マンガ・アニメーション感想「こうのふみよ・片渕須直『この世界の片隅に』のある瑕疵」


以前、こうの史代「この世界の片隅に」について、ある指摘を読んだことがある。すずが港の絵をスケッチしていたところ、憲兵に咎められ、すずの自宅まで引っ張られて、家族と一緒にこっぴどく叱られる。この場面について憲兵には逮捕義務があって、こんなやり方をしたら憲兵の方が業務怠慢だ、と。
ここで私は、このエピソードの元ネタと思われる、長谷川町子「サザエさん うちあけ話」を読み直して、文字通り「あっ」と驚いた。町子は憲兵に見とがめられた後、西日本新聞社が身元引受人となって開放?されるまでの詳細が描かれていないのだ。
となると、後は察しが付く。長谷川町子氏は、一度、逮捕拘束されたのだ。それが一晩か、例え数時間であろうとも、氏にとっては恐怖、憤怒、屈辱、羞恥の体験で、後年になっても漫画に描く気にはなれなかったのだろう。
だが作品発表後、私達読者、編集者、こうの史代、片渕須直に至るまで、この点を誰も指摘できなかったのだ。

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