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【5000字!】息抜きついでに理解する広告代理店の企業研究



1. 概要


まず、広告代理店の定義からきちんと定めましょう。
広告代理店はお客様を代理して、広告を行う者だと捉えがちですが、本質は広告代理店の「代理」は、「広告枠の売買を代理していること」が由来です。具体的に広告主(=広告を出したい企業)がテレビや新聞などのメディアが提供する広告枠(=広告を載せる場所)を広告代理店から買う事になります。
つまり、広告枠の売買の中では、広告主が消費者、新聞やメディアが生産者、広告代理店が小売り業者という構図です。
一昔前まで、広告枠を保有するメディアは、メディア側から広告主に対して「広告枠の営業」を行っていましたが、広告代理店の登場はこの従来の構図を一変させました。
広告代理店が広告枠の売買を代行することで、テレビやメディアは別途の法人向け業部隊を持たなくても安定的な収入が得られ、リスクフリーな状態で本業に力を入れる事が出来るようになったのです。


では、広告主にとって、代理店を使用するメリットはあるのでしょうか?

代理店が仲介に入れば、その分広告費用は増加し、コストが高くなり、メリットはないように思えます。
しかし、広告代理店は、画期的な方法で広告主に対しても、仲介料を支払うだけのメリットを提供することで、メディア・広告主・広告代理店それぞれが満足する「三方よし」のビジネスモデルを作り上げました。

その画期的な方法とは、「マーケティングコンサルタント」としての役割を担うことです。
広告代理店は、メディアの代わりに広告枠の売買を行うだけではなく、広告主の代わりにマーケティングまで行うことで、より単価の高い案件を引き受けられるようになったのです。


誤解を恐れずに言うと、広告代理店はお客様の為になんでもやる会社です。報酬さえあれば、例えば製品発表会の仕切りから、不動産会社の道端宣伝もします。


しかし、顧客もバカではないので、「何故このような広告が必要なのか?」「広告の効果はどれだけあるのか?」「何故、高級取りの広告代理店社員にわざわざ頼むのか?など、様々な疑問が湧きます。
それに対してマーケット・広告ターゲット・チャンネル・商品・他社状況を考慮・分析して最大限の効果が得られる施策を計算・提示します。また、提示する施策は、人的リソースの配分や、予算の計画、発注する物品の点数など・・・細部まで具体化されています。
すなわち、広告代理店とは、「広告代理」とは名ばかりの、究極のマーケティングコンサルサービスを提供する組織なのです。



2. 歴史


米国では1841年にボルニー・パルマーがフィラデルフィアに広告代理店を設立したのが最初と言われています。
しかし、初期の広告代理店は広告主と各種メディア(新聞社など)をつなぐ純粋な代理・仲介業で、今日の広告代理店のような広告制作は一切行っていませんでした。

日本でも、明治期から第二次世界大戦の戦前まで、広告代理店は「広告取次」や「広告ブローカー」と呼ばれていました。広告代理店という名前は、 "advertising agency" からの直訳で、広告制作やコンサルティングまで担当する現代の広告代理店に対して、「代理店」という呼称はあまり適切ではないかもしれません。


3. IT広告代理店の出現


時代が変わり、ITが発達し、日本人の多くがスマホを持つような時代になりました。また、主要な広告ターゲットの30代以下がネットベースで購入を行う事になり、IT広告の力はますます強くなっています。
この流れに乗り、電通・ADK・博報堂もデジタルに特化したファームを子会社として持ち始めていますが、会社全体としてのITリテラシーが不足しており、IT広告代理店(CA、デジタルHD、セプテーニ)にデジタル広告領域では負けている印象です。

その理由は単純で、「広告枠の売買スピード」が挙げられます。大手広告代理店が1本の広告を打つのに膨大な時間を掛けるのに対し、IT広告代理店はDSP(※1)を用い、1秒間に約数十万回の広告枠の取引を行います。このスピード感ゆえに、1つの記事の仲介単価が少なかったとしても、薄利多売で多くの売上が期待できる点がIT広告業界の強みであるといえます。

(※1)……Demand-Side Platformの略。ターゲットごとに最適な広告を配信することを可能にするツール。複数の媒体に広告を配信できるアドネットワークを束ねることで、より幅広く効率的な広告配信を行うことが可能



