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許されない恋

貰っても嬉しくないギフト。それは、ペアで使う何か。

ペアの食器、ペアの映画チケット、ペアの旅行券…私にペアの相手がいるかどうかも知らない癖にそんなものを贈る人って一体どんな気持ちなのか。妙齢の女ならパートナーがいて当然という同調圧力?それを貰う時の反応で恋人がいるかいないか見極めるための調査目的?もしくは、相手がいないと知っていながらの嫌がらせ?

今日もまた、職場の大嫌いな女がそんなギフトをくれた。ペアのホテル宿泊&ランチ券。彼女も何かで貰ったらしいけど、その日は彼氏とハワイ旅行なんだとか。

「お友達とでも使えるから、いいでしょ?」

と彼女は言った。ああ、腹が立つ。私以外にもプレゼントできる人、沢山いるはずなのに、なぜに私を選ぶの。

「え?本当にいいの?高いホテルだよね、ここ」
「うん、ランチだけでも高いから、泊まらなくてもすっごいお得よ」
「いや、せっかくだから泊まるよ」

強がってそんな風に言ってみたけど、きっと彼女はわかってる。私がチケットをもらった時に顔が曇ったのを見逃さなかったはずだ。でも彼女はなぜ私が顔を曇らせたのか、その理由は知らない。

私が「ペアの〇〇」が嫌いな理由は、恋人がいないからじゃない。私の恋人が私以外とペアを組んでいる人だから。

デスクに戻り、社内チャットを開く。

《今週の土曜日、一緒にランチ行けませんか?》

少しして返事が届く。

《ごめん、週末は無理だ》
《そうですよね。了解です》

あの女は知らないだろうけど、私はこの会社の女子たちほぼ全員が憧れている隣の部門のチーム長と、不倫している。


その土曜日を迎えた。

ペアのチケットを使うために友達を急遽呼び出すほど、私の精神力は強くない。もういい歳で、友達はほとんどお嫁に行った。独身の友達だって、大体は彼氏がいる。彼氏のいない貴重な友達は、私が週末を一緒に過ごせない人と付き合っていることを影で蔑むだろう。だから、私はとびきりのお洒落をして一人でその高級ホテルへ向かった。勿論、泊まる予定で。流行りの「おひとりさま」をしてやるつもりだ。

フロントでチケットを出すとアーリーチェックインをさせてくれた。小さめのボストンバッグをベッドの上に置いて、外の景色を眺める。どんよりとした曇り空、湿度の高そうな空気。部屋の明かりをつけないと暗い部屋。こんな日でもそばにあの人がいてくれれば心は虹色なんだろうけど、私は独り。

口紅を塗り直して気合を入れ、レストランへ向かった。

この店でおひとりさまは多分私一人だ。夫婦、カップル、女友達。週末のホテルに集まった幸せそうな人々。ひとりだったからだろうか、ウェイターは私を人通りの少ない個室席近くのボックス席へ案内した。

ここはオーダーバイキング形式で中国料理が楽しめる。デザートだけはビュッフェだが、他は全て着席でオーダーできるので一人でも気にならない。私は思い切り自分を甘やかそうと、大好きな飲茶を中心にオーダーした。

昨日ネイルサロンに行ったばかりの爪は自惚れる綺麗さで、指先が視界に入るたび所作まで美しくなる。タレに少しだけ浸した小籠包を丁寧にレンゲの上に乗せ、少量の薬味を乗せたら優しく皮を破り、静かにスープを味わう。

「あー、美味しい♡」

小ぶりのグラスに入った紹興酒を飲めば、もうそれだけでいい気分。私はすでにおひとりさまを楽しみ始めていた。

「変な男と結婚するくらいなら、永遠にひとりでいいわ」

そんなことを思いながら、嫌な女のことも、週末に会ってくれない彼のことも忘れた。

その時だ。個室から、彼が出てきたのだ。

思えば私は彼のスーツ姿とバスローブ姿しか見たことがない。今日の彼の品のあるカジュアルな装いを見て、初めてそのことに気づいた。

彼は白いお皿に小さくて可愛らしいデザートを乗せている。甘党じゃないはずなのに。少し遅れて、女性が個室から現れ、彼の背後であれを取ってこれを取ってと指示した。きっと奥さんだな、と二人の距離感を見て思った。女は満面の笑顔で幸せそう。彼が微笑んでいないのが唯一の救いだが、それでも、この光景は私には強烈すぎる一撃だった。

私はメニューで顔を隠し、彼らが個室へ戻るのを待って、テーブルの上の飲茶も紹興酒もそのままに席を立った。

店を出ようとすると、先ほどのウェイターが私を気遣った。

「お客様、どこか具合でも悪いのですか?」
「いえ、大丈夫です」
「今日ご宿泊のお客様ですよね」
「はい」
「営業時間内でしたら、再入場していただいて構いませんので」

そう言ってウェイターは再入場のチケットを探した。私は早く部屋に戻りたかったのに。

案の定、このウェイターの親切のせいで、一人で席を立った彼が私に気づいた。彼はすごく驚いた様子で私を見つめ近づいてくる。私は視線を逸らした。

「どうしたの」
「あ、ちょっと…」
「誰かと一緒?」
「いえ、ひとりで。宿泊チケットを貰ったから」
「ひとりで泊まるの?」
「…はい」

彼は周囲を見回し、私を少し離れた場所へ連れて行った。

「土曜のランチって、ここのことだったんだね」
「…」
「ごめんね…」
「さっきの、奥さんですか?」
「あぁ」
「奥さんに心配されちゃいますよ。じゃあ」

エレベーターの方へ向かおうとした私の腕を彼が強く掴んだ。

「ちょっと待って」
「え…」

彼はおもむろにポケットからスマホを取り出し、電話をかけた。

「もしもし。ごめん、今さ、取引先の人にばったり会って…緊急だって無理やり呼ばれてさ…申し訳ないんだけどこのままそっちに行くから…うん、ごめん、最後まで一緒にいられなくて…わかった。じゃあ後で」

奥さんに華麗に嘘をつく彼を見ていて、ああ、私にも同じようにたくさんの嘘をついているのねと憎らしくなる。それでも、今、彼が私を選んでくれたことがすっかり冷えきった私の心に優しい火を灯した。

・・・

私たちは少しだけ距離を置いて、無言で、部屋へ向かった。

背後に彼の視線を感じて、私の体は徐々に火照った。カードキーでドアを開ける。彼の気配を感じると同時に押さえていたドアの重みが軽くなる。部屋に入り、私が所在無くベッドの上に置いたバッグをいじっていたら、不意に後ろから抱きしめられた。彼の腕から一度逃れて振り向くと、彼は笑うこともなく、じっと私を見つめている。

彼にこの鋭い眼差しを向けられたら、私の中のなけなしの理性なんて、すぐに崩れてしまう。

fin.

…という夢(相手はホソク)を見たことがあるんですよ、私は。どーだ、凄いだろアブナイだろwww勿論、その日一日大いに拗らせました。
先日ウィバスのFC限定オフィスシリーズの写真を見てこの夢のことを思い出し、文字に起こしてみました。名前は入れてないから、もしお気に召しましたら各々の推しで妄想してください♡ちなみに私は不倫絶対ダメ派です。

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