交通手段が集まる「モビリティハブ」がまちづくりで注目されている理由

モビリティハブは複数の交通手段が集まっている場所の名称です。例えば鉄道の駅は、電車、バス、タクシーと複数の交通手段が集まっている場所なので広い意味ではモビリティハブです。しかし現代のモビリティハブは高度化しています。

現代は交通手段が増えて、移動に関するニーズが多様化しているので、高度なモビリティハブが求められるようになりました。モビリティハブはこれからのまちづくりのキーワードになるでしょう。

この記事では、そもそもモビリティハブがどのようなものであるのかを解説したうえで、まちづくりにモビリティハブを導入するメリットを紹介します。さらにモビリティハブの活用事例を確認していきます。

モビリティハブとは？

本章ではモビリティハブとは何か、明らかにしていきます。

モビリティハブはモビリティ・アズ・ア・サービス（以下、MaaS）の文脈でとらえられることが多いでしょう。MaaSを実現するためにモビリティハブを用いる、といっても過言ではありません。

そこで先にMaaSを説明したから、モビリティハブを解説していきます。

MaaSを実現するためのモビリティハブ

国土交通省はMaaSを次のように定義しています。

■MaaSの定義

地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるもの

この定義のポイントは、1）対象者が地域住民だけでなく旅行者も含まれている、2）複数の交通手段の利活用を念頭に置いている、3）検索・予約・決済も含まれている、4）交通分野にとどまらず観光分野や医療分野なども関与する、5）地域課題の解決に資する、の5点になります。

なおこの定義のなかにはITという文字が出てきませんが3）の検索・予約・決済はインターネットやスマホの利用を前提にしているので、ITもMaaSに深く関わっています。

MaaSでは、これだけ複雑かつ高度なことを成し遂げようとしているので、モビリティハブが必要になるわけです。

参照：

「MaaSとは」（国土交通省）

https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/japanmaas/promotion/

「「移動」の概念が変わる？　新たな移動サービス「MaaS（マース）」」（政府広報）

https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201912/1.html

交通手段の結節点としてのモビリティハブ

結節点とは、つなぎ合わせた部分、結び目という意味です。モビリティハブには、複数の交通手段の結節点という特徴があります。

例えば、カーシェアの利用を終えて、借りた自動車を指定の駐車場に置いたあと、その駐車場のエリア内に設置されているシェアサイクリングの自転車を借りて会社に向かう、といった場合、この駐車場はモビリティハブになります。なぜならカーシェアとシェアサイクリングという2つの交通手段をつないでいるからです。

この駐車場のエリア内にシェア電動キックボードがあれば、モビリティハブとしての機能はさらに充実することになります。

場所ごとのモビリティハブ

モビリティハブ事業では、電車、車、自転車、飛行機、電動キックボードといった交通手段だけでなく、モビリティハブが置かれる場所も重要になります。

例えば、住宅街やその周辺にモビリティハブを設置すれば、近隣住民が自宅からコンビニに行ったり、病院に行ったり、公園に遊びに行ったりするのに便利です。

また、オフィス街にモビリティハブを置けば、営業担当者はさまざまな交通手段を使って得意先に行くことができます。

地方にモビリティハブがあれば、運転免許を返納して自家用車を使えなくなった高齢者が買い物難民にならずに済みます。

このようにモビリティハブでは、利用者目線がとても重要になってきます。モビリティハブを設置するときは、これを利用するであろう人が今、どのような移動ニーズ、交通ニーズ、生活ニーズを抱えているのか把握する必要があるでしょう。

経済、ビジネスの観点でのモビリティハブ

 

モビリティハブはビジネスに組み込むことができます。モビリティハブは経済成長に寄与するポテンシャルを持っているのです。

例えば、有名観光地では今、観光客が大量に押し寄せてしまうオーバー・ツーリズムが問題になっています。観光客が地域の足になっている公共交通機関を占領してしまい、地域住民が困っているケースがあるくらいです。

モビリティハブを有名観光地に整備すると、交通手段が増えるので公共交通機関への集中が緩和されます。また、モビリティハブで使用する自転車や電動キックボードは乗っていて楽しいものなので、それ自体が観光ツールになります。

また、大型ショッピングモールが敷地内や近隣に複数のモビリティハブを置けば集客に貢献するでしょう。

物流拠点としてのモビリティハブ

 