4. IT広告代理店が絶対善なのか?


IT広告代理店が発達すれば、人力を掛けず、ITを利用して情報伝達が効果的に行われます。つまり、社会全体として情報格差低減につながるし、よい情報の共有に役立つになります。その為、社会全体の効率・生産性に寄与する面があり、IT広告代理店の方が社会的意義は高いと考えられます。
IT業界のみを今まで絶賛したのですが、実は国内からすれば、IT広告代理店の躍進はメリットばかりではありません。


理由としては2つあります。ひとつは、GoogleがIT広告代理店として、絶対強者のポジションにいるため、マーケティングによる経済効果が国外に流出するからです。

次に、IT広告代理店の発達は将来的に情報格差を生むことが予想されます。デジタル広告が浸透すればするほど、ITリテラシーの低い高齢者が広告にアクセスできる機会が減ります。結果、高齢者に対して十分なマーケティングができない恐れがあります。


5. 広告代理店の職種ごとの役割


① 営業
営業は広告主から依頼を受け、広告主の課題を抽出し、その課題を解決するための人材集めとチームづくりをおこないます。そして、そのチームのメンバーをまとめる司令塔のような存在を担います。いわば、プロジェクトマネージャーです。

② ストラテジックプランナー
営業が持ってきた課題をまず担当するのが、ストラテジックプランナーです。広告主のニーズをもとに、どこに広告を出すのが最適か、そしてターゲットは誰か、といった戦略を立案します。コンサルでいうと、戦略コンサルタントです。

③ クリエイティブ
ストラテジックプランナーの立案した広告戦略をもとに、それに必要な「表現」を考えます。文字表現はコピーライター、画像や映像はデザイナーなど、さまざまなクリエイティブスキルを駆使して、最適な広告を作ります。

④ セールスプロモーション
クリエイティブが作成した表現をもとに、キャンペーンやイベントなどを企画し、広告の効果を最大化します。いわば、ITコンサルタント・ビジネスコンサルタントといえます。

⑤ メディア
広告を配信する媒体と交渉し、広告枠の買い付けなどを行います。媒体と広告主の両者がWin-Winであるように調整する役目だといえます。他業界で言う所の「調達」に役割が近く、広告を掲載する適切な媒体を「調達」します。



6. 広告代理店の会社別の特徴


日本の広告代理店がよく批判されるのは、海外のほとんどの先進国で見られる「一業種一社制」の原則が日本では見られないことです。「一業種一社制」とは1つの広告代理店が同時に別の同業他社の会社の広告を担当してはいけない、と言うルールです。「同じ広告代理店が、競合他社の製品の購買も促進する」という矛盾の防止が目的の原則です。


海外では常識となっているこの「一業種一社制」のルールが国内で適用されていない結果、原則様々な業種の大企業を顧客として一手に収める電通や博報堂、ADKなどの主要な広告代理店が強大な媒体力を保持してしまい、自由競争が損なわれているため、広告代理店の売上高の順位どころか、売上の比率もほとんど変化しません。

これが、電通が以前から、そしてこれからも国内トップの広告代理店として存在し続ける理由です。既存のコネや利権にあぐらをかき、「一業種一社制」の元で激しい競争が行われている海外市場から目を背け続けてきたことが、日本の広告代理店の国際競争力が低い原因の一つに挙げられます。

日本で最も重要な産業である自動車会社の広告を見ると、電通は本田技研工業、SUBARU、完全子会社のダイハツ工業を含むトヨタ自動車を始めとする大半の競合自動車メーカー、博報堂は日産自動車、マツダ、スズキ、ADKは三菱自動車工業など、というように競合する他社同士の広告を同時に担当しています。

ただ、近年はデジタル広告の成長で、業界が大きく変動し始めています。
例えばアメリカでは、コンサルティング業界から広告業界への参入が相次いでおり、もはやアメリカのデジタル広告の取引額の上位は、従来からの広告会社ではなく、コンサルティングファームが占めています。日本でも同様の動きは起きており、ITコンサルの日本I B MはIT広告代理店として頭角を表しています。


