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市川由紀乃「私を知らない方々にもっと知っていただきたいと思いますし、私自身も未知の領域や分野へ活動の幅を拡げていきたいです」

リサイタル『ソノサキノハジ真利』そしてアルバム『ソノサキへ』

“やりたい放題”でした(笑)

――まずは「花わずらい」の日本レコード大賞優秀作品賞の受賞おめでとうございます。
市川 ありがとうございます。この一年は年の初めから新たな気持ちで歌と向き合ってきましたので、それが一つの成果として、このような素敵な形となって表れたことがとても嬉しいです。そして、受賞へと導いてくださった作家の先生やレコード会社の方々、ファンの皆さんに心から感謝しています。
――10月に行われた『市川由紀乃 リサイタル 2023 ~ソノサキノハジ真利~』(10月4日、於:東京・LINE CUBE SHIBUYA)を拝見しましたがよい意味で“やりたい放題”だなと思いました(笑)。その結果の一つが今回の受賞だったとすれば、市川さんの進路の取り方は正解だったということになりますね。
市川 はい、“やりたい放題”でした(笑)。それが正解だったとは言い切れませんけれど、私自身に大きな手応えがあったことは確かです。
――これまでに見せていただいたステージの中で一番だったと思います。今までにない市川由紀乃さんが表現されていて、満点ではないけれど過去最高の内容だったと思います。満点でないのは何かが足りなかったわけではなく、伸びしろの分です。
市川 ありがとうございます。

「あぁ、もう終わっちゃう…!」

――今回のリサイタルは、いくつかの景で構成されているという点では昨年のリサイタルと同じでしたが、各景のまとまり具合や選曲の幅広さなどにおいて飛躍的に良くなっていると感じました。いろいろな味を楽しめて満足できるところは、豪華なおせち料理のようでした。
市川 演出・構成・映像制作担当の長田コウさんが出してくださったいろいろなアイディアが面白くて、企画の段階から私自身も楽しみながら作れたのが大きかったと思います。
――懐メロあり演歌ありシティ・ポップありと、とにかく構成が多彩で、あっと言う間に終わってしまった感じでした。
市川 今、日本の歌謡曲やシティ・ポップに親しまれる海外の方が多いそうで、私にもいずれは日本以外の方たちにも歌をお届けしたいという想いがありますので、そうした曲も採り入れたりして、幅広い層に楽しんでいただける内容にしたいと思っていました。それで楽しんでいただけたなら幸いですし、私も歌いながら残りの曲数が少なくなってくると「あぁ、もう終わっちゃう…!」なんて気持ちになるくらい楽しかったです。カバー曲はほとんどが初めて歌うものだったんですけど、ちゃんと歌えるだろうかっていう不安よりも、大丈夫!絶対うたえるっていうヤル気の方が強くて、リハーサルから100%前向きな気持ちで取り組めました。

このリサイタルを開けてよかったと心から思いました

――ビートたけしさんの「浅草キッド」や菅原文太さん・愛川欽也さんの「一番星ブルース」などは意外な選曲だった上にオリジナルの印象が強くてカバーするのは簡単ではなかったでしょうが、見事に自分の歌として表現していましたね。
市川 長田さんが歌う際の細かい表現や表情にまで指示やアドバイスをくださって、私も納得できるまで質問したりやり取りさせていただいたりしながらレッスンを重ねられた成果だと思います。
――長田さんはお幾つくらいですか?
市川 40代前半ですね。
――いわゆる演歌の世代ではありませんね。
市川 そうですね。『輝け!令和歌謡祭演歌ビッグショー2021』で、“こぶし劇団”として純烈の皆さんや三山ひろしさん、中澤卓也さんといった方たちと、笑える寸劇と歌を組み合わせた構成でお楽しみいただいたことがあるんですけど、その演出もされていて、歌はもちろんですがエンタメの要素をとても大事にされている方です。
――市川さんはデビューの時から演歌を中心に歌ってこられましたが、実際は演歌世代ではない。同じ時代感覚を持った方と組まれたことで、持てるものをのびのびと発揮できたようですね。
市川 そうだとしたら嬉しいですし、長田さんに演出をお願いしたことは正解だったと自信を持てます。私は歌手なので、まず歌うことだけを考えますが、長田さんの演出によって演じながら歌わせていただいたら、新歌舞伎座での公演を観てくださった吉本新喜劇の浅香あき恵さんが「浅草キッド」で泣いたっておっしゃって。観てくださる方、聴いてくださる方に何かお届けできたものがあったのかなと思ったら私も感動しましたし、このリサイタルを開けてよかったと心から思いました。