物流も経済やビジネスの一種になるのですが、モビリティハブの観点では特筆すべき点があるので別途解説します。

物流は経済の血液に例えられ、これが滞ると経済の低迷を招きます。それほど重要な物流でありながら、トラック・ドライバー不足、宅配便の再配達コスト増、EC（ネット通販）の拡大による物流ニーズの増大といった複数の問題を抱えています。

物流の「線」の上にモビリティハブという「点」を置くことで、物流の流れが改善されることが期待されています。

例えば宅配便では、大量の荷物を積んだ大きなトラックで、住宅や商店が密集した地域を巡るのは不便です。交通事故のリスクもありますし、交通渋滞を引き起こすかもしれません。そこで住宅・商店密集地の手前にモビリティハブを設置して、トラックを停めておけるスペースと、小分けした荷物を運ぶことができる交通手段を配置しておけば、配達担当者も地域住民も快適に物流を利用できます。

また宅配便の再配達問題では、マンションや一軒家に設置する宅配ボックスが有効手段になっていますが、これも物流モビリティハブのツールと考えることができます。

交通手段の革新としてのモビリティハブ

 

モビリティハブにはさまざまな交通手段が使われる、と説明しました。この交通手段のなかには革新的なものも含まれます。例えば電気自動車（以下EV）や自動運転車、空飛ぶ車、宅配用のドローンなどです。

これら革新的な交通手段はモビリティハブの可能性を広げることになるでしょう。

また、従来の交通手段を使いながら、モビリティハブを革新的に運用することもできます。例えば貨物列車の駅にモビリティハブを整備すれば、環境負荷が低い貨物列車をこれまで以上に活用できます。

 

モビリティハブのメリット

 

地域にモビリティハブがあると、次のようなメリットを期待できます。

 

●交通手段の多様化と利便性の向上

●環境負荷の軽減

●経済的にお得

●ユーザー体験の向上

●社会的包摂の促進

一つずつ確認していきましょう。

 

交通手段の多様化と利便性の向上

モビリティハブは地域に、交通手段の多様化と利便性の向上をもたらすでしょう。例えば、バス、電車、タクシー、カーシェアリング、シェアサイクリングを1カ所で使える場所があれば、地域の人たちや観光客はそれらのなかから好き交通手段を選ぶことができます。

さらに、日によって交通手段を変えることもできます。「いつもはバスを使っているが運動不足を解消するために今日はシェアサイクリングを使おう」といったこともできるわけです。

そしてモビリティハブが増えることで交通手段の多様化はさらに進みます。あるモビリティハブから別のモビリティハブまでタクシーで行って、そこでシェアサイクリングに乗り換えて地域を巡り、そこから3カ所目のモビリティハブに行って電車で帰宅する、といったこともできるのです。

交通手段の多様化は利用者の利便性の向上につながります。モビリティハブという点が増えて、交通手段によって線になれば、利用者の移動は途切れることなく続くからです。そして移動が途切れないと移動時間が短縮されるでしょう。モビリティハブの充実は都市のなかの移動も、複数の都市間の移動も効率化します。

 

環境負荷の軽減

モビリティハブは地域に、環境負荷の軽減をもたらすでしょう。

国道交通省によると、輸送量当たりのCO2排出量（単位はg-CO2／人キロ）は、自家用車173、航空111、バス51、鉄道19となっています。自家用車は便利ですが環境負荷が大きく、鉄道は環境負荷が小さいのですが行きたい場所の近くまでしかいけません。

モビリティハブはさまざまな交通手段をミックスすることができるので、最適な移動を可能にします。「最適」とは、利便性を高めたいときは利便性を高め、環境負荷を小さくしたいときは環境負荷を小さくできる、という意味になります。したがって、最適な移動が可能になると、利便性と環境負荷を最適化されるのです。

モビリティハブの整備が進めば、自家用車の利用が格段に減って環境負荷が減少したのに利便性が低下していない、という良い効果が得られるでしょう。CO2排出量が減るだけでなく、大気汚染や交通渋滞も改善されるはずです。このことは持続可能な都市環境の実現に寄与します。

 

参照：「公共交通機関の利用促進による二酸化炭素排出削減に向けた課題」（国土交通省）

https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/hakusho/h20/html/j1211300.html

 

経済的にお得

モビリティハブは経済的にお得な仕組みです。お得さは、さまざまな人にもたらされます。

例えば移動にかかる費用を減らしたい人なら、モビリティハブにある、最も安い交通手段を選択することができます。これが利用者のお得です。

そしてモビリティハブの利用者が増えれば、そこに乗り入れている電車やバスなどの利用も増えるので、公共交通機関の事業者が潤います。これが公共交通機関の事業者のお得です。

