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卯月コウという現実とキャラクターの拮抗する現象

卯月コウという配信者について思う所があるのは視聴者の常だと思う。自分も漏れなくそのうちの一人で、その「思うところ」を時々このようにnoteに書き殴っては卯月コウという現象にひとまずの納得を得た気になっている。

しかし、それも5回目だ。卯月コウの不可解に行き当たるたびに文章は増え続け積み重なっていく。それは卯月コウ自身の歴史というより、卯月コウの視聴者としての歴史だが、光源に変化があれば反射光にも変化が出るように、ある種自分の変化も卯月コウの変化として捉えられるのではないだろうか。

前置きはこのくらいに、今回は『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』プレイ実況の一幕から卯月コウの不可解さと、その理由や変化、そして彼の試みを探っていきたい。『パラノマサイト』の核心に迫るネタバレは避けてあるので安心して買ってほしい。

注目したい場面はゲームの最後の選択肢だ。

「もし今のあなた様が……命をひとつ 蘇らせることができるとしたら……どうしたいですか?」

この問いはゲームを開始する時点で問われたものと同じ質問だ。説明してしまうと「蘇りの秘術というものを巡って醜く争われたストーリーをこれまで見てきて蘇りという行為に対する考えは変わったか?」という問いかけだ。

普通のプレイヤーであれば、蘇りの秘術を巡る悲惨な事態を目の当たりにして、(最初の質問になんと答えようと)「必要ない。破棄する」と何の疑問もなく答えることができる。

しかし、このとき卯月コウはあろうことか10分ほど、この問いの前で立ち止まり、ゴネ続ける。最初は笑っていた視聴者もだんだんといら立ちを隠せなくなり、それはコメントに反映されている。配信後のコメントにもその部分への不満の表明が散見される。

そして折れたように卯月コウはストーリーが気になるから、という理由でしぶしぶ「必要ない。破棄する」というゲームの求めた通りの答えを選択する。

正直言って私自身もこれをリアルタイムで見ているときに不可解な彼の態度にイライラしていた。実況を見る前に自分でパラノマサイトをクリアしていた身としても「ゲームの流れ的に『必要ない。破棄する』以外ありえないだろ、このガキ」と思っていた。

だがそれから1日が経っても卯月コウの行動の不可解さが引っかかっていた。「あれは卯月コウが持つ単なる逆張り精神の発露だったのか?それにしてもあれは行き過ぎではないだろうか。」と。そしてそれは確信に変わった。あの一見意味不明なゴネの時間に、卯月コウは卯月コウという現実とキャラクターの間で戦っていたのだと、そう考えることで腑に落ちた。

V最協決定戦、ファンタジア、にじさんじ甲子園、Focus Onなど最近の卯月コウの活動には、その是非は置いておいて否応なくキャラクター性が求められ、そして形成される活動の流れにいた。卯月コウというキャラクターは独り歩きし、彼の実際の活動を離れて動き出す。そこで描かれる卯月コウは傍目からすればアニメのキャラクターのようにイキイキしている。

これは悪いように捉えれば卯月コウは、そのキャラクターという鋳型に流し込まれ、立ち止まり、固着している状態を指す。卯月コウはみんなが思う卯月コウとしてしか存在することを許されなくなってしまう。彼はこれを安易に良しとしなかった。それがパラノマサイト実況で見せた彼の反抗だったのではないだろうか。

卯月コウが立ち止まった「このゲームで何を学んだ?」という問いは本来の意味を失っていた。なぜならそこで出される答えは一プレイヤーとしての答えではなく、卯月コウという現実とキャラクターの狭間を行き来する現象としての答えという意味を持つからだ。

ここで素直にゲームから望まれた「必要ない。破棄する」という答えを出すことは、「卯月コウならこうする」というキャラクター像にすっぽりハマることと少なからず重なる。これはリアルタイムの妙でもある。

これが収録だったら彼の選択もゲームの文脈に沿った選択に過ぎないだろう。だがリアルタイムであると途端に「単なる選択」が「表明」の意味を帯びてくる。卯月コウがキャラクターでも、イデアでもなく、彼自身として何を選ぶのか、という確固とした意志表明に変わるのだ。

彼はキャラクターとして立ち止まり、固着することを拒んだ。それがあの一見意味不明なゴネの時間だった。それが意識的だったのか、無意識だったのかはわからない。でもそれが私の結論であり、個人的な納得だ。

そして『アイシー』を取り下げたのも同じ理由ではないかと邪推してしまう。あれはイデアと呼ぶにふさわしいキラメキを確かに放っていた。永遠にそこに閉じ込めておきたいような、そんな魅力があった。

だからこそ、そんな経験を経てお出しされたFocus Onは座して聞くべきなのかもしれない。変わり続ける永遠の中学生にシャンメリーで乾杯を

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