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才能も熟練もいらない物語の作り方の考案 【物語創作理論 #02】

TOPICS|物語の構造を体系化。機械的に物語創作できるか検証|

「物語創作理論」は「理屈で物語が創作できることを証明する」ための理論です。こちらの「神話・伝説・昔話にインスパイアされる方法」の記事で、既存作品からプロットを抽出して物語を再構築する方法について考察しました。ここでいう既存作品とは往往にして面白いと評判を博していたり、太古からの使い回しに耐えうる実用性を持つものを指します。そこで既存作品の物語の大枠を抽出して再利用することで作品としての最低限の面白さを保証できないかという提案をしました。

今回は、物語の最低限の面白さを保証する「定番パターン」とは何のことかを考えること、また、物語のパターンを分析するために物語の構造を分解して単純化した「物語の構成要素」で定番パターンをアレンジする方法について考察していきます。まずは物語の4つの主要な構成要素を説明しておきます。

物語の4つの主要な構成要素「パラダイム」

物語の定番パターンといっても、一体なにのパターンを分析すればいいのかというとパラダイムです。パラダイムとは物語の「見本例・模範・図式」のことで、物語の展開を抽象化した図だと思えばいいかと思います。パラダイムは、シナリオライティングの基礎知識として知られています。

脚本執筆の指南書『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』の説明を参考にすると、パラダイムとはストーリーの骨格で、そのストーリーの内容によって構成(時系列やテンポ)が決められるとのこと。物語の定番パターンは骨格となるパラダイムを基準にして分析することになると思います。

物語の定番パターンとしての解説はこちらのサイトにわかりやすい見本例が載っています。これを見たらもう分かると思いますが、パラダイムとはすなわち「起承転結」や「序破急」のことです。もっと複雑なのを含めると「ビートシートメソッド」や、今の研究テーマにドストライクの『千の顔を持つ英雄』(ジョーゼス・キャンベル著)の「神話パラダイム」など、いろいろあります。明確な模範解答はないけど、流行や王道は存在する類のものです。

物語の4つの主要な構成要素 「プロット」

最初に着手すべきは、物語中で何が起きるかという時系列です。前回ではこれを「メインプロット」と言っていましたが、もっと明確な呼称にしたいので以降はそのまま「プロット」と呼ぶことにしましょう。

プロットは、ザックリといえばただ淡々と時系列順に出来事を列挙するだけです。物語創作の初期段階では、当然ストーリーの全体像は浮かんでいないし、構成をどうすればテンポが良くなるかなど考える材料すらありません。だからまずはパラダイムという骨格に、プロットという肉付けから始めます。

物語の盛り上がりや展開はパラダイムができた時点である程度は可視化されていますが、そのテンションにふさわしい出来事を当てはめてやらなくてはなりません。新海誠監督の『君の名は』のプロットを見てみると、時系列だけでなくそのシーンの盛り上がりをグラフに表した上で、計算して出来事を当てはめているように思えます。プロットは物語の内容に触れる要素なので、この時点でその作品の雰囲気というのはほぼ掴めます。

プロットを当てはめる時は、その物語の各シーンに必要な出来事を欠くことなく盛り込む必要があります。まずは淡々とどういうシーンを描写したいか、全てひねり出すところから始めます。あるいは作中で描きたいシーンを先に決めておくことで、その他のプロットも芋づる式に浮かぶかも知れません。ある名作映画を例に考えてみます。あえて作品タイトルを伏せておくので、プレーンな視点から淡々とプロットを追ってみてください。

ある名作映画のパラダイム
 1. 男の妻が何者かに殺され、その男は冤罪で終身刑になる
 2. 男が投獄されたとき服役中の主人公と出会う
 3. 男は孤立し、他の囚人に虐待を受ける日々を送る
 4. ある機転で男は他の囚人と打ち解け、監視員とも繋がりができる
 5. 前職の知識を見込まれて所長に賄賂の隠蔽の片棒を担がされる
 6. 若い新顔囚人がきて男は彼を気に入り、勉強の面倒を見る
 7. 新顔囚人から男が無実であるという証言を得るが所長により殺される
 7. それ以降男の言動が意味深になる
 8. 嵐の夜に男が脱獄し、賄賂隠蔽の告発により所長は自害
 9. 主人公が仮釈放になるが、いまさら社会に馴染めず苦しむ
 10.  男が言っていた意味深な言動に従い、ある場所へ向かう
 11.  遠い自由の地の海辺で主人公と男は再開する