さらにモビリティハブは住民サービスの向上につながるので、つまり住みやすい街になり、その地域の人口が増えるかもしれません。人口減に悩む自治体にとってのお得になるでしょう。

まだあります。モビリティハブは新しい交通手段を生み出すモチベーションになるので、ベンチャー企業を刺激するでしょう。新たなビジネスチャンスを生み、そのビジネスチャンスを手にした企業は雇用を増やします。つまり、ベンチャー企業にも労働者にもお得になります。

ユーザー体験の向上

アサオカから

この見出しは元は利便性の向上とユーザー体験の向上となっていましたが、利便性は最初のh3で紹介しているので、ユーザー体験の向上としました。

モビリティハブはユーザー体験の向上をもたらすでしょう。

例えば電動キックボードはこれまでになかった交通手段であり利便性の高さが注目されていますが、乗っていて楽しい乗り物でもあります。つまり、交通手段は通常A地点からB地点まで快適かつ安全かつ素早く移動できればよいのですが、電動キックボードはそこに楽しさが加わるのです。

さらに、モビリティハブ事業にデジタルプラットフォームが加わると予約や支払いが一元管理できるようになり、これもユーザー体験を向上させます。

 

社会的包摂の促進

モビリティハブは地域に、社会的包摂の促進をもたらすでしょう。社会的包摂とは、社会的に全体を包み込み、誰も排除されず、全員が社会に参画する機会を持つこと、です。

モビリティハブは交通手段が増えるので、そのなかには高齢者や障害者、低所得者など交通弱者が利用しやすいものも加わるはずです。誰でも気軽に移動できる社会を実現するツールがモビリティハブです。

 

モビリティハブの日本での活用事例

モビリティハブの日本での活用事例を紹介します。駐車場の例と駅の例です。

駐車場

重工業のA社のモビリティハブのコンセプトは、駐車スペースから社会インフラへ、です。A社は社会課題、車問題、まちづくりの3つの観点から新しい駐車場の在り方を考えました。

駐車場は普通、自家用車や営業車などを停めますが、モビリティハブ駐車場には電動キックボードや電動車いすが使える充電設備も備えます。

そして駐車場を宅配用ドローンの発着点にします。荷物を積んだトラックがモビリティハブ駐車場にやってきて、ここからドローンで1軒1軒に荷物を届けます。

さらに駐車場に太陽光発電用のパネルを設置して発電も行います。

普通の駐車場には車を置いておく機能しかありませんが、モビリティハブ駐車場はマルチタスクをこなすようになるので、それはもう社会インフラの一つになるわけです。

参照：「モビリティハブ駐車場」（IHI）

https://www.iuk.co.jp/parking/jisoshiki/future/mobility_hub/

駅

シェアサイクリングを全国展開するB社は駅などにマルチ・モビリティ・ステーションを設置しています。これはつまり、さまざま（マルチ）な乗り物（モビリティ）を置くところ（ステーション）です。

B社は自転車だけでなく、スクーター、小型EV、電気スクーターなどのシェアも事業化しました。さらにシェアサイクリングでは、自転車にGPS機能を搭載してコンピュータ・システムで管理することで遠隔地から予約したり、スマホ・アプリでロックを解除したり、返却・施錠できるようにしました。

マルチ・モビリティ・ステーションは、B社のさまざまな乗り物を置きます。そして駅にマルチ・モビリティ・ステーションを配置することで、鉄道も加わったモビリティハブになるわけです。

参照：「モビリティハブにおけるシェアサイクルの現状と駐車場連携について」（Open Street株式会社）

https://www.mlit.go.jp/toshi/content/001715952.pdf

 

まとめ

モビリティハブは、MaaSという、社会課題を新たな移動手法で解決するという壮大な構想のツールになるでしょう。モビリティハブにさまざまな交通手段を乗り入れることによって、利便性が増し、環境負荷が減り、経済を活性化させます。

工業立国でありモノづくり大国である日本は、モビリティづくりが得意です。そして人口減と都市部への人口集中が同時に進んでいるので、都市部では交通の過密化が進み、地方では交通難民を生んでいます。したがってモビリティハブは、日本が得意なモビリティを使って日本の社会課題を解決することにもなるわけです。とても期待が持てるまちづくりモデルといえるのではないでしょうか。