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個人的に思う3つのウェールズ

俺はオフィスではSpotifyを使って、イヤフォンとか使わずにスピーカーから自分のプレイリストを流したりするのだが(日本でやったらぶっ殺されるが)、日本から来たばかりのころ、俺のプレイリストを聴いた同僚が不思議そうな顔をして尋ねてきた。

「オガサン、マニックスとステフォどっちも好きなの?」

マニックス:マニック・ストリート・プリーチャーズ
ステフォ:ステレオフォニックス

俺は「どっちもウェールズのロックバンドだし、似たような世代だろ。なんか変?」と聞くと「いや、普通はどっちかが好きなんだよな。両方ってのは珍しいなと思って」と言う。

マニックスとステレオフォニックスに、そんな差はあるかなあ、とその時思ったのだが、この国(英国じゃなくてウェールズ)に住んでもう6年以上経つと、すこしづつだけど彼の言ってたことは、こういうことかな?という風に最近思い始めた。

今回はその違いを含めて、俺的に考えるウェールズの3成分を勝手にカテゴリ分けして記したいと思う。


成分1:トム・ジョーンズ的ウェールズ


これはめっちゃわかりやすい。母なる(ウェールズの国歌だと父だが)大地!我が谷は緑なりき!羊!そんな中でラグビーを楽しむおっさんと、ヴァレーのオカンを考えればほぼ間違いが無い。ちなみにどちらも半ケツは見せる。その辺は男女平等である。

毎年ラグビーのシックスネーションズでは大騒ぎし、国民服(ウェールズ代表ユニ)を着て、そしてセント・デービッズデイには水仙を買い、ウェルシュケーキをつまむような、ウェールズのハッピーサイドである。

この成分のおかげで俺が助かっているのは、「(肌の色に関係なく)ウェールズの服を着てたら仲間や」という、なんだかよくわからない度量の広さ(逆に狭いのかもしれんが)がある。

俺の個人的な感覚だと、単なる東アジア人が道を聞く場合と、ウェールズのユニをまとって聞く場合とを比べると、そのもてなし度は前者に比べて後者は143%くらい増す。それにラグビーW杯でのウェールズ国歌を歌う日本人の映像は、本当に彼らの琴線に触れたのである。あれはウェールズ人じゃない俺すら感動した。

この成分、基本センスはダサい部類なのだが、俺はそのダサさに大変魅了されている。「ええ国や」感を心底感じる成分である。

この成分が爆発するのは、やっぱりシックスネーションズでのホームでの国歌斉唱のシーンである。


成分2:マニック・ストリート・プリーチャーズ的ウェールズ

成分1は、おおよそ誰もが感じるわかりやすいウェールズなのだが、ある意味ウェールズの(悪い意味での)ステレオタイプも意味するわけである。それに対してこの成分2は、成分1を含みつつも、ウェールズのアイデンティティや政治の問題なんかに踏み込んだ成分である。

この成分は、ドンヨリとした空の下、不条理な抑圧への怒りや苦悩を持つ成分である。イングランドの繁栄の陰を支えつつも、切り捨てられる歴史がある国ならではなのかもしれない。成分1が農家のおっさんなら、成分2は真面目な(ちょいと左寄りな)大学生感が強い。

ちなみに冒頭で貼った動画は、カペル・ケレンといって、イングランド(リバプール)の水道事業のためにダムに沈められてしまった、ウェールズの悲劇の村について歌った曲だ。

実はウェールズにも独立運動の団体があって、この悲劇はよく彼らのモチーフになる。そんなウェールズの静かな悲しみと怒りが成分2にも入ると言える。

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この村の悲劇を忘れるな、という落書きはモニュメントになっている。ちなみに横にあるヤシの木みたいなマークは、ウェールズ独立運動グループFree Wales Armyのマークである(今は存在しない)。アイルランドの過激派グループから武器供与の疑いがあった。

俺がこの成分2を最も感じるのは、ウェールズが産んだ詩人ディラン・トマスのこの詩である。


成分3:ステレオフォニックス的ウェールズ

成分1,2は結構スケールが広いのだが、この成分3は、そのへんの”ウェールズのガレージ(車の修理工場)”感が強い。

ガレージは多分英国では全般的にそうだと思うのだが、ちょっとあんまり地価が高くないようなとこにあって、けっこうゴミとか散らかってるようなとこが多いのだが(てか俺のオフィスがあるとこだよ!)、上の曲に合わせたBBCの映像が、マジでこんなかんじである。

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油臭いフードバン、車の廃棄場、閉鎖した村のビンゴホール...ほぼ観光客なんかゼロみたいなヴィレッジ。基本ウェールズは裕福なところが多いわけではなく(あるっちゃあるが)、ちょっと郊外に車ででかけると、こんな集落によく出くわす。

成分1にも2にもあまりないのが、この格差と言うか層と言うか、そういうもののである。ウェールズだとどうしても(表向き)隠れがちになるのだが、どこの英国に行っても同じ問題はあると思う。

ただ、そこにあのウェールズの空の暗さが重くのしかかり、救いようが無いように思えることもしばしばある。

そんな鬱蒼とした状況をよく表しているのが、ウェールズ産の小粒だが質の高い犯罪ドラマ「Bang!」である(日本未公開)。舞台はカーディフとスウォンジーの間の工業の街。

ちなみにその同じ街を舞台にしたものに、ワンチャンスという映画もある。


どちらも結末は真逆だし、ジャンルも全然違うが、2つとも同じ舞台の街での不安を表していると思う。

再度3つの成分

この3つの成分は特に反目してるわけではなく、かなり重複している。でも、どこかでお互い少しだけはみ出ている。

きっと最初に同僚に言われた「ステフォとマニックスを一緒に聴く違和感」というのは、そこのはみ出た部分なのかもしれない。

俺はやっぱり外国人なので、このウェールズ社会の中でわからない線がまだまだあるのだが、同じウェールズっつても色々違う面があるのが、またこの国の魅力的の1つなのは確かである。

今後おそらくは、日英貿易協定もあって、日本でもっとウェールズはメジャーになると思うし、またNetflixとかで、日本でもウェールズ産のドラマを見る機会を増えると思うのだが、その時にちょっとでもこの3成分を思い出してもらえれば幸いである。


…と、こんだけ書いて今言うのもなんだが、あの同僚は毎度テキトーだから、それはその同僚の勝手な思い込みだろ!で終わることだったらどうしよう。

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