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「俺がルールブックだ!」 賞与のはなし

昔、プロ野球の審判の二出川 延明が放った「俺がルールブックだ!」という名言を知っているだろうか。

あるクロスプレーを巡ってセーフの判定をするがその判定に対しアウト判定をされたチームの監督から抗議があった。

二出川審判は、「今のは同時だからセーフだ!」と判定するが、「同時はアウトだ!ルールブックを出せ!」と詰め寄られるが、何と二出川はルールブックを家に置いてきてしまっていた。

その際に言い放ったのがその名言、「俺がルールブックだ!」だという。

さて、賞与の支払いには社長は苦悩するものだ。

利益が出ていれば出ていたで悩むし、利益が出ていなければ、どうすればいいのだろうかと悩むものだ。

どんな社長でも、社員に一円でも多く払ってあげたいと願うものであるが、現実は厳しいことも少なくない。

賞与の支給義務についてはっきりと明文している法文はない。

裁判例ではどうなっているのだろうか?

福岡雙葉(フタバ)学園事件(最高裁 H19.12.18)を見てみよう。


この学園の先生の賞与は5月の理事会で算定基礎額、及び乗率が一応決められるが、11月の理事会で人事院勧告の結果を受けて調整をしていたという。

つまり、正式な金額が決まるのは11月の理事会ということになっていた。

人事院勧告でマイナス調整された先生方は5月で決まったものに請求権がある旨主張したのだ。

これに対して最高裁は、

「上告人の期末勤勉手当の支給については,給与規程に『その都度理事会が定める金額を支給する。』との定めがあるにとどまるというのであって,具体的な支給額又はその算定方法の定めがないのであるから,

前年度の支給実績を下回らない期末勤勉手当を支給する旨の労使慣行が存したなどの事情がうかがわれない本件においては,

期末勤勉手当の請求権は,理事会が支給すべき金額を定めることにより初めて具体的権利として発生するものというべきである。」

と判示している。

つまり、社員側から見た賞与の請求権は、使用者側の決定によって発生するということなのだ。

但し、就業規則(給与規定)に具体的な計算方法等が示されている場合は、それによって社員の請求権があるということになる。

就業規則(給与規定)には、①会社の業績連動で支給するということ、②会社の業績によっては支給しないことすらあるんだということを明記することが重要だ。

決して、「夏季賞与は、基本給のヶ月分支給する。」などと記載してはダメだといことになる。

また、もう一つ注意しなければならないのは、労使慣行だ。

例えば、毎年決まって年間3ヶ月分の賞与支給がなされていれば、それは労使慣行と解されてしまい、社員は年間3ヶ月分の賞与の請求権を持ってしまうかもしれない。

また、会社業績が悪いのに、頑張って払ってあげてしまう場合も危険かもしれない。

そんなとき、私は、「業績がよくなった時に、今回の分を取り返せるように支給したらいいのではないでしょうか。」とアドバイスする。

社長は、私も含めて「払ってあげたい星人」なのだ。

どうしても、払ってあげたくなってしまう星に生まれたのだから、賞与をいつもよりも少なく払うことや、賞与不支給にすることは「悪」なのだ。

でも、これには注意がいる。

なぜなら、賞与の請求権は、使用者の決定で決まるからだ。

そして例外的に、就業規則(給与規定)の規定や、労使の合意・慣行等によって、具体的な算定基準や算定方法が定められた場合には、社員に請求権が発生してしまうことになる。

そう、心の中で叫ぶんです。

恐れることなく・・・

二出川 延明のように・・・・

「俺がルールブックだ!」

社員に言ってはダメです。

今回もだいぶこじつけてしまった・・・



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