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「残穢じゃん」と言われた女と家の話 #1

今年32歳。シングルマザー。フル在宅勤務。
5歳の息子と実母と楽しく毎日を過ごしている。

1年前に離婚をし、数ヶ月前にフリーランスの制作職から、会社員に変わった。私の人生における最新トピックはこんなもので、大したことはない。

ある日、産後から仲良くしている友人に「物件を雰囲気で探してる」という話をした。
すると詳細を聞いたその友人は「残穢じゃん」と返してきたのだ。

何が残穢なん


残穢とは、一時期SNSで話題になっていた、小説原作のホラー映画のこと。
私はものすごく怖いと聞いているので一人で見る勇気は無いし、これからも見る気はない。
なので「どの辺が残穢なの?」と思ったまま、しばらく家の話をする。

自分の生い立ちがホラーになるなんてたまったもんじゃないんだが、笑い話として話していたので今後もそういうもんなんだと思って生きていきたい。

私「あれ?もしかしてこの感覚は霊感なの?」
友「ある種そうかもよ」

なんて、真夏のホラー雑談しちゃったので、しばらくここに「合計7回の引越しで起きたこと+2枚の心霊写真」について書いていこうと思う。
言っとくけど残穢は見ない。見ないよ。

内見0回で決めた団地


私と母には、誰にも共感してもらえなそうな内見チェックポイントがある。
入った瞬間「ここは嫌」が数秒で決まる。

普通は「駅から徒歩5分」「家賃何万円」など、生活といかにフィットするのか。間取りは人数とあっているか。などを事実を並べて決めていくのが普通だと思う。

もちろん私もその観点が入り口ではある。
ただ、どうしてもその譲れない、共有しづらく言語化もできない「嫌だなぁ」があるのだ。

その「嫌だなぁ」の一つ、私がまだピチピチ高校1年生の頃の話をしようと思う。

当時、女手一つで私を育ててくれていた母は、焦っていた。
父が寄越してきた借金が雪だるま式に膨れ上がり「このままじゃまずい」というところまできていた。

そのため「団地に住もう。家賃が安い。近くに新しくできたとても綺麗な団地に当選した」と言われ、突如住み慣れた街を離れることになった。

間取りは2LDK。エレベーターがありマンションのような綺麗さ。中層階の角部屋。
最寄り駅から続く美しい並木道を15分歩けば到着する。
外観は新しく、パッと見れば「これ団地なの?」というような場所だった。

内見0回。突発引越し作業。初めまして、新居。
以前より広くなった家に私と母は「これからどう部屋を可愛くしよう」と心躍らせていた。

何かおかしいんだよ


今でもはっきり覚えている。
私も母も「この家なんでこんなに広くて綺麗なのに、暗いの?」が第一印象だった。
しかしこんなに広くて日当たりがいいのだから、気にすることはないだろうと思っていた。

隣に挨拶をすませ、そこから数日は普通に暮らしていた。

しかし、日差しが入り広く綺麗なはずの家はいつも暗く湿っぽかった。
特に玄関は明かりをつけているのにどんよりしているのだ。
そしてその先のリビングも、あまり良い雰囲気とは言えなかった。

バイト三昧、高校生活に明け暮れていた私はほぼ家におらず、あまりそのことを気にしていなかった。

そこに住み数ヶ月、少々不運が続く。
不幸自慢はあまりしたくないので内容は割愛するが、主に財政難に陥りしばらくバナナだけで暮らしたり白米にだしかけて食べた。JKがな。

じわじわその状況が母を蝕み、ちゃらんぽらんなJKも察する。
アクティブポジティブ魔神の母が布団に引きこもり始めているのは異常だと。

私「どうしたの? ここにきてしばらく、会社以外出かけてないじゃない。お金のことで悩んでいるから?」
母「それもあるけど、よくわからない。金がないのは前だってそうだ」

母の言う通り、我が家の財政難はこの時に始まったことではない。当時ジリ貧だったため、高校で出る出費は私のバイト代頼りだった。

母「インテリアとか凝って素敵にしたかったんだけど、やる気がまるで出ない。家に帰ると力が吸い取られるみたいに布団に入ってしまう。会社に行けばゲラゲラ笑って過ごしてるし、鬱とも違う。何かおかしい。わからない」

「なんか嫌」の答え合わせ


高校3年生なりたての春。母は突然思い立ったように「もう引っ越そ。この家ダメだわ。今より狭くてもいい?」と言い出した。
私はその頃合計4回目の引越しだったし、地元なんてないような人間だったので「住めりゃいい」と返した。

そこからの母の行動は素早く、無かったはずの金は友人の力を借りて整理しクリーンになった。マイナスがプラスになり、新居も即決めてきたのだ。
そのやる気はどこで起こしてきたのかはわからない。

そして引越し作業は母の会社のアニキたちが無償でトラックを出し、手伝いにきてくれた。

引越し中うるさくする可能性があるため、挨拶を兼ねて左隣の家を訪ねた。
するとおばちゃんが「あんたたち明日引っ越すの?そうかい。あんたたちの部屋ねえ、なぜかすぐ引っ越していくんよ。なんでだろうね。まあ、あんたたちが一番長かったけど」

立つ鳥のあしを掴んで濁すおばちゃん。
怖いこと言うなや、と思ったが「引越し中の声かけが響く可能性あるので、数時間ご迷惑おかけします」とだけ伝えた。

それだけで終わればよかったが、引越しお手伝い隊アニキたちのアイドル、紅一点であるMちゃんがこう言った。

M「引っ越せてよかったね。何回かこの家遊びにきてたけど、よくない家だった」

Mちゃんは霊感があり、母曰く数々の逸話がある。
気を遣って濁してくれたようだが、後日「遊びに行くたびに玄関になんかいた」と言われた。

いまだに玄関の何かについては聞いていない。
知らない方が幸せなこともある。

ただ、この「なんか嫌」という直感は正しかったのだ。

私も母も霊を目視したことはなく、スピリチュアルなことを盲信するタイプではない。神社で凶が出たらそのおみくじを口に放り込み、忘れるタイプだ。

引っ越すまで、洗面台に取り付けるはずだった鏡は床に置かれたまま。
新居で新しく買った家具はひとつも無かった。
「この1年なんだったんだろうね」と笑いながら、私たち親子は新居に向かった。

おわり。

次回は「2枚の心霊写真」の話を書き、次からまた「なんか嫌スポット」の話が数回続きます。


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