新しい海へ進んで行きたい

――「浅草キッド」は知る人ぞ知る名曲ですが、女性歌手がカバーすることは滅多にないと思います。その曲を取り上げた長田さんのセンスと歌い演じ切った市川さんの実力は大いに評価されるべきでしょう。
市川 うわぁ、今の言葉、長田さんにも聞かせたいです。
――それにしても、これから先の展開を考えると、とても心強い味方を得たようですね。
市川 一緒にお仕事をしていて、とても情熱というものを感じさせてくれる方なので、私も大いに刺激を受けますし、真剣に楽しみながらものづくりに取り組めます。
――市川さんは今年1月8日の誕生日に開かれた所信表明のイベント『市川由紀乃生誕47th ソノサキへの船出』で、これからの活動に向かう気持ちを“新たな船出”と表現されていました。市川さんと長田さんは共に航路を行く船長と一等航海士のようなものでしょうか。
市川 そうかも知れません。新しい海へ進んで行きたいですねぇ。
――そういう意識で結ばれた市川さんとスタッフで作り上げたとなれば『ソノサキノハジ真利』というタイトルの意味も、より明確になってきます。
市川 去年のリサイタルの『ソノサキノユキノ』というタイトルがとても好評でしたので、今回も“ソノサキノ”を活かしたいねってスタッフと話していて、マネージャーさんとヘアメイクの春ちゃんと話している時に“はじまり”って言葉よくない?って意見が出て、それなら“まり”を本名の“真利”にしたら?なんて案も上がったりして決まったものだったんですけど、“はじまり”という言葉の背景には長田さんの存在が共通項としてあったかも知れません。

次のことを考えると楽しみでドキドキしてきます

――ところで、市川さんの本名を知らない人には“ハジ真利”って何!?って感じだったでしょうし、東京公演の開演が夕方の5時55分だったのも謎だったに違いありません。
市川 「いったい何!?」って思っていただけたら、少しでも興味を持っていただくことになるからいいんじゃない?って考え方で、リサイタルの内容が枠にとらわれない自由な感じなので、タイトルや開演時間も常識に縛られずに行こうということで決めました。
――初めはタイトルの“ハジ真利”の意味を理解できなかったんですが、終盤には納得している自分がいました。このステージは市川由紀乃さんではなく松村真利さんの感性で作られていて、だからこそ同じ時代を生きる人たちの共感を得られる内容になっていたんだと。しかし、演歌色の強い「海峡出船」「横笛物語」など市川由紀乃さんにとって大切な作品も選ばれていて以前からのファンにも喜ばれるであろう構成でした。
市川 やっぱり今の市川由紀乃があるのは、過去に歌ってファンの皆さんに愛していただいた歌があるからこそなので、そういう作品も外したくないと思いました。
――では、市川さんご自身は東京・大阪の公演を振り返って、今回のリサイタルを採点すると何点くらいになるでしょうか?
市川 どれくらいできたか?ってことになると反省点も改善点もあるので甘い点はつけられないんですけど、自分がやりたいと思うことをどのくらいできたかっていうことで考えれば、ほぼ100%って言っていいと思います。
――ご覧になった方々の評価も総じて良かったと思います。
市川 敢えて良くない評価は私の耳に入らないようにっていうスタッフの配慮もあるかも知れませんが、お蔭さまで沢山の良い評価が届いています。マスコミやメディアの方にも「面白かった」「いろんなことができるんだね」「次は何をやってくれるのかな?」なんて言葉をいただいていて本当に嬉しくて、次のことを考えると楽しみでドキドキしてきます(笑)。

