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神話・伝説・昔話にインスパイアされる方法【物語創作理論 #01】

TOPICS|オリジナルストーリーの作り方。既存作品からプロット抽出して掘り下げる|

物語の定番パターンを学ぶ必要性

絵の作品制作には、絵を描くこと、物語を作ること、画材を使うこと、この3つが不可欠。それぞれ「描画技術」「表現技術」「製造技術」と呼んでいる。描画技術については「お絵描きのメカニズムver1.11」によってある程度理論化できている。製造技術については画材メーカーのマニュアルを読んだり、ネット公開されているチュートリアルを読めば事足りる。しかし表現技術だけはどうすれば習得できるか悩んでいた。お絵描きのメカニズムとは脳内イメージを紙の上にレンダリングする思考過程を理論化したもので、脳内イメージがなければ何も描けないといった理論でもある。はたしてその脳内イメージはどこからくるのか

物語創作では、作品に対するイメージやモチベーションが鍵になるとは思っていたが、そんな瞬発的な要素だけで本当に十分だろうかとも思っていた。例えば「構図デッサン」では、定番の構図のパターン(型)と、その構図に含まれる数値的寸法情報の扱い方(描き方・見せ方)、という2つの要素が揃って初めて構図を絵として具現化できる。物語創作で作品構想のイメージ(型)があったとして、そ物語があまり面白そうではないと事前にわかってしまったとしたら当然モチベーションは下がり、場面描写や比喩(書き方・伝え方)を駆使してもただ情報量が増えるだけでつまらなく、やがて萎える。それを防ぐためには、構図デッサンの「定番パターン」のように最低限の面白さが保証されたものが物語創作にも必要となる。

物語の雛形(型)に関する事実は多くの書籍で解説されている。その中でも必ず引き合いに出されるのが「神話・伝説・昔話」である。例えばオディップス神話の父殺しや近親相姦といった雛形であったり、英雄が怪物を退治して姫と結ばれるパターンであったり、地域で異なる創世神話の世界観であったり。古い物語は文明自体がシンプルな時代のものなので物語の要素も少なく濃いが、それゆえに救いがなかったり(問答無用で夫婦仲が割かれる)、素直に喜べたり(美女と結婚Yeah!!)できるいい素材になる。しかしそういった書籍は学問としてのパターンを紹介、分類、解釈するに終止し、当然だが実際に物語創作への応用方法などは教えてくれない。こっちが知りたいのはそういった知識を作品イメージと結合させる思考過程なのに。だからさらなる考察が必要。

既存作品からプロットを抽出する試み

お絵描きのメカニズムを考案する時、まず模写練習から情報収拾を始めた。模写するときの思考過程を観察し、その言語化を蓄積していけばいずれ体系化されていく。それをシンプルにまとめたのがお絵描きのメカニズムver1.11のフローチャート。

しかし絵が描けたところで書きたい物語がなくては絵を描く機会すらない。次は物語の作り方を学ばなくてはならない。物語創作はお絵描きと違って模写練習ということができない。仮に既存の作品をパクっても大まかなプロットしか抽出できない。絵の模写は視覚情報なので結果物を見て好きなように解釈できた。しかし物語はすでに言語化されているため解釈の余地が少なく、文章の論理構造を壊さずにパターン化しなくてはならず、少しでも飛躍すると御都合主義に見えて説得力を失う。逆に価値観が古過ぎてそもそもが説得力を欠いている物語も多い。

例えば『桃太郎』をパクろうとするとこうなる(うろ覚え)。

『桃太郎』のメインプロット
1. 子供に恵まれなかった貧しい老夫婦がいた
2. ある日川で大きな桃を拾って桃太郎を授かった
3. 成長したら鬼退治をすると言いだした
4. 旅の途中で3匹の仲間を雇う
5. 鬼ヶ島で鬼を退治して財宝を奪う
6. 老夫婦は幸せになりました

という場面ごとのプロットになる。このようなメインプロットは物語中で起きる出来事を列挙したに過ぎない。しかしこれができたところでオリジナル作品に応用するには情報不足。別のモチーフに置き換えるとどうなるか。

例えば『竹取物語』に置き換えるとこうなる(うろ覚え)。

1. 子供に恵まれなかった貧しい老夫婦がいた
2. ある日竹やぶで光る竹の中からかぐや姫を授かった
3. 成長したらその美貌から多くの貴族から求婚された
4. 無理難題な条件を課し求婚を退け続ける
5. 月からの使者が来てかぐや姫を連れて行く
6. 老夫婦は全てを失った

上手いことに全く別の物語になった。しかしメインプロットが同じためストーリーの展開に新しさがない。王道プロットでは安定した展開にはなるが、ただ起きる事件が異なるだけであまり差異がない。オリジナル作品に応用するにはどういう分析を行えばいいのか。

単調なプロットに多様性を与える方法

メインプロットのように事実を列挙するものではなく、そこに込められたメッセージや教訓を掘り下げることで多様性を与える。例えば『桃太郎』の鬼退治、『竹取物語』の無理難題はそれぞれ何を意味するか。前者は敵国の領土の侵略、後者は重税。どちらも国家レベルの横暴な行為と解釈できる。そして桃太郎もかぐや姫もその罪に問われるどころか優遇されている。もしかすると当時の権威の行いを正当化するプロパガンダや洗脳物語となっている。これがそれぞれの作品に込められた根源的なテーマになっていると思える。

