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事業譲渡による所有権移転登記

こんばんは、お疲れ様です。

 「やったことないけど、とりあえずやってみるか。」最近こう言い聞かせることが多い。

 私のリサーチ力が無いのは否めないけど、どこにも記載例が載ってなかったのでもの凄ーく不安でした。

事業譲渡とは

 事業の譲渡とは、会社が取引行為として「事業」を他人に譲渡することをいう。
 会社法では、事業の全部または重要な一部を譲渡するとき、原則として株主総会の特別決議による承認を受けるべきものとする規制がある。

(事業譲渡等の承認等)
第467条 株式会社は、次に掲げる行為をする場合には、当該行為がその効力を生ずる日(以下この章において「効力発生日」という。)の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。
① 事業の全部の譲渡
② 事業の重要な一部の譲渡(当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないものを除く。)
②の2 その子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡(次のいずれにも該当する場合における譲渡に限る。)
 イ 当該譲渡により譲り渡す株式又は持分の帳簿価額が当該株式会社の総    資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えるとき。
 ロ 当該株式会社が、効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないとき。
③ 他の会社(外国会社その他の法人を含む。次条において同じ。)の事業の全部の譲受け
 (以下略)

会社法第467条第1項


 今回は事業の全部の譲渡に当たるため、譲渡会社においては1号の事業の全部の譲渡に当たり、譲受会社においては他の会社の事業の全部の譲受けに当たり、それぞれ株主総会の決議が必要となった。

株主総会の決議が不要となる場合


 ①略式事業譲渡等
 事業譲渡等の相手方が、事業譲渡等をする会社の特別支配会社(総株主の議決権の90%以上を有する場合)である場合である。

②簡易の事業譲受け
 譲受けの対価として交付する財産の帳簿価額が譲受会社の純資産額の20%を超えない場合である。ただし、一定の株主の反対がある場合は、株主総会を開催しなければならなくなる。

(事業譲渡等の承認を要しない場合)
第468条 前条の規定は、同条第一項第一号から第四号までに掲げる行為(以下この章において「事業譲渡等」という。)に係る契約の相手方が当該事業譲渡等をする株式会社の特別支配会社(ある株式会社の総株主の議決権の10分の9(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を他の会社及び当該他の会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人が有している場合における当該他の会社をいう。以下同じ。)である場合には、適用しない。
2 前条の規定は、同条第1項第3号に掲げる行為をする場合において、第1号に掲げる額の第2号に掲げる額に対する割合が5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないときは、適用しない。
 ① 当該他の会社の事業の全部の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額
 ② 当該株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額
3 前項に規定する場合において、法務省令で定める数の株式(前条第一項の株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)を有する株主が次条第三項の規定による通知又は同条第四項の公告の日から2週間以内に前条第一項第三号に掲げる行為に反対する旨を当該行為をする株式会社に対し通知したときは、当該株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。

会社法第468条



取締役の利益相反取引に該当するか?

 これが1番悩みました。

 今回のケースは代表取締役が同一人物であり両社とも取締役会設置会社であった。
 取締役の利益相反取引に該当する場合は、両社において事業譲渡契約につき取締役会の承認を得なければならない。さらに、登記申請書に取締役会議事録(印鑑証明書付き)を添付しなければならない。
 幸い今回の会社様は取締役会で契約の承認を行なっていた。ただ、株主総会の承認を得ているのに取締役会でも承認し、取締役会議事録と印鑑証明書まで添付する必要はあるのか、疑問である。

 これが通常の売買であれば、原則どおり利益相反の承認が必要なのは承知のところである。

 では、会社分割の場合はどうであろうか。
 これが不要となる。

 この違いは何なのか。。。
 ぴったりの記載がどこに書いてあるのか、どの書籍を調べればよいのか。

 もはや分からないなら付ければいいのでは?とも思ったが、取締役の個人の印鑑証明書を要求するため慎重になった。

 それに、根拠がわからないことをそのままにしておけば、また同じ悩みをすることになる。(経験済)

 以前、利益相反取引の実務書を購入していた。ただ登記系の書籍ではないし載っていないだろうと思ったが、ダメもとで開いてみた。

「このような募集株式の発行(会社法199Ⅱ)、新株予約権の発行(会社法238Ⅱ)、事業譲渡(会社法467Ⅰ)、合併等(会社法783Ⅰ)のように株主総会の特別決議が要求されている場合には、これらが同時に取締役・会社間の取引に該当するとしても、より厳格な決議が求められていることから、利益相反取引規制による会社の承認は不要であると解すべきである。」

実務家のための取締役の競業取引・利益相反取引規制


 !!!


 やっとヒントが見つかった気がする。
 これが近い気がする。
 全然確信は持てないけどそうっぽい気がする。

 会社の承認が必要な契約である以上、代表取締役が勝手に契約することは出来ないでしょという意味であろうか。これなら主張は成り立ちそう。

 ただし、こうも記載があった。

「なお、上記に例示した取引に関するものであっても、公開会社の有利発行ではない募集株式の発行(会社法201Ⅰ)や、簡易合併(会社法 796Ⅲ)のように、株主総会の特別決議が求められない場合には、利益相反取引規制による会社の承認は重ねて必要であると考えられているため(会社法コンメ(8)79頁〔北村雅史〕)、実務上このような場合には別途利益相反取引に関する会社の承認決議を得るのが無難と考える。」

実務家のための取締役の競業取引・利益相反取引規制

 

株主総会などの承認が不要な場合なら、事業譲渡だとしても、利益相反になり得る。とりあえず承認しておいた方がいいよ。ということである。

 今回は株主総会の承認が必要であったため、利益相反には該当しないだろうと少しだけ自信を持てたので、付けずに申請した。
 特に何も言われず完了しました。良かったあ。

 「いや、その先例ちゃんとありますよ?」っていう方がもしいれば、ぜひ教えてください。
 たくさんの人が救われます。

 先例や根拠を探すのが1番大変であるし、本当に見つからないと泣きそうになります。


登記申請書記載例

登記の目的    所有権移転
原因       令和4年11月1日事業譲渡
権利者      甲
義務者      乙
添付情報     登記識別情報
         登記原因証明情報
         代理権限証明情報
         会社法人等番号
         住所証明情報
         印鑑証明情報


登記原因証明情報記載例

 報告形式の登記原因証明情報において、「登記の原因となる事実又は法律行為」を抜粋する。

(1)事業譲渡契約の承認
 令和4年10月1日、甲の臨時株主総会及び乙の臨時株主総会において、甲及び乙間の事業譲渡契約が承認された。
(2)事業譲渡契約の締結
 令和4年10月5日、甲と乙の間で、乙は、甲に対し、乙が営む全ての事業(以下、承継事業という。)を譲渡し、甲は、これを譲り受ける旨の事業譲渡契約を締結した。当該事業譲渡契約書には、令和4年11月1日をもって、承継事業に属する不動産を含む資産、権利義務、契約上の地位を甲が乙から承継する旨の定めがある。
(3)不動産の承継
 本件不動産は、令和4年11月1日において承継事業に属する不動産であり、事業譲渡の効力が生じたことにより、乙から甲に承継された。


登記原因証明情報の詳細

・報告形式の登記原因証明情報
・甲の臨時株主総会議事録
・乙の臨時株主総会議事録
・上記議事録の押印者の印鑑証明書

今回は押印者は代表取締役のみであったため会社法人等番号を援用した。

これで問題なく登記完了した。

安心しました。
またひとつ何か積み上げられたような気持ちです。

おわり。

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