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知らなかった・分からないでは済まされない:「合理的配慮の提供」とは

令和3年に改正された障害者差別解消法が、今年度から施行されました
その中で、「合理的配慮の提供」が義務化され、事業者は障害のある方々に対する適切な対応が求められています

今回は、障害福祉サービス事業を含めた全ての事業者が行うべき合理的配慮の提供について解説します


合理的配慮の提供の概要

「合理的配慮の提供」は、障害者が社会で平等に生活し、社会に参加する権利を保障するための重要な概念です

また、「合理的配慮」とは、障害者が個々の場面で必要とする社会的障壁を除去するための合理的な取り組みを指します

事業者や公共機関は、この取り組みを障害者の個々の事情に即して提供する義務を負います
加えて、合理的配慮は障害者のみならず、難病を持つ方や介護を要する方に対しても同様に提供・対応しなければなりません


合理的配慮の提供の留意事項

合理的配慮の提供は、事業や業務の目的・内容・機能に照らして以下の事項を満たすよう留意する必要があります

  1. 必要とされる範囲で本来の業務に付随するものであること

  2. 障害者でない者と比較して、同等の機会の提供を受けるためのものであること

  3. 事業・業務の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと


また、合理的配慮の提供は、過重の負担とならない範囲で行う必要があります
その判断は以下の事項を考慮し、総合的・客観的に判断することが求められます

  1. 事業の目的や機能、業務内容を損なうかどうか

  2. 物理的・技術的な制約、人的・体制上の制約を鑑みた実現可能性の程度

  3. 必要とする費用や負担の程度

  4. 事業の規模や財務の状況から許容できる負担の限度


合理的配慮を提供するための方策

合理的配慮を提供するためには、具体的な方策を計画し、実行する必要があります
以下にいくつかの実践的な方策を紹介します。

  1. 環境の整備
    物理的なバリアを取り除くための措置を講じます
    例えば、車椅子が通行しやすいように通路を広く保ち、段差を解消するためのスロープを設置します
    また、バリアフリーのトイレや浴室などの設置も有効です

  2. 情報の提供
    障害者に対して情報を提供する方法を多様化させます
    視覚障害者には点字の説明書や音声案内システムを提供し、聴覚障害者には筆談ボードや通訳アプリなどを用意します
    また、障害福祉サービスの利用を考えている障害者に対し、読み上げソフトの導入や視認性を向上させたホームページをセイブすることで、情報アクセシビリティを向上させます

  3. 人材の育成
    従業員に対して障害者に対する理解と対応のための研修を行います
    この研修により、障害者とのコミュニケーション方法や具体的なサポート方法を学び、現場での対応力を高めます
    併せて、就労継続系事業などにおける障害者の雇用・参画を促進し、働きやすい環境を整えることも重要です

  4. 個別対応
    障害の種類や程度に応じて、個別に対応します
    個別支援計画のアセスメントやモニタリングの機会、平素の会話などを通じて、障害者・サービス利用者から具体的なニーズを把握し、最適な配慮を提供します

  5. フィードバックの活用
    アセスメントやモニタリングなどの定期的な機会において、障害者・サービス利用者やその家族からのフィードバックを収集し、改善に役立てます
    また、アンケートや意見箱の設置なども活用し、継続的した見直し・改善を行います

合理的配慮の提供は、一過性ではなく、継続的な取り組みが求められます
現場での具体的な方策の実践と定期的な見直しにより、障害者・サービス利用者が安心してサービスを利用できる環境を維持することが重要です

なお、内閣府から合理的配慮の提供について、障害や場面の種別などに応じた事例が公開されていますので、ご参照ください

参照サイト:障害者差別解消法 ~合理的配慮の提供等事例集~(内閣府)


従業員が合理的配慮の提供を具現するための留意事項

従業員が合理的配慮の提供を具現するために、以下のような活動が必要です

  1. 明確な指針の設定
    合理的配慮の具体的な内容や実施方法の指針を設定し、従業員に周知徹底します

  2. 研修の実施
    合理的配慮に関する研修を定期的に実施します
    新たな従業員には基本的な研修を行い、全従業員には定期的なフォローアップ研修を実施します

  3. コミュニケーションの促進
    従業員間での情報共有や相談が円滑に行える環境を整えます
    部内のコミュニケーションツールや定期的なミーティングも活用します

  4. フィードバック体制の構築
    従業員からの意見などのフィードバックを受け付け、改善に役立てる体制を構築します
    匿名による意見提出ボックスの設置なども有効な手段です

  5. リソースの確保
    合理的配慮の提供には時間や費用、人員などのリソースが必要です
    事業主はこれらのリソースを適切に確保し、従業員が安心して合理的配慮を提供できるよう支援します
    この際、外部の専門家や団体との連携も視野に入れます

  6. 定期的な評価と改善
    合理的配慮の提供に関する取り組みを定期的に評価し、必要に応じて改善を行います
    第三者の視点を取り入れることで、より客観的な改善点を見つけることができます


合理的配慮の提供に関する建設的な対話

合理的配慮の提供は、障害者・サービス利用者の意向や意見を重視し、建設的な対話が必須で、以下のステップを踏むようにします

  1. 障害者・サービス利用者の意向を確認する

  2. 実施可能な配慮・対応を検討する

  3. 検討した配慮・対応を提案し、本人の意向を再確認する

  4. 双方が同意した配慮・対応を実行する

なお、避けるべき対話の例として、前例がない特別扱いはできない漠然としたリスクを理由に断るなどがあります
合理的配慮の提供は、個別の状況に応じた柔軟な対応常に求められます


まとめ

障害者・サービス利用者に対する「合理的配慮の提供」は、社会で平等に生活し、参加する権利を保障するための重要な取り組みです

事業者は障害者・サービス利用者に対して適切な対応を行い、継続的に改善することで、障害者等が安心して利用できる環境を提供する責任があります

また、合理的配慮の提供は一度行えば終わりではなく、継続的な取り組みが求められます

従業員の教育やフィードバック体制の構築、具体的な方策の実践などを通じて、より良い環境を整えましょう

なお、厚生労働省より、障害者差別解消法に関する福祉事業者向けガイドラインが公開されていますので、併せて一読されてはいかがでしょうか

資料:障害者差別解消法 福祉事業者向けガイドライン(令和6年3月)

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