息抜きついでに理解する鉄鋼メーカーの業界解説
①概要
鉄はあらゆる産業の基本となります。その最も根本的な理由ですが、鉄は地球の重さの34.6%を占め、他の天然資源と比べて桁違いに埋蔵量を誇ります。
これは元素が核融合繰り返していけば、最終的に鉄に変化するためです。その為に、地表面でも鉄はよく発見されるようになるし、人類が普遍的に使う資源となったわけです。
ただ、その過程は簡単ではなくて、鉄は豊富な資源ではあるが加工に高熱や高度な知識が必要でした。そのために、ちゃんと使われたのは最近で、産業で爆発的に使われ始まったのは、セメントと同じ膨張率を持つことがスタートです。
建築・土木に興味がある学生には基本かも知りませんが、2つの材料を混合して建物を建てることは非常に危ない行為です。
冬と夏を繰り返す中で、材料どうし違う熱膨張率を持つことでひずみが出て、最終的に建物が壊れる為です。
しかし、鉄筋とセメントは同じ熱膨張率を持つ為、大きな橋の建設・超高層ビルの建設においても混ぜて、同じような材料を扱うように使えるのです。これが、建材として鉄筋コンクリートがよく使用されている理由です。
このような鉄の性質から鉄は産業の米として愛用されるようになり、日本の鉄鋼メーカーは昭和の時代までは産業界に君臨する存在でした。
「鉄は国家なり」という言葉があったり「鉄こそ産業の米」などのコメントがありました。
しかし、昭和の終わりあたりから低成長時代になり、鉄の需要が伸びなくなりました。
では、そもそも何故日本の鉄鋼メーカーは世界的な規模を誇るようになったのか?
簡単に言うと車・家電です。日本はそもそも内需に頼っていた国です。背景には日本の家電と車が世界を席巻していた時代の為です。もちろん、現状の鉄鋼メーカーの衰退も日本の家電の需要低下が原因です。逆に言うと、車や家電が鉄を必要としなくなった時が、鉄鋼業界の機器です。
世界でEV化が進めば、国内の鉄鋼メーカーが危機が訪れます。
② 高炉と電炉
鉄鋼メーカーには、大きく分けて高炉メーカーと電炉メーカーがあります。高炉メーカーは、高炉を使って鉄鉱石から鋼材をつくり、主に大手3社がその役割を担います。
一方で、電炉メーカーは、鉄くず(スクラップ)を電気炉で溶かして鋼材をつくり、多くの中小メーカーがこれに該当します。
因みに、高炉の特徴は一定で高品質な製品が作れる一方で、電炉の場合は品質を維持することが難しく、工夫が必要となります。
このように聞くと、電炉メーカーが好き好んで鉄くずを使ってビジネスをしているように思えるのですが、メーカーが電炉を使うのにはちゃんと理由があります。
それは調達の問題です。
日本の鉄鉱石の調達は主に商社が行いますが、実は高炉メーカーが既に調達される鉄鉱石の大部分を抑えてしまっています。
さらに、鉄鉱石だけではなくて、石炭の権益まで持っている始末なので、高炉製造に後から参入するのが非常に難しいのですが。
では、逆に電炉メーカーは何故鉄鉱石権益をお金で買わないのでしょうか?
これはシンプルにお金が足りないからです。
資源ビジネスは超ハイリスクなギャンブルで、参入するには大きな元手・軍資金が必要です。投資した金額が回収できるだけの充分な生産量が確保できる鉱脈は、実はそう多くありません。
それこそ、鉱脈が1000個あったら1個あるかないかの世界です。
ただ、そのひとつを引き当てると、鉱脈2000個に対して開発投資や調査を行えるだけの莫大なリターンが得られます。
そういったビジネスモデルなので、かなり参入障壁が高いのです。
そのため、名の知れた電炉メーカーといえど、そう易々と参入できないのが現実です。
④ 供給過剰と需要減少
鉄鋼メーカーを取り巻く近年の環境は芳しくなく、大手3社(JFE、日本製鉄、神戸製鋼所)はしばらく赤字続きでした。
一時期日鉄に関しては国内の高炉15基のうち6基の休止、3万人の従業員の一時休業を実施。
JFEも3基の高炉の休止、1万5000人の従業員の一時帰休を実施したことがあります。
コロナ禍による自動車需要の減少で、主な取引先である自動車メーカーからの発注が大幅に落ち込んだことが原因です。
しかし、今年になってコロナ禍による景気低迷が回復に転じたこともあり、鉄鋼需要が大きく伸びてきたことに後押しされて、日鉄とJFEは3年ぶりに黒字回復する見込みとなっています。
これは世界的な景気回復もそうですが、赤字期に行った収益性の改善施策が功を奏した結果ともいえます。
⑤ 金属卸が必要な理由
金属卸の事業者は、鉄鋼メーカーから鉄商品を仕入れ、自動車メーカーや建設会社など、様々な業界のメーカーへ販売する役割を担っています。
金属卸の主な企業には伊藤忠や丸紅など、多くの就活生が興味を持つような会社ばかりです。
では、金属卸の存在意義とはそもそも何でしょうか。
金属卸の目的は、買い手と売り手の不都合を解消することです。
買い手となる事業会社は、必要な材料を必要な数だけ欲しがるので、基本的には少数のバラ買いをしたいのが本音です。
一方、鉄鋼メーカー側はまとめ売りを好みます。
これは、なるべく在庫を抱えずに生産した分を売り切りたいというニーズや、まとめて生産・加工・販売した方がコストが安く済むという側面があるからです。
この合判する二社のニーズを繋げるのが金属卸です。
金属卸が鉄鋼メーカーから在庫をまとめ買い、各種事業者にバラ売りを行うことによって、鉄鋼メーカー・事業会社双方のニーズにこたえているのです。