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チェット・ベイカーから始まる(2022.7.13)

今日は休み。彼女は朝から胃カメラに行っている。鼻からなのか口からなのかどっちなんだとそわそわしながら人生初の胃カメラに向かう彼女を猫と一緒に見送って、僕も僕でそわそわノートを書いている。

今日は休みで雨が降っている。とりあえず家にいる。スピーカーからチェット・ベイカーを流しながら、久しぶりに文章を書いている。Look for the silver lining〜とチェット・ベイカーが歌っている。

スピーカーで音楽を聴くのも久しぶりだったりする。畑に向かう道、軽トラを運転しながら音楽は流しているけど、年季の入った軽トラだからエンジンがいつも唸っているしエアコンもないから窓は開けっぱなしで、お世辞にも音楽に優しい環境とはいえない。

Time after time〜♪

だから家のスピーカーでチェット・ベイカーをじっくり聴けるのは楽しい。1日の始まりがいつもと違うのはいつだって楽しい。

彼女が帰ってくる。胃カメラコワイ、としか言えなくなっている。12時までご飯が食べれないらしい。胃カメラコワイ、オナカスイタ、としきりに言っている。その語彙力で彼女は仕事に出かけていった。また猫とお留守番。

外で雨がしとしと降っている。仕事柄天気予報は毎日チェックしているけど、梅雨がどうなったのかわからない。梅雨入りしてから、梅雨というほど雨が降っているような感じはしないし、でも梅雨が明けたと言えるほど夏っぽいかというとそんな感じもない。宙ぶらりんな天候が続いている。

でも季節は確実に夏の真ん中に向かって突き進んでいる。農作業中は汗だくで、水分は補給したそばから汗になって体から噴き出す。アイスが食べたくなる。ビールがうまい。夜は寝苦しい。エアコンが欲しい。

この前、畑でバーベキューをした。けっこう人が集まって、PA機材を使った本格的なライブが途中から始まって、歌声と談笑する声が入り混じって林檎の木と木の間を風と一緒に吹き抜けていた。緑の草が茂った地面に寝っ転がって青い空を見上げながら、他の人たちが作る賑わいに耳を傾けていた。

とても気持ちよかった。夏だな、と思った。真っ昼間からノンアルだけどビールを飲んで、煙を浴びながら肉を焼いて、流しそうめんまでやって。

楽しかった。疲れたけど、楽しかった。

2年前くらいから、軽い気持ちでバーベキューをすることが増えた。夏の空を見ると、特に前置きなく、バーベキューするか、と思うようになった。当時住んでいた物件の玄関前が広かったから、友達を呼んでわいわいやったり、ルームメイトと二人でしっぽり肉を焼くと、あぁ、夏だな、と思った。

今年はあと何回バーベキューできるかな。青森は夏は短いから、動ける時に動いておかないと、気づいたら雪の街に閉じ込められている。寒くて苦しい冬を乗り越えるために、夏の記憶を貯め込んでおかなきゃと思う。実際に思い出すことは少ないかもしれない。この前畑でやったバーベキューの記憶だって、もうほとんど思い出せない。ぼんやりとした断片を繋いでそれらしい感じで言葉に起こすことしかできない。

ただでさえ、昔の記憶にしがみつく握力が日々失われている。昔の記憶からその時感じた心の動きを再現する力が衰えている。それが悲しむべきことなのか、喜ぶべきことなのか、今の僕にはわからない。ただ、はっきりとした形の記憶に残らなくても、できるだけたくさんの出来事を通過して、その感覚を体に染み込ませておきたいとは思う。

それがいつ役に立つのかはわからないけど。

結局、午前中ずっとチェット・ベイカーを聴きながら、これを書いていた。猫は僕の近くで眠っていたり、ペンギンのぬいぐるみを足蹴りしていた。彼女も帰ってきて、嬉々として昼ごはんを作っている。

今日は休み。
午後は何をしようか。

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