この映画の場合、絶対に作中で描きたいシーンに該当するのは、1の究極の理不尽、4の不幸の解消、8の起死回生の開放感、10の不安とワクワク、といったところでしょうか。実際に映画を見ていて感情が揺さぶられるのはこのあたりでした。作中でこれを表現してやろう!というモチベーションは物語創作には重要です。

物語の4つの主要な構成要素 「ストーリー」

このままではストーリー運びは把握できますが、楽しむ要素が全くありません。この一つ一つの事件を面白く描写していかなくてはなりません。事件の見所や脈絡のつじつま合わせをピックアップしたものがサブプロット。メインプロットを「プロット」と言い直したのに倣って、サブプロットは「ストーリー」と言い換えましょう。これで馴染みのある呼称となりました。

ストーリーはその名の通り、ほぼ完成型のことを指しています。ただ作品本編のキャラのセリフや演出などは最終段階でつければいいので、ここで考えるストーリーとはいわば下手くそな小説のようなものと思ってください。語彙力や比喩などなくていいので、その部分のプロットで起きる事件の中でのキャラのアクションや心情が列挙できていれば十分です。物語のつじつま合わせとしての伏線や(怪しい人影を目撃など)、作品イメージを想像するための重要シーン(拳を握りしめて震えるなど)、シーンの状況説明の項目などは必ず列挙しておきます。これがシナリオの青図となります。ちなみにシナリオ(脚本)はもっと専門の作法に従って書かれた設計図のようなものを指すことにします。

では先ほどのプロットからストーリーを掘り下げてみます。

プロットから掘り下げたストーリー
 1. 男の妻が何者かに殺され、その男は冤罪で終身刑になる
   ・夜道に止めた車の中で飲酒しながら銃を握る男
   ・民家の窓の灯りを恨めしそうに睨んでいる
   ・窓の中では妻と愛人が逢引している
   ・酒瓶を地面に叩きつけて割る
   ・裁判所、無罪を主張するが検察の捏造により有罪判決
 2. 男が投獄されたとき服役中の主人公と出会う
   ・投獄するまでの道中で主人公は男の異様な風貌に興味を持つ
   ・囚人登録や消毒、牢が施錠されたとき現状を実感する
   ・苛酷な環境に夜中に泣き出した一人の囚人が看守に撲殺される
   ・男は主人公に死亡した囚人の名を問うが、たしなめられる
 3. 男は孤立し、他の囚人に虐待を受ける日々を送る
   ・問題のある囚人に目をつけられて嫌がらせを受け続ける
   ・一人で抵抗するが生傷が絶えない
 4. ある機転で男は他の囚人と打ち解け、監視員とも繋がりができる
   ・屋根の修理の作業員に主人公たちと男が立候補する
   ・主任刑務官が遺産相続の相続税でほぼなくなると愚痴っていた
   ・男その知識を活かして相続手続きの助言をしに近づく
   ・不審行動で取り押さえられて銃を向けられるが構わず話を続ける
   ・刑務官が関心を向けたとき、すかさず自分なら手続きできると交渉
   ・そのかわり作業している仲間たちにビールを奢ってくれとも
   ・青天の霹靂、仲間たちは作業を止めてビール休憩が与えられた
   ・普段は鬼のような主任刑務官も心なしか穏やかな声で話していた
   ・男は一人離れてビールも飲まずにそれを眺めていた
   ・男は束の間の平穏でも欲しかったのかもしれない
 …

