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「お醤油搾りの会」レポート2023.12.24

2023.12.24に14回目となる「お醤油搾りの会」を開催しました。14年ともなると年末の恒例行事になってきて、自分たちのお醤油がないと歳を越せないような気持ちになってきます。
つまりそれが暮らしの中に溶け込んで食文化になっていく、ということなのかなと感じています。

12/24の朝はマイナス4度とものすごく寒かったのですが、陽が昇ってからはポカポカとした絶好の搾り日和になりましたー。
お醤油は薪で大量のお湯を沸かすため、雨だと作業の段取りが全く違ってくるのでありがたいです。

空が抜けるように青い!
3cm近い氷が張っていました。寒!

もろみ

まずは4月に仕込んだ「もろみ」を用意します。
仕込んすぐは濁った田んぼのようにチャプチャプだったものが、8ヶ月かけて熟成が進み表面は濃いこげ茶色になり、質感もまるで味噌のようにもったりとした状態に変わっています。

もろみの状態は麹や水分量にはじまって、仕込む時期や気温、水温、熟成させる環境、陽当たりなど、様々な要因によって変化するので毎年まったく違います。

昨年は水分量が足りず、樽の中で水に浸かっている部分と乾燥している部分がでてしまい、活動できる菌が変わったためか出来上がりにムラが出てしまいました…。

今年はもろみの水分量と生き物である微生物の暮らしを意識しながら管理するという目標を立てたことが功を奏したのかとても良い状態に仕上がりました。

搾り師さんからも「これは良い状態ですね!」と太鼓判をいただいてお醤油への期待が高まります。

搾り舟

搾り師さんの現場での最初の仕事は「搾り舟」の準備。水平器を使って慎重に組み上げていき、この舟の中に搾り袋に入れたもろみを並べて圧力をかけ搾ります。

この舟でしっかりと圧力をかけて搾ることで、もろみの中の旨味を余すことなく搾り切ることができるんです。

昔の集落のお醤油搾り

近所のおばあちゃんに話を聞くと、昔は各集落ごとに共同作業でお醤油を仕込んでいたそうです。
その時はもろみの中に竹ザルを突っ込んで、隙間から滲み出てきたものを使っていたそう。

ただこの方法だともろみの中の旨味を十分に引き出せないと思います。またお醤油として使える量も限られることもあり何度か水を足して使うため、最後はとても水っぽいものだったようですね。

しかもおばあちゃんにとって集落のお醤油仕込みは辛い作業だったようで「イオンに行ったら醤油なんかいくらでも買えるのに。あんたらは物好きやな」と言われてしまいました(笑)

羽釜とかまど

お醤油搾りには大量のお湯(最低でも120リットルぐらい)が必要になるので、ガスコンロなどで炊いていては追いつきません。そこで活躍するのが昔ながらの羽釜とかまどです。

わろうだには60リットルのアルミの羽釜と100リットルの鉄の羽釜があるのですが、薪の火力と羽釜の熱効率を考えたデザインは本当に凄い!釜に一杯の水でも短時間で沸騰させることができます。

お湯割り

まずはもろみを薪で沸かした約60リットルのお湯で割っていきます。このことで1樽でだいたい一升瓶33本のお醤油を搾ることができます。
また熱いお湯で割ることで大豆の油を溶かし、中から旨味をゆっくり引き出していきます。


この段階であたりに広がる香ばしいお醤油の香り!毎年この段階でテンションが爆上がりしますねー。

お醤油は仕込みから塩が溶け込むまでの1〜2週間は屋内に置き毎週天地を返します。
今日新しく聞いた話では、この段階で甘味は決まってしまうそうで、地味ですがかなり重要な作業です。

塩が溶け込んでからは樽を太陽の下、陽の当たる場所に移動して、1ヶ月に1回天地返しをしながら静かに優しく熟成させていきます。
この段階でアミノ酸などが生まれてグングンと旨味が増していきます。

その「天地返し」の作業がうまくできていたかどうかわかるのがこのお湯割りの時なんです。

上の写真を見てもらうと大豆の粒が綺麗に残っているのがわかります。これが重要なポイントで、天地返しを雑にしているとこの時点で大豆が潰れてしまっているんです。そうなるとお醤油をうまく搾ることができません…。

今年はもろみがかなり理想的な状態で(現時点では)お湯割り後の味見の段階でも、甘味、旨味、塩気、香り、余韻、後味などいままで最高の出来になりました!これはますます期待が膨らみます。

お醤油用のボーメ計で比重を確認します。
僕は仕組みはよくわかりません(笑)
今回は調整もなく一発でOK!気持ちいい!

