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#1-2 Living in National Treasures とは?

 根幹にある「Living in National Treasures」とは一体どのような考えなのか。発案者である造園家・田瀬理夫さんに話を伺いました。

あるべき姿にもどしていくという目標

 造園家の田瀬理夫さんは、日本各地の街の景観や公共施設の庭などのデザインを手がけたことで知られる。造園家として仕事をするなかで、農業法人を立ち上げ、遠野市附馬牛町でクイーンズメドウ・カントリーハウス(Queen’s Meadow Country House 以下 QMCH)という場所を営んできた。

 「QMCHは、遠野の環境に適した馬を育成し、その堆肥を使用した無農薬、無化学肥料の農業を展開しています。そうして形成された生物相の豊かな環境にゆっくりと滞在できる場所をもった馬付き住宅を点在させるという試みです。馬に象徴されるような有機的な生活文化、生活の知恵を取り戻すこと。そして、昔ながらの遠野固有の生態系をもった自然を再生させることを目標としています」。

 北上高地は、深い森林とそれによって育まれる農地や漁場という豊かな環境を本来的にもった地域である。その地域資源を活かし、人と馬が数百年かけて築いてきたインフラを活用すれば、地域固有の生物相による多様性を維持し、生業をもち、食料や物、建築やエネルギーも自給自足できる、都会にはない豊かな世界が実現できるはず。QMCHは、その実現に向けた先行モデルである。そして、こうした本来あるべき生業や環境を目指すビジョンが「Living in National Treasures」だ。

地域性は川の流域から生まれる

 「北上高地、遠野盆地で活力ある生活を営むための基本的なベースには、まず一次産業がしっかりと成立している必要があります。馬と共に暮らすという文化的景観を継承していくと同時に、田んぼや畑を有機化していくこと。最上流から川の水を汚さずに、農業を下流へ展開していくことが、地域性を取り戻すうえでとても重要です。まず生産物そのものに価値がなければ六次産業など成り立ちません」。

 地域性や文化とは、生業(地域の営み)のことだ。日常の仕事が地域固有のものになっていれば、それが地域の景観となっていく。かつて日本有数の馬産地であった遠野は、人と馬がひとつ屋根の下に住み、曲り家、屋敷周り、田畑、草刈り場、放牧地、駒形神社と馬溜まり、といった人と馬との関わりが連続的に営まれていた。

 かつての馬農家の土地利用とそのインフラを活用し、次世代にふさわしいライフスタイルを確立していく。町中に馬がたくさんいるということになれば、全国どこも真似できない場所になるのではないか。

 「環境を再生する事自体を事業化していくという考え方が重要です。水系を再生し、鮭が川に戻れば、内陸漁業の復活にもつながっていきます。内陸の河川一帯を統括して管理し、川と海と森の生業をつくる。そのための活動をひたすらやるんです。そうすることで、豊かな暮らしが取り戻されていくんですね。そこに地域再生の可能性があると思っています」。


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