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英港不味道(英国・香港のマズいどう)

かつては「隔離道」で名を馳せた俺。だが、最近名乗っても良いのではないかと思っている道、それが「不味道(マズいどう)」である。

英国で7年暮らした俺は、おそらく英国の不味い飯は一通り経験したはずである。柔道で言えば黒帯くらいはもらえるハズだ。

一方、香港では今年で2年目に突入し、ある程度の不味い飯は体験した。そろそろ白帯は卒業するくらいであろうか。茶帯くらいではないのか。

そんな俺が、「世界最高に飯が不味いとされる国・英国」と「世界最高峰のグルメ水準の国・香港」の飯の不味さがどう違うのか、をみんなに話したいと思う。

そして俺が提唱する「不味道」とは何か、それをわかっていただければ幸いである。


■英国の飯の不味さ

「英国の飯が不味い」とみんな言うが、黒帯の俺からすると、そんなものは“私は素人です”と告白しているようなものである。

「不味道」は(後述するが)生き様であって、感想や聞きかじりの情報で語るような、そんな甘いもんじゃないのだ。

そもそも、英国の飯が不味さは、ジャイアンシチュー的な不味さではなく「味付けがやたら薄い(無い)」系であり、料理の味の前に「(なんか水っぽい)素材の味」が来るからである。その悪の部分が足し算になり平均化されて「結局まとまりのない、よくわからない味」なのだ。

個人的には要するに「出汁が無いからダメなんだよ!」の一言に尽きるのだが、不思議なことにその不味さはソフトである。「まっずいなー」と言いながら食えるといえば食えるレベルである。何と言っても、最後はドリトスとコーラでなんとかなる(というか舌を痺れさせるライフハック)んだなコレが。

俺はMAXのほうが実は好きだけどな!

しかし、これが恐ろしいことに、おそらくこの「ソフトな不味さ」というのが厄介で、日に日に精神と身体を蝕み、ストレスがマイレージのように蓄積されていく。

そしてついには「もう、もう…英国!お前には愛想が尽きたんじゃー!」と堪忍バッグの尾がブチ切れ、Twitterやインスタ上で「今日はテムズ川沿いで、美味しいオイスターをいただきました」とか見ると即ブロックするような、我ながらただのやっかみでしかない、しょうもない日々が続く。

こうなると、応急処置を施さないと精神的におかしくなるのだが、そういう時は、絶対に裏切られない韓国の辛ラーメンを買って食うに限るわけである。「味がする!出汁の味もする!ありがとうコリア!」と泣いて、HPはやや戻る。二度言うが「やや」である。

在英邦人は、こうして常にHPがゼロ近くを上下しているわけ(平均値はマイナス)で、そこでチャラく「英国の飯って不味いんでしょw」とか言ってる奴らを見ると「お前にこの、この無限地獄の何がわかるんじゃー!」とブチ切れてしまうのだ。

逆に「そんなことないでしょ?英国は美味しいよ!私の食べたテムズ川沿いの(以下略)」という投稿を見ると「お、お、お前に何がわかるんじゃ-!」と、テスコ寿司や、ケチャップを飲んだ直後みたいな後味のフードバンの生焼けバーガーを口に突っ込みたくなるわけである。

英国を離れると、ちょっとだけ食いたくなるが、多分それは罠。

この鬱蒼とした感情が発生した場合、俺の脳内Spotifyでは常にTravisやRadiohead、Snow Patrolあたりが流れていた。やはり英国の不味さには、UKロックが合う。


■香港の不味さ

一方、香港である。

俺は香港に来る前は”どこの飯屋に行っても、厨房の二の腕がムチムチのデブがフライパンを一生懸命降って、くっそ美味い飯を出してくれる国”と思っていたが、そんなことはなかった。おそらく俺はビッグ錠の漫画の読み過ぎである。

漫画界のラモーンズ・ビッグ錠の名アルバム「スーパーくいしん坊」

よって、やはり香港にも不味い店がある。その不味さが英国と違うのは、「頭が割れそうになるくらい不味い」レベルのものが存在する。

とびきりに☆不味い!ってやつだ。


コレはおそらく英国と違い、”味付けの存在感”があるからだと思うのだが、そのせいか不味さは、悪い部分の平均ではなく、悪い部分が掛け算になるダメージ量なのである。

意外だが英国で俺は、味のせいで残したことはほぼ無かったのだが(胸焼けして残す場合が多い)、ここ香港では「MAJIで食えねえんだよ!テメエよう!」と、男女問わずブレイキングダウンのオーディション出場者バリに、誰かに殴りかかる勢いのものに遭遇する。それも結構な頻度である。

Breakingdown めっちゃ好きなんだよ俺は!

ただし香港が素晴らしいのは、それを打ち消すくらい本当に美味いもの、も同じ頻度で転がっているわけである。しかも適当に歩いてその辺で見つかる。英語でいうとHidden Gemってやつだ。いや本当なんだよ!

そう。「絶対に裏切られないもの」さえ知っていれば、その地獄のような不味さは一瞬で帳消しになるわけである。

しかし油断したときにまた「やんのかテメエ」と叫びたくなるブツと出会ったりするわけで、そういう意味でも食に感する喜怒哀楽が激しい、まさにエキサイティングなシティなのだ。

香港で不味いものに出会ったときの、俺の脳内Spotifyはヒップホップである。香港はヒップホップがかなり盛んなのだが、英国同様、不味さとポピュラーミュージックは密接な関係がある。俺の”香港不味いもの遭遇プレイリスト”の1曲めはおそらくこの曲だ。狂気と暴力性が、とても香港の不味いものに合う。



■不味道・黒帯への道

英国も香港も似ているのは「金を出すか、しっかり情報を追えば、不味いものは回避できる」点である。まあ当然である。

俺はどちらも面倒臭いからやらないワケだが、それは怠慢だと言われるとシャクなので「俺はあえてこういう人生を選んでるぜ?不味道っやつをな!」と言い切ることにしたのだ。

だから「あの国の飯は不味い」とSNSに投稿するときは、人生を賭けて欲しい。そしてその時に起こった自身の暴力性や負のオーラを俺は知りたいし、また伝えて欲しいのだ。不味さとは、負のエネルギーに対して、人間がどのように戦うかという根源的なもの。いや、人類の戦いの1ページ・1行に相当する。

というわけで、俺はまた今日も不味道を極めるために、あんま考えずに飯屋に入り「やっちまったぜ…」と萎えるのであった。


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