搾り

ここまできたらいよいよ搾りの作業にうつります。まずはお湯で割ったもろみを搾り袋に入れて搾り舟の中に丁寧に並べていきます。

搾り師さんも真剣な面持ちでこの作業を慎重に、とても丁寧に進めていきます。

というのも搾りにはジャッキを使い凄い圧力をかけるため、袋のバランスが崩れていると搾りにムラがでるだけでなく、場合によっては事故につながることがあるからです。

もろみからお醤油に

ある程度搾り袋を並べていくと自重でお醤油が流れでてきました!この瞬間は何度経験しても込み上げてくるものがあります。

この時点ではまだ不純物が多く濁った色をしています。味見をしても雑味があるのですが、それでも十分美味しい!

ここから少しずつ圧力をかけて大豆の中に閉じ込められている旨味を搾っていきます。

そして流れ出してくる赤みがかった透明感のある澄んだお醤油!

最初の方と色がまったく違います!

味見するとみんな「うわー!」と思わず歓声を上げるほど美味しいお醤油に仕上がっていました!
8ヶ月に渡ってもろみを育ててきた苦労(というほどのことではありませんが)が報われる瞬間です。

最後に流れでて来る澄んだお醤油は不純物が少なく、火入れをせずに「生醤油」としてそのまま使うために残しておきます。それ以外のお醤油は最後の作業「火入れ」にうつります。

火入れ

搾ったお醤油は生醤油を除いて、一度88度まで温度をあげて火入れをします。
こうすることでアクが浮いてきて雑味を取り除くことができると同時に、過発酵を抑えて味や品質を一定に保つことが出来るようになります。

毎年結構な量のアクが浮くのですが、今年はアクも驚くほど少なくて、もろみの状態の良さを裏付ける結果になりました。

火入れを終えたお醤油は樽に戻して1週間ほど静かに置いて不純物が沈むのを待ちます。

不純物が沈んだところで上澄みの部分から順に「1番醤油」「2番醤油」「オリ入り醤油」と3種類に分けて参加者全員で平等に分けます。

だいだいいつも参加者1人「お醤油一升瓶2本半+生醤油500ml」ぐらいの量を持って帰ることができています。

お楽しみタイム

さてお醤油が流れでてきた素晴らしいタイミングでお昼ごはん。搾りたてのお醤油を使ってお楽しみの時間です。

昨年はみんなで粉からうどんを打って生醤油うどんにしたのですが、今年は団子になりましたー。

お湯を沸かした後の炭で団子を炙り…

搾りたてのお醤油をつけたら出来上がり!味はもちろん文句なしです!

団子の次は毎年必ずやる「搾りたて醤油ごはん!」搾り舟からポタポタ落ちる最後の醤油をごはんで受け止めるという最高に贅沢な食べ方。

さらに参加者の1人の猟師さんが今シーズンに入ってから捌いた鹿肉を持ってきてくれました!豪快に炙って…

こちらはワサビ醤油でいただきました!
とても上手に捌く猟師さんなのでまったく臭みもなく最高に美味しい鹿肉でした!

お醤油を仕込むということ

こうして今年も無事に自分たちのお醤油で新年を迎える準備ができました。

14年前の2010年から仕込みはじめたお醤油。
その間、東日本大震災やコロナも経験しながら途切れることなく今日まで続けることができています。

終始穏やかな搾りの作業の途中、搾り師さんが呟いた「お醤油仕込みは祈りに近いと思うんです。」という言葉がとても印象的でした。

僕たちが仕込んでいる天日にあててお醤油を仕込むやり方は、92歳で亡くなられた故萩原忠重さんが、戦後もののない時代に日々の調味料すら手にすることが難しいお母さんたちの姿を見て、誰もが家庭でお醤油を仕込めるようにと自らの生涯をかけて生み出した方法です。

今は手軽に何でも手に入る時代ですが、僕たちはお醤油を通してこの萩原さんの想いを受け継ぐことを大切にしていて、毎年仕込みの前に萩原さんのドキュメンタリー映像をみんなで見るようにしています。

この映像はyoutube上に公開されているので、リンクを貼っておきますのでよければ一度見てみてください。

◾️NBS月曜スペシャル 萩原忠重

みなさんがこのお醤油と共に良いお年が迎えられますように願っています。
また来年も美味しいお醤油を仕込みましょう!


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