障害福祉サービス事業におけるICTの活用とは
5月15日付の中日新聞に、こんな記事(記事リンク)がありました
障害福祉サービス事業におけるICTの活用については、以前から強調されているところで、令和6年度の報酬改定(横断的な改定事項)にも「障害福祉現場の業務効率化等を図るためのICTの活用等」という事項が明示されています
これほどまでに障害福祉の分野でICTの活用が声高く論ぜられたことは今までになかったことです
しかし、ICTの活用が今一つイメージできない、どんなシステムをどのように使えばいいのかなど、疑問や迷いを感じている方々が多くおられるのが現状でしょう
今回は、障害福祉サービス事業におけるICT活用についてお話したいと思います
ICTの活用でどうなる ?
ICTを活用することで、どうなるのかをお話しますと・・・
1.ICTの活用を進める理由:3つのメリット
事業者側のメリット
業務の効率化とコスト削減が図られ、提供するサービスの質を向上できるサービス利用者側のメリット
良質なサービスを受けることができ、また、必要な情報に容易にアクセスできることで、積極的に社会に参加できるようになる政府の政策上のメリット
サービス提供の状況や効果の評価、それらのデータを収集することにより、政策の改善や支援の適切な提供に反映できる
2.ICTの活用で、職場・現場の課題の解決が期待でる
人手不足を補うように業務負担を軽減する
要望や意見の交換、情報の共有が円滑になる
個人情報などの重要情報の保護と有効活用の両立ができる
ただし、ICTの導入にはコストと時間がかかりますので、活用したい現場や業務、導入したいシステム(機材や技術など)を吟味して、できることから進めると良いでしょう
活用できそうなICTには何がある?
ICTは情報通信技術と訳すだけあって、その用途も情報通信にかかわることになります
大きくは、次のような目的の達成や課題の解決に使われます
正確な情報をいつでも共有できる
地理的隔たりや移動の制約伴わないコミュニケーションができる
いくつもの細かな業務を統合・一元化できる
容易に利用者が利用でき、必要な情報を発信・入手できる
また、使われるICTシステムには、次のようなものがあます
※注:名称は、色々な呼び方があります
電子カルテシステム
医療や障害者福祉の現場で利用されるシステムで、利用者の医療記録や支援計画などを電子化し、ネットワーク端末(スマホやタブレット)でいつでも閲覧・利用ができることで、業務負担の軽減と正確な情報の共有が図れますオンライン予約システム
サービス利用の予約や申し込みをオンラインで行うシステムで、利用者は自身の利用計画を柔軟に調整できることで、利用者側の負担軽減と利便性の向上が図れますリモート支援システム
自宅で生活する利用者などに対して、ビデオ通話やチャット機能を活用した支援システムで、利用者とケアワーカーなどとの間の地理的距離、移動に係る時間などの制約にとらわれずに必要な支援を行うことができますオンラインコミュニティプラットフォーム
障害を持つ方々が、オンライン上のサロン等で交流することができる通信基盤で、地理的距離や移動の制約にとらわれずに社会参加の促進が期待できますアクセシビリティ支援システム
画面読み上げソフトウェアや点字ディスプレイなど、利用者が容易に操作できる支援システムで、利用者の負担軽減、活動の補助・補佐により、生活の質の向上が期待できます勤怠管理システム
職員等の勤務時間やサービス提供時間などの記録や管理を行い、報酬請求手続や経理業務などを一括で処理するシステムです
業務負担の軽減、データの誤入力の防止などが期待できますグループウェアシステム
スマホやタブレットを使用してメールやチャットのほか、スケジュールや日報などのデータ管理と共有、支援計画等の閲覧などを一元的に行えるシステムです
全職員等が同じ環境下で情報を常時共有することができ、過誤や伝達漏れの防止にも効果があります
これらは、ほんの一部であり、提供するサービスの内容や抱える課題に応じて、システムを選択することになります
ICTの導入と使用に当たって
ICTは、課題解決などの目的をもって活用すれば、実に頼もしいものです
しかし、メリットがある反面、デメリットもあり、使い方を間違えると新たな負担・課題となりかねません
例えば・・・
ICTシステムの導入と維持に、それなりにコストがかかる
効果的な活用ができなければ、役立たずとなる
器材操作に慣れが必要
器材、ネットワーク、電源が絶対必要