① 電通
電通は2013年にイギリスのイージス・グループを買収して以来、積極的なM&A活動を行うことでグローバルな会社に成長しました。因みに、海外ビジネスが総売上の約61.7%を占めていて、これは博報堂の海外売上総利益比率の12.5%と比較すると、明らかに強みです。これも背景にあって、「東京オリンピック・パラリンピック」のマーケティング専任代理店として指名されましたし、「FIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップ」や「WBC(世界ボクシング評議会)」も手掛けています。また、電通はクリエイティブ力も高く、国内の広告代理店では最も広告賞を獲得しています。

② 博報堂
電通に並び、日本の2大広告代理店として知られるのが博報堂で、私はこの会社が非常に好きです。通に比べて影響力も遜色がなく、デジタル領域にも強みがあります。博報堂はデジタル領域での売上において、サイバーエージェントに次ぐ業界第2位の成績。

電通にも約2倍の差をつけており、今後注目されるインターネット広告の領域においては、一歩リードしています。


クリエイティブでも電通に負けておらず、多くの独立したクリエイティブディレクターは皆博報堂の出身で、少し前までは「クリエイティブの博報堂」とまで言われる程でした。
また、近年ではアップルのマウスなどをデザインしたことで知られるアメリカのデザインコンサルティング会社の『IDEO』を買収し、クリエイティブ力の強化を図っています。

③ ADK
大手代理店の一角として名を連ねるADKは、世界最大の広告代理店グループのWPPも資本参加しています。2017年に投資ファンドであるベインキャピタルの買収を受けており、外資系に近い広告代理店とも言えます。
日本の伝統的なビジネス業態である広告代理店としての機能だけではなく、「IP(版権)」に強みを持つことが特徴で、多くの国民的キャラクターの版権を持っていています。
例えば「ドラえもん」の版権はADKが持っています。企業が、ドラえもんを活用した広告を配信したいと考えると、電通や博報堂と話をしても、それを実現できません。つまりドラえもんを活用したマーケティング戦略を企業が行いたい場合、ADKと提携をする必要があります。
ADKがIPを多数保有しているのは、国内で誰よりも先にアニメーションの企画参画や、アニメを使用したコンテンツビジネスを展開した歴史があるからです。
長年IPビジネスと向き合ってきたからため、「クレヨンしんちゃん」や「ワンピース」など様々な国民的アニメの版権を持っており、そういったコンテンツから広告制作を受注できる強力な強みが存在します。


④ サイバーエージェント

一番の特徴としては、裁量の大きさが挙げられます。「新卒で社長に就任」「内定者が子会社を設立」などCAならではの経験を積めることから、年功序列ではなく若手のうちから挑戦したい好奇心旺盛な学生におすすめの企業です。しかし、私はお勧めしません。各年代にはその年代に学ぶべき素質・能力がありますが、自分が世に名を残せるぐらいの天才ではない限りこの会社でそんなルートに乗ることはよくないと思います。(あくまで個人的な意見ですが・・・)


また、様々なプロダクトを持っていて、IT事業会社ともいえます。代表的なサービスでは、AbemaTVやアメーバブログを筆頭に、出会い系サービス「タップル」、音楽配信アプリ「AWA」、競輪などのネット投票が可能な「WINTICKET」などさまざまなサービスを展開しています。ですから、広告をやりたい学生は、率直にいうとCA以外の広告代理店を選んだ方が良いかもしれません。

⑤ デジタルホールディングス(旧オプト)
広告の大手として成長したのですが、企業の課題解決を行うコンサルティング提案・実行支援を主軸として、インターネット広告事業、マーケティング事業、DX支援事業、投資・事業開発と4つの事業を展開しています。したがって、広告がやりたい学生にとっては、あまり望ましい就職先ではないかもしれません。

⑥ セプテーニ
人材採用コンサルティング事業からスタートした会社で、インターネットを活用した包括的なマーケティング支援を行う「デジタルマーケティング事業」に加え、Webサービスを提供する「メディアプラットフォーム事業」を展開しています。事実上、マンガアプリの「GANMA!」も運営しているので、ITプラットフォーマーとして側面も見られます。 
デベロッパー業界


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