これからの市川由紀乃にさらに期待していただけるように

――これは市川さんと長田さんの最強タッグへの期待がますます高まりますが、聞こえているところでは長田さんは、仕事の相手をかなり選ばれる方で、誰の演出でも引き受けるということがないとか。
市川 そんな方に協力していただけるんですから本当にありがたいですし、もっともっと高いところを目指さなければっていう気持ちになります。
――そういう気持ちにさせてくれる存在を手に入れたことは、市川さんの“ソノサキ”を考える上で非常に心強いですね。
市川 そう思います。例えばリハーサルやゲネプロで私自身は上手くできたと思っていても、長田さんは「ちょっとニュアンスが違うんだけどなぁ…」なんて言われることがあって、でも、そういう時も「でも本番では一番いいものを見せてくれるはずだと信じてますから」なんておっしゃって、私をマイナスな気持ちにされることがないんです。
――リサイタルの成功のような大きな目的に向かう時に、そういう人が身近にいるのは大事なことですね。ある意味で市川さんをその気にさせる、乗せるということも必要でしょうから。
市川 私、乗せられてしまってました(笑)。
――乗せられた市川さんのステージを観て、こちらは今まで川にいた魚が海に出たような印象を受けました。ひとすじに演歌川を泳いできた人が、歌謡海という海に進出した、つまり、それが“ハジ真利”ということなのでは?と思います。
市川 そんな風に感じていただけているなら、今回のリサイタルは成功だったと私も思っていいのかなという気持ちになれます。デビュー30周年を過ぎましたけど、まだまだ完成もしていないし終わりも見えない、そういうところにいますから、この一つの節目を新たな始まりと捉えて、これからの市川由紀乃にさらに期待していただけるように活動していきたいですね。ただ、繰り返しになりますけど、私が海に出たとしても、自分が育った川のことは忘れられないし、忘れてはいけないって思いますので、演歌も大切に歌っていきます。
――実際、川と海は隔てなくつながっていますから行き来は自由ですものね。

