Webに載せる記事とは違い、紙の本だから紹介できる写真があります。
時間軸に乗った写真、と表現すれば良いでしょうか。「あの頃」は問題でなかったけれど、「今」では同じことが許されないような写真。ともすると写真だけが一人歩きすることがある媒体では、「あの頃」の文脈に依った写真を発表するために、なかなかの勇気と、そして「良い子は真似しないでね」的なエクスキューズが求められます。
ほんの10年と少し前、タウシュベツ川橋梁を歩いて渡る人をたまに見かけました。高い所が苦手なので僕は渡りませんでしたが、橋脚の真下に立って橋を見上げたことはあります。どちらも蛮勇を奮ってのことではなく、当時は問題なく出来たこと。そして今となってはどちらもNG行為です。ただ、写真だけでそれを伝えるのは容易ではありません。
読者のリテラシーを当てにして、「あの頃」と「今」とに境界線を引くことができる安心感。紙の本を作る楽しさは、一つには、制約からのこうした自由さにあるような気がします。
もう一つの楽しさは、不特定多数に発信しているようでありながら、じつはどこまでも読者との1対1の関係を持てること。もしかすると、紙の本はラジオにどこか似ているのかもしれません。