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キーエンスを研究する【就活はこれを読んでから】

株式会社キーエンス(以下、キーエンス)はセンサーや測定器などをつくる世界的なメーカーですが、それより有名なのは年収の高さではないでしょうか。

キーエンスの社員の年収は40歳前に2,000万円を超え、これは5大商社の40代で1,500万円という水準をはるかに上回ります(*1、2、3)。

しかもキーエンスは時価総額(=株価×発行済株式数)でも国内トップ3に入ります(*4、5)。

こうした事実を知ると「なぜセンサーや測定器の製造販売でこれほど儲かるのか」と感じるのではないでしょうか。そして「キーエンスは何をしているのか」と不思議に思うはず。

その謎に迫ってみます。

記事中のデータは2022年11月現在のものです。

*1:https://www.keyence.co.jp/company/financial-info/

*2:https://www.itochu.co.jp/ja/files/security_98.pdf

*3:https://www.sumitomocorp.com/-/media/Files/hq/ir/report/yuho/2021/20220624yuho.pdf?la=ja

*4:https://r.nikkei.com/markets/ranking/caphigh

*5:https://strainer.jp/companies


活動内容と概要


キーエンスがつくっている製品は、センサー、測定器、画像処理機器、制御機器、計測機器、研究・開発用解析機器、ビジネス情報機器などです。これらの1つひとつは珍しいものではなく、類似製品は他メーカーもつくっています。

しかしキーエンスは「ファクトリー・オートメーション総合メーカー」を名乗っています(*6)。つまりキーエンスは、顧客企業の工場の自動化をサポートする機器をつくっている会社です。キーエンスのセンサーや測定器や像処理機器などは、顧客企業の工場を最先端のモノづくり現場にするためのものなのです。

そしてキーエンスは単なる「メーカー」でも「機器つくっている会社」でもなく、自社工場を持たないファブレス・メーカーです。


*6:https://www.keyence-engineering.co.jp/group/businessmodel/


会社概要


キーエンスの会社概要は以下のとおり(*1、7)。


■キーエンスの会社概要

●本社住所:大阪市東淀川区東中島1-3-14

●代表取締役社長:中田有

●設立:1974年

●資本金:約306億円

●従業員数:連結で8,961人

●東証プライム市場に上場

●連結売上高:7,552億円(2021年度)

●連結当期純利益:3,034億円(同上)

●大株主(多い順):株式会社ティ・ティ(15.07%)、日本マスタートラスト信託銀行(12.92%)、日本カストディ銀行(8.27%)、公益財団法人キーエンス財団(4.57%)、JP MORGAN CHASE BANK(3.26%)、滝崎武光(3.15%)


キーエンスは兵庫県尼崎市で創業しましたが、すぐに大阪市に移転しています。

社長の中田有氏は1974年生まれなので40代社長です。中田氏は関西学院大学法学部を卒業してキーエンスに入社してトップに上り詰めた、生え抜き社長でもあります(*8)。

大株主に名を連ねる滝崎武光氏は創業者で、現在はキーエンスの名誉会長に就任しています。

滝崎氏は経済誌のインタビューで「権限を委譲して考え方を伝えて現場と一緒に考えないとよいアイデアは生まれない。創業当時から自分がいなくても会社が回るようにずっと考えてきた」と話していて、このことからキーエンスが実力重視の会社であることがわかります。

なお筆頭株主の株式会社ティ・ティは、滝崎氏に関連した資産管理会社です。


*7:https://www.keyence.co.jp/company/about/#about-keyence

*8:https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00428/021700008/


ファブレス・メーカーとは


ファブレス・メーカーとは、研究、開発、設計を自社で行い、製造は工場を持つ他社に委託する会社のことです。iPhoneのアップル社もファブレス体制を敷いています。


キーエンスは、自社製品の製造を委託している会社の名称や工場の場所は公表してなく、「製造は国内と海外の協力会社にアウトソース(外注)している」とのみ説明しています(*6)。

ただキーエンスは「つくらせっぱなし」にしているわけではなく、自社の品質管理部門が協力会社の工場に入り生産に深く関与しています(*1)。


ファブレス体制はキーエンスの「儲けの源泉」になっています。

自社工場だと、つくる製品が変われば製造ラインも変えなければならず多額のコストがかかります。しかしファブレスなら製品にマッチした工場を選択すればよく製造ラインを変更するコストを負担せず新製品をつくることができます。

もちろんその代わりに、キーエンスは協力会社に対し、製造の「手間賃」を支払うことになりますが、それでももう1つのメリットがあるのでコストを十分吸収できます。

もう1つのメリットとは、生産体制を意識した研究開発をしなくて済むことです。


自社工場を持っていると、開発者はどうしても自社工場でつくれるものを開発しようとしてしまうでしょう。それではイノベーティブな製品をつくることができません。

ファブレス体制なら、市場競争力があるイノベーティブな製品を開発してから生産工場を探せばよいわけです。キーエンスは「世界情勢や市場の変化に左右されず、付加価値の高い商品を大量生産するには、このファブレスという発想が不可欠です」と言い切っています。


ダイレクトセールスとは


キーエンスのもう1つの「儲けの源泉」はダイレクトセールスです。キーエンスでは自社製品を、自社の営業担当者が直接顧客企業に販売しています。問屋や代理店を介さず販売するので中間マージンが発生しません。この販売スタイルは海外でも貫いています。

ダイレクトセールスにももう1つのメリットがあり、それは営業担当者が顧客企業の課題を聞き取ることができることです。その情報は開発担当者に伝えられ、新しい製品をつくるヒントになります。そのためキーエンスの営業担当者は、顧客企業の生産現場にまで足を運びます(*6)。


キーエンスの製品の強み


キーエンスの製品は次のとおり。


・センサー・判別変位センサー・変位計・寸法測定器・安全機器・画像処理システム・画像センサー・投影機・測定顕微鏡・画像寸法測定器・PLC/モータ・マイクロスコープ・測定機・三次元測定機・3Dスキャナ・タッチパネル・データロガー・記録計・粗さ計・形状測定機・顕微鏡/SEM・ハンディターミナル・レーザマーカ・産業用インクジェット・流量センサー・圧力センサー・レベルセンサー・バーコードリーダ・3Dプリンタ・イオナイザ・静電気対策機器・元素分析・業務自動化ソフトウェアなど


これらはモノづくり企業が使う製品という共通点があります。そしていずれも、モノづくり企業が高付加価値、高性能、高機能の製品をつくるときに必要な機器です。

キーエンス製品の7割は世界初または業界初であるといいます(*6)。

キーエンスは、高付加価値製品をつくるメーカーを支える高付加価値機器メーカーといえるでしょう。


同業他社と異なる特徴

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