アルバム『唄女V~ソノサキへ』

市川 お蔭さまで私のファンクラブには最近になって市川由紀乃を知ってくださったという方も多くいらっしゃって、中には私が『ミリオンヒット音楽祭 演歌の乱』というテレビ番組で安室奈美恵さんの「Hero」を歌ったのを観てファンになったというご夫婦もいらっしゃいます。歌手としての原点や柱になるものは大事ですが、表現の仕方は海のように果てがない方がいいんだと思います。
――市川さんが多くのファンを乗せた豪華客船で歌謡海をゆくのが見えてくるような気がします。1月の“ソノサキへの船出”で市川さんは船長をイメージさせる姿で登場されましたが、あれはまさに“ソノサキ”を示すものだったんですね。
市川 そういうことになりますね。私自身あの時点で“ソノサキ”が明確に見えていたわけではないんですけど、目指すべき方に進めている気はします。そして今年はその進み方が速くて、様々な課題に取り組んで、なんとか乗り越えながら気が付いたらもう年末も近いというような、ありがたいことに本当に充実した一年を送らせていただけたと思っています。
――それはご苦心もあるでしょうが、現状は順風満帆、船は気持ちよく進んでいるようですね。
市川 もちろんお仕事を楽しくさせていただけて、これからのことを考えるのもわくわくするんですけど、不安がないわけではありません。でも、そういう感情が起きた時、弱音は吐きたくないんです。愚痴をこぼしたり不満を漏らしたりすると自分に負けた気がするので。
――その辺りは心の健康に障らない程度に吐き出した方がいいと思いますが、大航海を司る人には必要な覚悟や心構えなのかも知れません。さて、今年のリサイタルと共にこれから進む方向が示されていると想われるのが11月8日にリリースされたアルバム『唄女(うたいびと)V~ソノサキへ』です。このシリーズは過去に4作が発売されていて、そこには島倉千代子さんの「東京だよおっ母さん」や渥美二郎さんの「夢追い酒」から、ちあきなおみさんの「喝采」、ペドロ&カプリシャスの「五番街のマリーへ」、ピンク・レディーの「ペッパー警部」まで昭和歌謡史を彩る数々のヒット曲が収められていました。それが『唄女V』では初めて平成の作品が取り上げられていて、それが高橋洋子さんの「魂のルフラン」。この曲と森 進一さんの「命あたえて」や八代亜紀さんの「おんな港町」が同じ一枚に収録されているんですから驚きました。
市川 この曲は私の希望で収録させていただきました。ジャケット写真でも表現したつもりなんですけど、私の中にある多面性を感じていただきたいという気持ちもあって…。
――まさにその“色々あり”というところが歌謡曲・流行歌の面白さだと思いますが、それをアルバムで実現してしまえる人はなかなかいません。
市川 キングレコードさんが起ち上げてくださったデビュー30周年記念の特設サイトでアルバム収録曲の候補を募集しまして、そこでリクエストが多かった曲と私が歌いたい曲を入れたんですけど、“ルフラン”は私のわがままです。今までわがままを言ってこなかった歌手人生でしたので、そろそろいいかなと(笑)。
――「魂のルフラン」はアニメファンの間で高い人気を誇る映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』の主題歌。日本のアニメは海外での人気も高いので、こうした曲を歌うことで国境を越えた支持を得ることも考えられます。
市川 そうですね、これからは私を知らない方々にもっと知っていただきたいと思いますし、私自身も未知の領域や分野へ活動の幅を拡げていきたいです。
――収録曲の「どうぞこのまま」は市川さんが生まれた年に発売された歌ですね。
市川 そうなんですね。タイトルは知っていたんですけど今回初めてちゃんと聴きました。いい歌ですよねぇ…。こういうボサノバのような曲調って、なんだか大人が聴くものっていうイメージがあって、あまり接点がないままだったんですけど、聴いてみたらとても心地よくて、考えてみたら私、十分に大人の歳でした(笑)。

――良いタイミングだと思うので、これからは今まで触れて来なかったような音楽にも積極的に耳を傾けて自分の活動に採り入れていかれたらと思いますが、このアルバムによって作品の分野でも“ハジ真利”ましたね?
市川 そう捉えていただけたら幸いです。以前に歌ったことのある曲も初めて歌う曲も、気持ちを込めて大切に歌わせていただきましたので、それが聴いてくださる方に伝わってくれたら嬉しいです。
――出来栄えへの自信は?
市川 スタッフからOKが出ても、自分が納得いかない場合は何度もレコーディングし直して作りましたから悔いはありません。ただ、自信があります!なんて言い切るには、まだ私には課題があると思うので、これくらいで察していただけるとありがたいです。
――察しましょう(笑)。『唄女V』に限らず、シングル「花わずらい」やリサイタルについても自分の要望や意見が採用される中で良い作品を作り、良い結果を出せて、2023年はとても充実した一年になったと言えそうですね。
市川 そう思います。そして言っていただいたように今年が“ハジ真利”であるなら、このままいつまでも終わりが見えない、それこそ果てしない海を行くような活動をしていけたらと思います。
――その航海は乗客にとっても楽しいものであるに違いありません。ますます自分らしい活動をしていかれることを楽しみにしています。
市川 私も楽しみです。お蔭さまで今年は12月30日までお仕事をさせていただけますので、当日はこの喜びを噛み締めながら歌わせていただきたいと思いますが、大晦日も歌っていたいという気持ちは失くしていませんので、自分らしさを忘れずに、でも欲張りであることも大切に頑張っていきます。どうもありがとうございました。

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