ちなみに、『桃太郎』の主人公は桃太郎だと思われている。『竹取物語』の主人公はかぐやだと思われている。しかし両者とも客観的に描かれていて感情の掘り下げがされていない(と記憶している)。それより老夫婦の方が明確に書かれている。子をさずかって嬉しい、見送る時は寂しい。これらの物語は主人公のサクセスストーリーというより、ヒーローやヒロインに想いを馳せる庶民の視点になっている。

そこから憶測すると、さきほどは権威によるプロパガンダといったため悪印象になったが、必ずしも庶民がそれを見抜いて否定していたとは限らない。むしろ洗脳成功して権威の意のままにそれを喜んでいたのかもしれない。権威が敵地を侵略すれば国は豊かになるし、権威が敵国から徴税すれば国は豊かになるし、その権威が国民からも徴税すれば庶民は搾取される。鬼や求婚貴族はもしかしたら敵国のメタファーだったかもしれないし、授かった子供は権威への期待だったのかもしれないと気づく。桃太郎やかぐやが主人公だと思っていた物語は、実はその近くにいた老夫婦の物語だったかもしれない。権威によるプロパガンダである可能性と、その恩恵や搾取を受けていた庶民の口伝である可能性。ここまで掘り下げれば大まかなメインプロットの間を埋めるサブプロットが見えてくる。現実味という共感ポイントやメッセージの発見(捏造)である。

今回はなんとなくの憶測でしか解釈していないが、ここにちゃんとした世界史や日本史を照合したり、そういった民話の考古学的な見解を加えていくと、さらに現実味を帯びた解釈ができる。太古の物語は史実のフィクション化であることが一般的で、そこに当時の人たちのファンタジーを盛り込んだもの。そこから逆算して現実味を発掘するために歴史や考古学の知識は多い方がいい。

このような深読みによってメインプロットから自由に分岐させて行く。そうすることでオリジナル作品にそのまま当てはめても独自性(多様性)を保てる。これが物語創作における「練習タイプ2(真似)」にあたると考察してみた。ここで得たパターンをオリジナル作品のモチーフに当てはめて「練習タイプ3(再構築)」に進める。

描画技術の練習タイプ1(転写)は被写体形状の素材集め
表現技術の練習タイプ1(転写)はメインプロットのパターン集め
描画技術の練習タイプ2(真似)は記号の意図の深読み
表現技術の練習タイプ2(真似)はサブプロットの深読み

ちなみに「モチーフ」とは、テーマやメッセージとは別にある、ただそのようにあるという被写体のようなもの。例えば戦争の悲劇というテーマで、深い愛の形をメッセージとして表現する物語があったとする。そのモチーフは貴族と平民であったり、兵士とその妻であったり、少年漫画のような特殊能力ものであったり、好きな世界観を当てはめられる。このように、作品のパッケージタイトルのようなものがテーマ、作品で伝えたいことがメッセージ、映像として描く世界観がモチーフ、と個人的に考えている。描画技術では「描画」する被写体をモチーフというなら、表現技術では「描写」する世界観をモチーフと呼ぶ。物語創作作業をあえて一枚の絵の作画にたとえると、テーマ=構図、メッセージ=演技やポーズや表情、モチーフ=キャラデザイン、といった感じ。

テーマの例:英雄の怪物退治、太陽神の怒り、洪水神話
メッセージの例:国は英雄によって栄えた、傲慢には天罰が下る
モチーフの例:ヤマタノオロチ伝説、イカロスの翼、ノアの箱舟

今必要なのは物語作品を深読みする訓練

お絵描きのメカニズムについては一通りの理論化が完了している。まだ実践してないから実例はないが、ぶっちゃけ描こうと思えば絵が描ける段階に来ていると思う。しかし絵を描くキッカケがないため描く絵が無い。理屈で描こうとしている弊害でもあるが、この部分も理論化しておかなくては「理屈で絵が描けることを証明する」ことができない。

そんな理論がなくとも絵を描ける人がよくファンアートを描いているのを見かける。自分にはその感覚がない。好きな作品に執着して妄想を繰り広げられていないので二次創作漫画も描けない。おそらく二次創作している人は好きな作品からインスパイアを受けている。これは神話・伝説・昔話のメインプロットを分析してサブプロットを抽出するのと同じことをやっているのだと思う。好きな作品やキャラだから、無意識に物語の隙間を深読みしたり、キャラの行動原理を考察したりしている。

よって次の研究テーマは「既存の物語からサブプロットを抽出してオリジナル物語に応用する思考過程」とした。まずは描画技術の研究のときに様々な資料を転写・真似して記号を収集したように、表現技術でも同じようにさまざまな既存作品の分解・解釈してプロットを抽出しようと思う。この分野は文学や民俗学によって多くの研究事例がありそうなので理論化は簡単だと思う。

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