というように、プロットからだと各シーンで具体的に何が起きるのかイメージできなかったが、ストーリーが掘り下げられることによってある程度まで脳内で映像化できるレベルになりました。ここにキャラクターのアクションや心理が落とし込まれています。言ってしまえば脚本の一歩手前まで書き込むという感じ。上の例ではプロット4は序盤の見せ場のシーンなのでストーリーの掘り下げの書き込み量が多くなっています。

物語の4つの主要な構成要素 「コンセプト」

しかし、プロットからストーリーを捻出する際にはかなり情報量が増えていますが、この追加情報をもたらすものは一体何でしょうか。ここが物語創作の核となる「コンセプト」です。作品に対する構想がしっかりと整理されていることでストーリーを紡ぐデータベースとして機能します。

物語ではストーリー部分が主役と言っても過言ではありませんが、そのストーリーはプロットとコンセプトの上に成り立ちます。無理やりに肉体に例えてみると、パラダイムは骨格、プロットは肉付け、コンセプトは遺伝子、そしてストーリーは衣服や髪と言ったところでしょうか。このたとえだと、種によって定められた骨格を土台とし、遺伝子情報により肉体が構築され、その表面を衣服や髪で飾っている、それが物語であると解釈できます。初対面(初見)の人に対する時、必然的に身だしなみやルックスによる印象を最初に受けます。そこからコミュニケーションによって人間性を知っていくことで関係を築いていきます。初見の物語を鑑賞するときのハマり方も同じような気がします。

物語創作の公式
 (パラダイム + プロット) × コンセプト = ストーリー

その物語作品の遺伝子であるコンセプトとは具体的に何なのか。主に3つあるということを前回の「神話・伝説・昔話にインスパイアされる方法」の記事で書いていたので引用します。ただし前回の記事の段階での考えなので、今回の記事ではニュアンスが少し変化しています。

前回のコンセプトの3要素に触れた部分
 "ちなみに「モチーフ」とは、テーマメッセージとは別にある、ただそのようにあるという被写体のようなもの。例えば戦争の悲劇というテーマで、深い愛の形をメッセージとして表現する物語があったとする。そのモチーフは貴族と平民であったり、兵士とその妻であったり、少年漫画のような特殊能力ものであったり、好きな世界観を当てはめられる。このように、作品のパッケージタイトルのようなものがテーマ、作品で伝えたいことがメッセージ、映像として描く世界観がモチーフ、と個人的に考えている。描画技術では「描画」する被写体をモチーフというなら、表現技術では「描写」する世界観をモチーフと呼ぶ。物語創作作業をあえて一枚の絵の作画にたとえると、テーマ=構図、メッセージ=演技やポーズや表情、モチーフ=キャラデザイン、といった感じ。"

現在ではかなり考え方は変わっていますが「コンセプト」の中身は下記の3つになるところはそのまま採用です。

コンセプトの3要素
 テーマ:作品で描くものは何か
 メッセージ:作者で何を伝えるか
 モチーフ:映像として描かれるものの設定資料

作品のビジュアルを構築するために必要な「モチーフ」はさらに3つくらいに分けられます。

モチーフの3要素
 世界観設定:社会制度、物理法則、感性、生活など
 人物設定:キャラデザ、性格、職業、口調、立ち位置など
 美術設定:建築、衣装、料理、自然、メカなど

ここまで分解したら才能や熟練とは無関係に、ただ情報を集積させるだけで完了できる作業になります。世界観、人物、美術などの設定は史実や既存作品を参考にできる類の要素です。これらは全て作者の知識と趣味、または作者が管理している資料からの情報によって作られます。つまりモチーフは量でゴリ押せる「なんでもあり」な部分でもあります。当然、熟練している方が的確に設定できたり時間短縮できたりしますが。

「何でもあり」「模範解答あり」を目指す物語創作理論

実はモチーフだけでなく、コンセプトの3要素は全て「なんでもあり」なところがあります。ただ「なんでも」といわれると何かしら特定しないといけないので難しいと思うかもしれませんが、それすらも資料から引用してくれば済ませられます。とにかく「真似」さえできればそれなりの物語が作れるはずです。

