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全てのことに理由が欲しい


あれから今までと変わらないいつも通りの毎日のようで、どこかいつも通りではない毎日を送っている。

人は生活の全て、自分の気の持ちようひとつで変わっていくものなのかもしれない。
だからか分からないけれどなんだか、以前のような体温を感じる人間味に溢れた文章は、もう今のわたしには書けない気がしている。

あの頃のわたしも好きだったけれど、だけど、今のわたしの方があの頃に比べて何倍も好きなわたしでいられる。
もう誰かに愛情を向けることが怖くなってしまった。
今は今のわたしがいなくなることがとんでもなく怖い。
今はわたしだけがわたしを好きでいられたらそれでいい。


自分だけを大切にする生活。
寂しいとか誰かと一緒にいたいとかそういう感情、全くもってなくなってしまった。

これはこれでなんとなく寂しい人間になってしまったんじゃないかと少し勿体無く感じるけれど、きっと多くの人間はこんなもんで生きているのかもしれない。
健全な人間関係は少しばかり冷たさを孕んでいる。

''大丈夫ですよ 問題ないですよ
昨日のこともさっきのことも全部忘れても
なんにも考えなくていいよ 投げKISSをあげるよ
ブラックホールの向こう側に投げKISSをあげるんだ''


友達に熱烈に勧められて『PERFECT DAYS』という映画を観た。
絶対好きな感じだと思うという言葉通り、めちゃくちゃわたし好みの素敵な作品だった。
役所広司の表情が良すぎて何度も涙が流れた。

決まったルーティーンをこなしていく毎日の中で生まれる出来事が紡がれていくんだけど、その毎日の生活がわたしにはすごく刺さった。


生活にはいつも孤独が隣り合わせなのだ。
気付かぬうちに人間は崖の縁に立っている。
それに気付かないように自分で生活を作っていく、毎日を誤魔化しながら生きていく。

誰も端っこで泣かないように地球を丸く作ってくれた君、野田洋次郎はどんな女性と出会ったんだろう。

ひとりでいることに慣れていく。それが心地良くなっていく。
本当は人間はどこまでいってもひとりなのだけど、愛や温もり、それ以上を知っていたのなら、不意に出会い感じるそれらに押し潰されそうになってしまう生き物なのですね。


そうだよ、わたしはひとりなの。
みんな誰かいるけどわたしには誰もいないの。
そうだよ、誰もいないの。
いいよ、みんないなくなって。どんどんいなくなって。
そうやってわたしをひとりだって、ちゃんと証明して。

どんな人間でもみんなちゃんと生きている。
見えない誰かも何かを思って生きている。
みんなわたしと同じ人間だった。


人間は自分の死を悟ると今までの後悔を回収していくようにプライドや強がりも捨てて自分の終わりまでの道を優しく歩いていく。
感謝も謝罪も愛の告白も、伝える言葉なんてなくても、それでもあの人に会っておかなければと、そんな使命感に駆られるのだろうか。

わたし自身が死を目の前にした時、わたしはどんな感情になってどんな行動を取るんだろうか。
会いたい人には会えるうちに会っておいたほうがいいっぽいです。
そしてただ、ただただ幸せを願うのです。

会いたいけれど幸せでいてくれたらそれでいいと願える人がいることも幸せの在り方のひとつなんだと思う。
いつまでもわたしはそんな人間でありたい。


人間じゃなくて物事に溢れる生活が心地良い。
音楽、ご飯、小説、珈琲、映画、服、植物。
自ら選択できるそれらを丁寧に選んでいく生活がわたしをわたしでいさせてくれる。

誰の意思でもないわたしの意思で出来上がっていく毎日が楽しい。
前より生きることに積極的になった。
人間どうせいつかこの世からいなくなるんだからと惰性で生きていくことが勿体無いと感じるようになった。


最近よく写真を撮る。
わたしの目に映るものを残しておきたくなった。
わたしがそこにいた。その時間に流された。そこで生きていた。そんな今をちゃんと噛み締めたくなった。

時間が足りない。わたしにはもっともっとしたいことが山のようにある。
朝は限られている。昼も夜も限られている。時間は限られている。
でもその時じゃないと意味がないことばかりだ。
その瞬間じゃないと、この時間じゃないと、あのタイミングじゃないとってそんなことばかりだ。
過ぎてしまった時間はもう、求めていた''その時''ではない。


ミーハーなのでコンデジを買おうと思う。
本当はそのレンズ越しに写したい人物がいた。
だけどもうレンズ越しにもわたしの目にも映ることはない。
だけど今はそれでいい。それがいいんだ。

彼の記憶からわたしがいなくなる日はそう遠くないだろう。
彼にはもっとたくさんの濃い記憶がある。
それらが近くに散らばっている。
わたしはいつの日かの遠い記憶として散っていく。

''きっとね!秘密は多い方が
どうだろう!優しくなれるかも
いつかね!思い出した時に苦しいくらいが丁度いいの''


最近会社の後輩の子とご飯に行ったとき、『入社してすぐワンオペすることになったとき◯◯さんが置き手紙を置いてくれてたの、あの時感動して泣いちゃいました』と言ってくれて心がぽかぽかになった。

消えていく記憶もあれば忘れられない記憶もある。
必要なものは意識せずとも残っていく。
誰かにとって思い出すと温かい気持ちになる瞬間の片隅にわたしが立ち会うことがあるのならば、それはわたしにとって何にも変えられない幸せなのです。




わたしは必死に穏やかを保っていたい。
誰にも舵を取られない生活、誰にも渡さない生活。
わたしはわたしの意思に乗って変わっていきたい。
根拠のない自信はとても大事だけど、いざというときにわたしの盾になってくれるのは、積み上げてきた根拠のある自信だと思う。


これからずっと欲しかったスニーカーを買いに行く。
春だからね、春に買う靴って縁起良さそうじゃない?
全てに意味を持たせたい。わたしはそういう人間なのです。


最後に役所広司が微笑みながら流した涙の意図をわたしはずっと考えている。


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