復職日記33
うつの大きい波が去ったので、心穏やかに仕事に向かった。
と、言いたいところなのだけれど、内心は、ああ、申し訳なかった、きちんと謝らなくちゃ、今度こそ呆れられたかもしれない、呆れられたとしても、自分のせいだから、きちんと受け止めようと、頭の中で何度も反芻しながら出勤した。
気忙しい通勤電車もなんのその、職場にきちんとたどり着けて、あいさつをする。
あいさつを返してもらえて、それだけで心がほぐれていくのがわかった。
復帰後1日目、館長や、直属の上司、お休みしたいと告げた電話を受けてくれた方々に謝った。
ご迷惑をおかけしてすみませんでした、と言うと、館長は、ああ、うん、との返事。
やっぱり呆れられてしまったかなあと思い、ぐっとこらえた。
休みの電話を受けてくれた方は、いえいえ大丈夫ですよ、お大事に、とさらりと言ってくださった。少しほっとした。
直属の上司に謝ると、にこりと笑って、
おっ、戻ってきましたねえ。
と言ってくださった。
涙が出そうになってしまい、ぐっと堪えて、ありがとうございます、今回の波はちょっと大きくて、翻弄されてしまいました、でももう大丈夫です、とお伝えすると、うん、うん、とうなづいて聞いてくださった。
別の社員の方も、朝礼の合間に、こそっと、
大丈夫ですか?
と聞いてくださって、そこでも涙が出そうになってしまい、ぐっと堪えて、ご迷惑をおかけしました、もう大丈夫です、ちょっとやっぱり波があるみたいで、今回の波はでかくて死にかけました、と、冗談まじりに答えることができた。
本当にこの職場の方々はやさしいなあ、ありがたいなあ、と思って、1日目を終えたのだけれど、館長の反応がどこか気にかかっていて、仕方ない、これからしっかり仕事をして頑張ろうと、その日は思った。
次の日。
出勤して事務所で仕事をしているとき、館長が隣の席に座った。
並んで作業をしていると、館長が突然、
ヘイ、ブラザー、調子はどうだい?
と仰った。
わたしは思わず、へ?とか間抜けな声を出して、ああ、わたしがお休みしていたことを聞いているんだと気がついて、慌てて、
ご迷惑をおかけしてすみません、やっぱり体調に波があるみたいで、今回の波は大きくて、それで休んでしまいましたが、もう大丈夫です。ありがとうございます。
と言った。
すると館長は、
ビッグウェーブだったんだね、と笑いながら仰った。
なのでわたしも、
はい、ビッグウェーブでした。ビッグウェーブに一人波乗りしておりました。
と答えた。
館長はまた笑っていた。
ビッグウェーブ中の姿は誰にも見せられません。鶴の恩返しみたいに、その姿を見られたらわたしは消滅してしまいます。
とさらに付け加えると、さらに館長は笑っていた。
今まで、辛くて休んでしまうときのこと、ほとんど話せなかったのだけれど、今回休んだことで、体調に波があること、その波に呑まれてしまうとしんどいことを、色んな人に伝えることができた。
そしてそれを、受け止めて頂くことができた。
これは、当たり前のことじゃない。
わたしが本当に、人に恵まれている証、だと思った。
この図書館に縁があるんだ、と、強く思った。
この、降ってわいた縁を、今にも切れてしまいそうなご縁を、たしかなものにしていくために、これからも体調の波乗りを繰り返しながら、ここで働いていくんだ、と思った。
館長の、ヘイブラザー、は、わたしの心を柔らかくしてくれようとしたんだろうなあと思って、今思い返しても、なんだかおかしくて笑ってしまう。
わたしはどこの宗教にも入っていないけれど、こういうときだけ、都合よく、神様に声をかける。
かみさま、ありがとうございます。
わたし、ちゃんとがんばります。
わたしにはもったいないくらいの、ご縁です。
絶対に大切にします。
また休んじゃうかもしれないけれど、絶対に、このご縁は、自分からは手放しません。
かみさま、見ててください。
わたし、ちゃんと、がんばります。
投げ銭?みたいなことなのかな? お金をこの池になげると、わたしがちょっとおいしい牛乳を飲めます。ありがたーい