ここではいったん新型ウィルスの影響がある前の想定で、収益を最大化するためのデータ活用を考えてみます。

まず、この飲食店チェーンの売上を左右する要因について仮説を立ててみましょう。各スタジアムで組まれる試合の内容や、どんなチーム同士が戦うか、対戦カードのこれまでの勝敗によって、来場数は左右されそうです。優勝争いなど白熱している時期、「特定のチームのファンが熱心に盛り上がっているか?」かきぬあトレンドを象徴する変数として、ツイートなどSNSの書き込みの状況によっても来場数に変化がありそうです。

また、天候や気温によって、来客数や飲食店で売れるメニューにも変化がありそうです。終電に間に合うかや試合の終了時間によっても来客数は変わりそうです。ほかにも、連勝でにわかファンが増えるくらい大人気のチームのサポーターが勝利後に来店するとたくさんお酒を飲むでしょうか?それとも弱くても負けても熱心なサポーターがいるチームのほうが飲むでしょうか?

マーケター目線で顧客を想像して考えると、様々な仮説や検証したいポイントが浮かんできます。店内のお客様の様子を詳しく観察して検証してみたくなってきます。これはマーケターの性(サガ)かもしれません。こうした顧客理解による仮説を検証する演繹的なアプローチが、既存のマーケティング業務におけるデータサイエンスであり、私も担ってきた役割でした。そうした仮説検証を大前提としないイノベーションが、非構造データも格納できるデータレイクAutoMLによって実現するDXです。

データレイクを構築し、気象や商圏情報、SNSなど、構造化・非構造化を問わず外部の様々なビッグデータと当該飲食チェーンが保有する売上や顧客の会員データなどを組み合わせ、探索的な分析をAutoMLで実装します。来客数や売れるメニューを精緻に予測するモデルから、過不足ない量の食材調達や、混雑予測の時間帯に合わせた最適な人員配置を実現すれば、収益改善によるリターンを得られます。

顧客の行動を仮説し検証する演繹的アプローチではなく、非構造化データを含むビックデータから探索する帰納的アプローチによって来客数や売れるメニューの予測に有用な要因を発見し、それを用いた精緻なモデルから意思決定の自動化を目指します。AutoMLにより、モデルの精度はアップデートされ続けるのです。

下記画像をクリックするとビッグデータと強化学習で在庫管理や人員配置などの改善を実現する需要予測サービス『DATAFLUCT forecasting.』のプレスリリースに遷移します

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ミクロ視点での意思決定

かつて低迷を続けたユニバーサル・スタジオ・ジャパンが「映画のテーマパーク」から脱却し、「世界最高のエンターテインメントを集めたセレクトショップ」へ転換したように、最も重要なコミュニケーションの方針を定義したり、ハリーポッターエリアに450億円を投資するなど、サービスデザインの注力領域を見定めるマクロ視点での意思決定においては優秀なマーケターの洞察力、仮説構築力や仮説検証力が必要となり、顧客理解が前提となります。

かたや、飲食チェーンの食材調達や人員配置といった日常的に各店舗で行われているミクロ視点での意思決定の積み重ねも業績を大きく左右します。データレイクAutoMLのビッグデータ活用による精緻な予測からミクロな意思決定を自動化することで大きなビジネスインパクトを得ることができる可能性があります。それが顧客理解を前提としないDDMです。ミクロな意思決定の改善から、年間40億円以上の効果があったと推察されるのがくら寿司の事例です。TBSのTV番組『がっちりマンデー』の2019年8月4日の放映回で紹介されたものです。

同社は、もともと各店舗スタッフが経験と勘によって回転レーン上に並べるお寿司のネタの順番を決めていましたが、ある時から全国で並び順を統一するオペレーションに変更し、本部の専任担当者の試行錯誤により、年間の廃棄ロスを10%から3%まで下げることに成功しました。

ここから紹介する数字は、番組内での紹介はなく、私がざっくりと弾いたものです。同社の2018年10月期の売上高は1,324億円で原価率は約50パーセントです。1,324億円が全て日本国内の売上ではないと思いますが、50%の原価のうち7%のロスを削減したことによる経済効果は46.37億円です。寿司の好みや仕入れは個人や季節、地域ごとの差があるはずなので、本来は全国統一ではなく、各店舗ごとに並び順を最適化したほうが効果が良いと思いますが、店舗スタッフがそれを合理的に数字で判断することは難しいと思います。そこで、意思決定を本部が全て引き上げ、顧客のペルソナから仮説するのではなく、全国統一のオペレーションで最適化の実験を繰り返すことで7%改善に至りました。これは、顧客理解を前提としないDDMの成功例だと思います。こうしたケースで、データレイクAutoMLで気象データなどのビッグデータを活用し、店舗ごとに、その日の最適なお寿司のネタの並び順や食材調達や人員配置を自動化する仕組みを実装することができれば、さらなる収益改善が見込めるはずです。同社は2020年7月に大手回転寿司チェーン初導入のAIアプリを実装したことを発表しています。2019年8月の番組放映で紹介されていた成功知見も、今は大幅にアップデートされているのではないでしょうか?

回転寿司チェーン「無添くら寿司」は、海外渡航などが難しいコロナ禍における「新しい仕入れ様式」として、ベテラン仲買人の目利きを学習したAI技術により、まぐろの品質を判定できるアプリ「TUNA SCOPE(ツナスコープ)」を導入した。



①②③のDDM、どこから着手すべきか?

