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London Soba Arcade Game

ここの蕎麦屋は「何ソ」なんだろうなあ?と聞く。
その「ソ」ってなんすか?と元同僚。

「ホワイトカラーの奴は何も知らねえな。本社の近くには、箱ソ、ジャズソ、そしてラブソの3つの蕎麦屋があったんだよ。

箱ソは、入り口が箱型だから箱ソバの略で”箱ソ”。
ジャズソは、ジャズしか流さない蕎麦屋だから”ジャズソ”だ」

ラブソは…?らぶそばっすか?なんすかそれ?

ーー

ロンドンに出張に行ったとき、ロンドン在住の元同僚と晩御飯を食べることになった。その同僚は昔っから着こなしはもちろん、仕事運びもスマートで、ホワイトカラー感をバリバリ出しているやつである。

そんなやつが連れてってくれたレストランは、ロンドンのガチ・オフィス街にある、「僕の隠れ家的な蕎麦バー」だ。

その隠れ家””って言うのをやめろ!と思うのだが、まあとにかく、そこは、変な髪形の若きブリジット・ニールセンが歩いてそうなシャレオツなインテリアと照明、そして日本とまったく違わない、いや超えているクオリティの寿司に蕎麦にと、”おれはウォール街の成り上がり若造なのではないか?”と錯覚しそうな勢いだった*。


しょうもない話を2人でしている中、寿司のカウンターの板さん数名が目に付いた。

普段はカーディフで、ハイジーン*で星が2つしかついてねえ、汚いフードバン*を見慣れているおれからすると、本当に「すばらしい日本文化を背負った職人」に見えた。

英国の衛生局(たぶん)からの清潔さの評価付け。☆5段階で、ゼロになると営業停止である。☆1、2はヤバげだが、そのうちどうでも良くなる。

フードバンは、バンに調理器具を備え付けた移動式の軽食屋。まずい。

清潔で、動きに無駄がなくキビキビして、そしてミリ単位で調整した繊細な盛り付け。出てくる料理は新鮮で、この国では見ない種類のエキゾチックで美しい色彩の寿司。そして紫蘇やミョウガの薬味を使った、ヘルシーだがアクセントのある食感と食後のさわやかさ*。

これが全部逆なのが、カーディフのフードバンだ。

あと、数年ぶりに「刻みネギが歯の間に引っかかる」という現象に涙した。

そこまではいいのだが、それを目の前にして談笑している客は、中国系の観光客である。

今はたまたま中国系かもしれないが、10数年後には今カウンターに座っている客は、インド系やブラジル系になっているんだろう、きっと。

つい2,30年前までは日本が海外の高級品を消費する立場だったのが、今は消費されている現状。買う立場から買われる立場へ。

ああ、21世紀は、日本の製品は国外の価値のわかる人々に供給され、消費される国になるんだな。そしてその技術を持った人々や製品は、それに価値を見出す国に進出・流出していくのだろう。

そのうち、なぜかそもそもが日本製なのに、日本で手に入りにくいものになっていくものが増えていくのかもしれない。

ーーー

おれはある意味「海外で経験を買われている開発者」である。いや、自分はこの蕎麦屋の板さんのように優秀だとは思わないし、レガシーなゲームを作れたことはないのだが、たまたま海外のアーケード市場にあった製品ばかり今も作っているからだ。

排出カード無し。店外サーバー接続無し。ネット課金無し。ICカード無し。伝統的なカーレースやガンシューティング、10年くらい前くらいの、ケータイアプリ開発規模のアーケード・ビデオゲーム(今はケータイアプリの方が、規模が凄まじくでかい)、そしてエレメカの監修。

まさしく90年代ジャパニーズ・アーケードの形態そのままである。だが今や日本では、それは米国製や中国製にとって変わられるようになった。もちろん海外では、ずっと前からかなりの日本製のアーケードゲームは消えている。

その中で国内外で戦っている、日本製のマリカーやルイージ・マンション、HODはホントすごいと思う。

日本市場ではあまり見なくなってきた商品開発を、海外でやっている日本人開発者。そんな話を聞きつけてか、意外な国や意外なトコから「貴方に興味あります」的なアプローチがショー会場で来たりすることも、一度や二度ではない。

ーー

今いる英国での開発現場も踏まえて、「まあおれは、むかし明治政府が雇ったスコットランド人技師みたいなもんか」と思っていたのだが、その寿司カウンターを見て考えが変わった。

違う。

おれは師弟関係的な、教えを請うみたいな、そういう目で見られてんじゃなくて、日本(と本社の)ブランドに目をつけた、消費対象なのだと。

買いかぶらないでください、とアプローチされる場では言っていたが、自分を高く見積もって、”自分の実力だけを評価されている”と誤解していたのは、おれの方だ。

ーー

ラブソは...

「ラブソは、オフィスの中で”付き合ってんじゃね?”って噂のある男女は、そう言われるの嫌だから、みんな少し会社から離れたとこで食う習性があったんだよ。90年代はな。そういう蕎麦屋は”ラブ蕎麦”。だからラブソだ」

...そんなくだらないことばっか考えたんすか。開発者は頭おかしくないすか。

あ、おがさん、醤油をジョバジョバ寿司にかけるのはやめてください。ここ、かっぱ寿司じゃなくて僕の隠れ家的な...


あー、くだらないこと考えてたかもしんない。すまんな。
でもその隠れ家”的”って言い方はやめろこの野郎。


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