セキュリティ対策やバックアップを怠ると、高速でトラブルが深刻化する
情報のデジタル処理と電気通信による伝送に依存しているからこそ、これらのデメリットが生じます
よって、ここでも目的・問題解決を整理した上で、ICTシステムをどのように導入して使用するのかを定め、ブレることなく使い込むことが重要となります
そのためには、次のような順序で導入を進めるようにします
目的達成・問題解決の結果がどうあるべきなのかを整理する
目的達成・問題解決に適したシステムや器材を検索・列挙する
導入にかかるコスト、操作慣熟にかかる労力と時間を整理する
上記までの整理の結果を受けて、導入するシステムや器材を選定する
導入にはじまり、実業務で使用開始するまでの間の計画を立てる
システムを構成する器材やアプリの購入、設置作業などを行う
業務処理要領、セキュリティ対策、保守整備、万が一に備えたバックアップなどの体制と手順を確立する
手順書やマニュアルを作成する
職員等に対する説明や操作訓練を行う
使用開始後は、職員等からの意見や要望の聴取、発生した事象等の記録を行う
上記の意見や記録等から、体制や手順を見直し、職員等に対する周知・普及を行う(10と11は、日頃から繰り返す)
万が一への備え・構え
ICTシステムは、器材・ネットワーク・電源に依存しています
どれか一つでも機能しなければ、システムが止まり、結果的にシステムで成り立っていた業務が完全に止まります
何の備えや構えもないまま、業務が止まってからアナログ・手動に切り替えることは非常に難しくなります
例えば・・・
情報共有のために使用するスマホやタブレットが故障や紛失すると情報共有ができない
ネットワークが切れるとデータ・情報のやり取りができなくなる
停電の発生で予備電源がなければ、パソコン内にあるデータが取り出せない
また、セキュリティ対策が不十分、情報漏洩する温床があるなど、人の意志・行為によって引き起こされる事態も想定して備える・構える必要があります
パソコンにはセキュリティ対策ソフトを導入し、ウィルス定義ファイルなどを常に新しい状態に維持する
共有で使うパソコンは、使用者ごとにユーザー管理を設定する
個人情報などが含まれるデータには、パスワード設定を行い、自由に閲覧できないようにする
業務に使用するパソコンやデータを格納したUSBメモリーなどは、許可なく部外に持ち出せない体制や制度を作る
器材トラブルに備えたバックアップ器材や予備電源などを備蓄する
業務で使うデータは、クラウドサービス等を活用して常に最新のものをバックアップする
コンピューターウィルスの感染や情報漏洩などが確認された場合の対処要領を定め、職員等が適切に対処できるよう研修と訓練を行う
ICTシステム等のトラブルは、軽微なものから大惨事に至るものまであり、発生のタイミングなどが予期・予測できにくい特性があります
また、発生原因が故障や操作ミスのほか、自然災害や外部からのネットワーク攻撃など幅広くあるため、あらかじめの備えや構えには限界が出てきます
そこで、万が一のトラブル発生でも、事業を支える重要業務だけは停滞・中断させないための対処要領、代替手段や復旧手順などの必要最低限の事項を前もって定め、災害対策計画や業務継続計画(BCP)、事故等対処マニュアルなどに明示しておきます
まとめ
障害福祉サービス事業は、人対人の関係が基盤にあり、業務のほとんどはアナログ的で手動のものが多く、コミュニケーションで成り立っています
そのため、各業務を個別に見ると、重複した作業、手間や時間がかかる業務、確認してからでないと行えない業務などが多くあり、職員等の負担増や提供するサービスの質の低下などの問題・課題になりがちです
ICTは、それらの問題・課題を確実に低減・解消してくれるものです
しかし、使えるシステムを正しく選定し、適切に使用しなければ、新たな負担や問題・課題が発生してしまいます
そのことをよく理解しながら、導入の検討と導入後の有効活用を行っていただきたいものです
最後に、ネット上にICTに関する情報が多くありますので、是非とも活用してください
参考までに、いくつかのサイトやデータを以下に紹介します
1.東京都障害者支援施設デジタル通信
(東京都障害者サービス情報HPより)
2.障害福祉分野のICT・ロボット等導入支援事業における導入事例
(熊本県HPより)
3.障害福祉サービス事業所のI CTを活用した業務改善ガイドライン
(厚生労働省HPより)
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