テーマ」は端的に言えば何をする物語を制作するかというものです。極端な言い方をすればプロジェクト名のことでしょうか、もしくは捻りのない作品タイトルとか。例えばさきほど手本にした名作映画のテーマは「理不尽からの解放」となると思います。

メッセージ」は作品の内容そのものに関係します。テーマが作品の外面の前提条件であるとするなら、メッセージは作品の内面の前提条件です。表現したいメッセージが浮き出すようにプロットを打ったり、メッセージが感じられるまでストーリーを掘り下げたり、メッセージを体現するようにキャラクターを動かしたりします。何より作者の思想や願望の源泉とも言える核です。願いを一つに絞る必要はないので、メッセージはいくつも込めて結構なので、作者自身が全てをぶつければいいと思います。普通のコミュニケーションは言語によって意思疎通をしますが、物語は作品によってこのメッセージを伝えます。意見もないのに人に話しかけたりはしませんよね。メッセージは作品制作の原動力となる要素です。

モチーフ」はビジュアルとして現れる部分の前提条件のことです。どんな生活環境なのか、どんな建築か、どんな衣装か、どんな人種か、どんな政治状況か、どんなテクノロジーのある世界か、など、ストーリーやキャラクターが関わらずにいられないリアリティの部分です。映像や絵なら形状や意匠などをデザインしておく必要があります。小説ならテキストで映像を想起させなくてはなりません。モチーフを作りこむには思いつきだけでは限界があり、専門知識や実在物を頼りにすべきです。ある程度の基本形状を崩さなければ好き勝手に創作しても破綻しにくい要素なので、それほど難しく考えず作者の好みで構わないと思います。「お絵描きのメカニズム」も同じ理念を掲げていますが、とにかく被写体の「実在感」さえ損なわなければ失敗はしません。物語のモチーフも「実在感」を確保するために実物を観察して、史実や既存作品から引用しまくればいいのです。

テーマとモチーフの違いをどう定義するかは悩みましたが、こちらの記事の解説に則って区別しようと思いました。ここに書かれていることを解釈すると、テーマとはその作品で実現・具現化したい表現内容を表すもの、となります。そしてそのテーマを実現するための具体的なビジョンや手段を言い表すのがコンセプトです。また、モチーフの特徴について映像として描かれる部分(ビジュアル)に関する情報であると先ほど書きましたが、これは「コンセプトアート」という考え方が相応しいと思ったからです。要はビジュアルの設定資料のことです。コンセプトアート = モチーフです。

ぶっちゃけて言うと「テーマ」はなくてもいいです。物語を作っていけばそのうち勝手に見えてくるので、方針がブレそうなら決めておけばいいと言う程度。「メッセージ」は適当でいいです。言いたいことを言っておいて、パラダイムやストーリーでつじつま合わせをすれば事足ります。「モチーフ」は、まぁ満足いくまで適当にかき集めてください。お気づきでしょうか。ここでいう物語創作に必要なのは才能でも熟練でもなく、根気です。何をすべきかさえ見えていれば、あとは頑張れば物語がつくれます。

物語の構成要素の体系図

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物語創作理論の構成要素をまとめてみます。

物語創作理論の構成要素
 プロット:出来事の目次
 ストーリー:アクションや心理描写
 コンセプト:作品構想のデータベース
コンセプトの3要素
 テーマ:作品で描くものは何か
 メッセージ:作者で何を伝えるか
 モチーフ:映像として描かれるものの設定資料
モチーフの3要素
 世界観設定:社会制度、物理法則、感性、生活など
 人物設定:キャラデザ、性格、職業、口調、立ち位置など
 美術設定:建築、衣装、料理、自然、メカなど

お絵描きホーホー論が提唱する物語創作理論の基本となる構成要素はこんな感じです。これはまだ考案中の理論なので未完成です。とりあえず面白いかどうかとは別に、挫折せずにつじつまの合う物語を作り切ることを達成するための理論という位置付けです。


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