①トラディショナルなDDM
②カスタマーセントリックなDDM
③顧客理解を前提としないDDM

についてはほとんどの企業が取り組んでいますがの基礎が不十分な状態で取り組まれており、小手先レベルに留まっているケースも多いです。で競争優位となるのは、全社で取り組むサービスデザインで他の追随を許さないCXを構築することです。大規模な投資判断をすることも必要です。そのためには、マーケターとしての洞察力とのデータサイエンスを総動員して、マーケティングのWHOWHATを定義する必要があります。

『新製品の需要予測とは「目隠しをして、初めてゾウを触ってどんな動物か知るようなもの」』。今西氏は、森岡氏に依頼されたハリーポッターの需要予測がまさにそのような状態だったと言及しています。

マーケティングを徹底的に科学して成功してきた森岡氏、今西氏らの取り組みは、多くのマーケターの心を突き動かしました。しかし、現実は「TVCMやインターネット広告などのマーケティング施策それぞれのROIが何パーセントなのか?」HOWの因果効果の推定すら、満足にできていない状況も多いと思います。そんな方にオススメする研修が「【Excelでできる】統計モデルで効果検証」です。

数理モデルを用いてTVCMなどのマーケティング施策の介入効果を推定する、または、得られたモデルから売上を予測することができるようになります。

以下のnoteをご覧頂くと、研修で共有する分析のプロセスをGIFアニメで直感的に理解できます。

このノウハウで、ROIが100パーセントを超えていない施策を把握できれば、そこに充てていたリソースをの実行に再配分することができます。

多くの企業、マーケターが取り組んでいるのはであり、「顧客理解を前提としたDX」と捉えることができます。データレイクAutoMLで予測モデルを活用するなど、既存のマーケティングの枠組みをハミ出るような先進的な取り組みであるため、マーケターは、これを「顧客理解を前提としないDX」として捉え、思考のスイッチを切り替えて推進する必要があると考えています。実際に着手し、予測モデルを検討するプロセスなど、データサイエンティストと会話をするときに、この講義で身につく「数理モデルによって事象を推定(説明)または予測する感覚」が共通言語のひとつになると思います。AI活用のイノベーションにチャレンジしていきたいマーケターのみなさんにぜひ、学んで頂きたい基礎リテラシーです。

マーケティングの名著、確率思考の戦略論では、日本を代表するマーケターの森岡 毅氏、アナリストの今西 聖貴氏が駆使してきた需要予測のガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルなどの分析を数式つきで詳しく解説されており、Excelのソルバーで計算する方法まで説明されています。しかし、この書籍を読まれた方の中で、実際に数式を組んで分析を行なった方は、どれほどいるでしょうか?データ分析の書籍や記事をどれだけ読んでも、実際に手を動かさないと、分析の基礎リテラシーの筋肉はつきません。手を動かして筋肉をつけた方は同じ文献から多くの知見を得ることができるようになりますが、筋肉がない状態でインプットを重ねても、筋肉がある方との知見の差が縮まることはありません。重要なのは、まずは手を動かしてみることです。その第一歩としてオススメする研修が【Excelでできる】確率モデルで需要予測です。

以下は、レッドブルとモンスターエナジーを分析したnoteです。「最後にいつ飲んだか?」を年代ごとに調査することで、顧客の購買回数の分布を構造的に把握することができます。

統計モデルで効果検証確率モデルで需要予測も、統計知識を前提とせず、Excelの基礎操作ができれば学べる内容です。前者は統計知識の解説もあり、より手応えがある内容ですが、AIを駆使するマーケターを目指すかたには、ぜひチャレンジ頂きたいです。2つとも3.5時間で6,800円です。

最先端のデータレイクAutoMLによる意思決定の自動化をのようにカテゴライズしましたが、これは、マーケターのみなさんに、顧客理解を前提としないDXもあることを知って頂き、視野を拡げてもらいたかったからです。CMOではなく、CIOの視点からDXをとらえた場合、マーケティングや広告などコミュニケーションにまつわるDXはほんの一部だからです。また、実際には、マーケティングでデータレイクAutoMLを活用する際は、顧客データのDWHを内包、または連動するアーキテクチャとして構築し、のような取り組みとしてチャレンジされています。


お気軽にご連絡ください

いかがだったでしょうか?「マーケティングの意思決定者に最低限のデータリテラシーがない状態では、何をしても、本質的なデータドリブンは実現しない」と考えています。では、本質的なデータドリブンを実現している企業はどんな状態でしょうか?私が考える、もっとも理想的な企業はワークマンだと思います。同社がこだわり、組織的に行っていることは、突出したデータサイエンティストを作らず、社員全員のデータリテラシーを底上げすることです。

ワークマンの成功について、「ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか」書籍の内容を参照し、DDMの実現に向けた視点を加えたnoteを執筆しました。(1.1万文字あるので、お時間がある際にお読み頂ければ幸いです)

私が支援するのも、本質的なDDMを実現するための知識の底上げです。先端のマーケティングに関わってきた経験、知見を活かして、マーケター、マーケティング組織に「秤」を提供しています。拙書や研修、アドバイザリー支援の内容について、お問合せ・ご不明点などございましたら、(株)秤のホームページまたは私のTwitterのDMにお気軽にご連絡くださいませっ!


追加情報(2023年12月18日更新)

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