#病は突然に2 はじめてのナースコール

あっという間に2023年になってもうすでにバレンタインデーになってしまいました。
今更だけどあえて言っておきます。明けましておめでとう。あたるです。
相変わらず病院のベッドの上で書いてます。
前回同様、去年ぼくを襲った病気や現在もつづいている入院生活なんかを備忘録的に書いていこうかと思います。


目覚めた時、目の前には数名の人が自分を囲むように立っていた。白衣を着た人と、白衣とは違う制服のようなものを着た人が2、3人ずついたと思う。
多分どんな人でも目覚めて突然あの状況になったら混乱するだろう。だってまず声が出ない。それに下半身も動かない。身体にはいろんなチューブやら機械のコードが繋がっている。
今なら視界に入ったのは知らない天井だった、とか書くことも出来るけど、そんな余裕もちろんない。正直な話、人体実験でもされたのかと思った。

白衣をきた女性が、状況がわからず目をキョロキョロしている僕に話しかけてきた。
「わかりますか、ここ病院ですよ」
言わずもがな、僕の周りを囲んでいたのは医者と看護士だった。
「今7月です。意識不明だったんですよ」
僕が病院にやってきたのが6月半ば。3週間近くたっていた。

病院に来た時に持っていた荷物とか全部どこかに消え、着ていた服もスマホもなかった。
入院した時のことは曖昧だけど思い出せる。なのに荷物がない。
後日、家族が荷物を引き取っていたことを知ったけど、それを知るまで本当に事件かなんかに巻き込まれたんじゃないかと若干の疑惑を残したまま過ごしていた。それくらい情報処理出来ていなかったのだ。
簡単に病状説明を受けた気がするけど、それもあまり覚えてない。とりあえず覚えていることは
「何かあったらナースコール押してください」
だった。
僕は今までお見舞いはしても入院した経験はない。ナースコールもはじめてだ。このナースコールというものに慣れるまで少々時間を要した。
というのも、医療系ドラマでしか入院のシーンなんて見たことなかったから、ナースコールって本当に死にそうなくらいの状況にならないと使っちゃいけないものだと思っていた。学校とかによくある消火栓のボタンのように。
誤嚥性肺炎も併発していて気管切開をして声が出なくなっていた。
そしてこの肺炎のもう一つ大変なところは、気管に痰が大量に溜まるということである。痰が溜まるとどうなるか?
喉がゴロゴロと音をたて呼吸がしづらくなるのだ。うまく空気が入ってこないというか。
解決策としては看護士さんに吸引機で痰を吸ってもらうことなのだが、ここで問題になるのがどのタイミングでナースコールするか?ということである。
前述したように、ナースコールは死にそうなときにするものだと思ってたから、ちょっと苦しいくらいで呼ぶのはいけない気がする。
こうしてたまたま看護士さんが病室に寄ったとき以外、痰の吸引をしてもらわないという縛りプレイを始めてしまった僕は、猫が飼い主に甘える時のように喉をゴロゴロ言わせていた。
いや、良いように書いたけど実際かなり大きくて不快な呼吸音だったと思う。
終始その不快音を鳴らしている僕に対して、痺れを切らしたのか、なかばイライラする声でとなりの患者さんが
「ナースコールすればいいのに」
とぼやくほどだった。
その言葉を聞いた時、「えっ、ナースコールってしていいの?!」
と思った。
なにかあったらナースコールしてください、という言葉の中にすべての答えが詰まっている。僕の痰が溜まっている状態は“なにかあった"のうちに入っているのだ。

ナースコールを押して程なくして看護士さんがやってきた。
無事痰の吸引を終えて呼吸も落ち着く。
ナースコールはそんなに大層なものじゃないと知った出来事だった。
これからこんな感じで初めてがいっぱいの入院生活がしばらく続くことになる。