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Cana sotte bosse Live@下北沢440 2019.11.16(Sat) -Púca presents two-man show! PAVILION vol.5 Púca × Cana sotte bosse-

Canaさんのソロライブは今年これが最後だという。

「ことし、さいご…」

僕はうわ言のように呟いた。

行くしか、ない。

野口英世には4人ほど死んでもらうことになるだろう。戦略上、避けられないことだ。

今回は「Púca(プーカ)」という何やらプカプカしたバンドとのタイマン勝負、いやツーマンショウらしい。

オケージョンは下北沢440。僕には初めての場所だ。Googleマップを頼りに現地に向かう。

おかしいな…。地図上はもう着いているはずなのだが、それらしい場所が見当たらない。

まさか、あのドアから入ってまだ先に進むのか…?

これはちょっとヤバいんじゃないか。

アジトみたいなライブハウスなのか?

不安になった僕は辺りをさまよう。

見上げたら、あった。さっきのは通用口か何かだ。

(実際は写真を撮る余裕がなかったのでストリートビューで再現している。御容赦願いたい。)

中に入ると受付のお兄さんに問われる。

「どちらで申し込まれましたか?」

「えーと。Púcaさんのメールで」と正直に答え、英世を4人ほど送り出しながら、ふと考える。

待てよ。

これはもしや「推し確認」ではないか。

答えを誤るとCanaさんのおギャランティが減ってしまうのではないか。

それはまずい。

「今のって何か意味はあるんですか?」

「いえ、お店の都合です。どちらのファンの方かお伺いしているんです」

「Canaさんです。前前前世からCanaさんのファンです。好きな食べ物は果物全般、特に桃。好きな動物は猫とペンギン。趣味は読書。人相は悪いですが仕事はカタギです」

「わかりました」

そこまでは言ってないが、おギャランティの配分はこれで大丈夫だろうか。まあいい。これで間違うようなら、彼は死後さばきにあうだろう。

店内には既に大方お客さんが入り、熱気に包まれていた。酒が飲めない僕はドリンクのコッカ・コーラをもらって4列目辺りに座る。

周りの人たちが会話に花を咲かせている。聞き耳を立てるにPúcaさんのファンだろう。僕は殺し屋のような眼をしてバンドの登場を待った。

どちらから先に殺る、いや演るのか。

アコギを抱えた赤いドレスの女性が登場する。この人がPúcaのフロントウーマン、土田聡子さんだな。

Púcaファンが熱い。会場内からメンバーに対して次々と歌舞伎のようなコールが上がる。

Kennyさんのギターが鳴る。

ああ、いいなあ、この音。ライブハウスの音だ。

全部で7曲くらいだっただろうか。オーソドックスなバラードありカントリーっぽい曲ありキャッチーなギターポップありカバーありと多彩である。

あの、僕はCana方の勢力なのでまとめが雑で申し訳ない。

土田聡子さんのボーカルは、ハスキーな強さの中にどこか寂しさを湛え、艶がある。

相手にとって不足はない。

しかしPúcaファンの方の手拍子、足踏み、コールが、す、すごい…。

僕は甲子園球場の阪神ファンの中に間違って紛れ込んだ巨人ファンのような気持ちで曲を聴いていた。

Canaさんのファンは基本、地蔵。

Púcaさんのステージが終わり、入れ替えタイムになる。この頃、僕の中に一つの感情が芽生えていた。

「トイレに、行きたい」

しかしここは阪神甲子園球場。迂闊に席を外そうものなら、阪神ファンに席を取られるおそれがある。

待つしかない。コーラを飲んで。いや、飲んじゃダメだ。飲んだ。

鈴木史門さん、続いてCanaさん登場。今日はマニッシュなスタイル。これは本気で潰しにきたぞ。元バレー少女が強いスパイク喰らわすぞ。覚悟しとけPúca。身長なら既に勝ってるぞ。

史門さんがピアノを奏で出す。無数の光の粒が空間に満ちてくるようだ。

1曲目は『ランデヴー』。
Massan × BashiryのBashiryさん作。史門さんのピアノが弾く光は、いつしか夜空に明滅する星になって、僕には天の川が見えていた。疲れているのだろうか。「ぼくら時の旅人」というフレーズが心に残る。

曲が終わり、しばしの沈黙。これはPúcaファン、もう息してないんじゃないか?

会場からPúcaさんの時と同じようにワッと歓声が上がる。何だよ、いい奴らかよ。

2曲目。早速何かわからない。
ファンの風上にも置けん奴だ。「ハロープラネット」?メルヒェンでキッチュな歌詞。これはたぶんササクレ界隈の曲だろう。
Canaさんはこういう曲合うなあ。世界観を作れる人。いい意味で自分を消せる人。

ここでMC。沸く会場。ノリが違うね、ワンマンとは。いつも地蔵ですいません。

誰かの子供が泣いている。Canaさんが「キャワイイネエ~ッ」と子供に手を振る。泣き止む子供。泣く子も黙るCana。

3曲目は、『手紙』。
これもBashiryさんの作曲。新曲だ。もしおじいちゃんが死んじゃったら、私が魔法を使ってお空に梯子をかけるから、それで会いに行けばいいよ。
そんなことをCanaさんの娘さんが話したというエピソードから生まれた曲。『ランデヴー』と合わせて、早く音源化してほしいな。

4曲目、『砂時計』。
お馴染みの曲だけど、Púcaさんファンの熱で温まった今日はちょっとアップテンポ。史門さんのピアノもドライブ感があり、一段とエモーショナルな仕上がり。ちょっと泣いてしまったよ。

MC。会場に向かう電車の中で、見知らぬおじいさんから飴をもらったというお話。

「神様だったのかもしれませんね」とCanaさんは言った。

5曲目、『ナミダノコエ』。
ループするピアノリフが綺麗なSotte bosseの代表作。原曲はシーケンスなのだが、アナログな鈴木史門仕様がドラマチック。
2012年。個人的にも、第一子が生まれていろいろ余裕がなかった頃に自由が丘女神まつりのフリーライブで聴いた思い出の曲。

もう、あの頃とは全然別さ。

続けざまに6曲目、小沢健二カバーの『ぼくらが旅に出る理由』だ。
このカバーは本当に板に付いてきたと思う。もうCanaさんの曲と言っていいんじゃないだろうか。

史門さんのピアノが踊る。グリッサンドが冴える。
ピアノは一台でオーケストラの音が出せる楽器と言われるけれど、Canaさんと史門さんのタッグは、2人でやっているとは思えないくらい厚みがある。
まさしくデュオ。歌と伴奏、カラオケじゃないんだよね。

途中、Canaさんが口からマイクを放す。

アンプリファイされていないCanaさんの素の歌声に耳を澄ます。瞬間、頭の中に直接語りかけられているような錯覚が起きる。何だこれ、危ないぞ。すごく感動する。

7曲目、ラストは『希望のうた』。
Canaさんがアカペラで最初のワンバースを歌った後の、史門さんのピアノの弾き出しはいつも違う。
僕ね、前も書いたけど、この歌大好きなんだな。何回も聴いている。でも、今日すっと胸に響いたのは、これまであまり気に留めなかった最後の部分。

きっと忘れない
きっと忘れない
きっと忘れない

この3回繰り返すところ。Canaさんが大切そうに歌ったからだろうか。

みんな、忘れちゃうんだよ。実際は。

忘れちゃうんだけど。

きっと忘れない。

そう思うこと、そう伝えることが、人生の中の、一つの煌めきなんだな。

本編は終わり。当然アンコールだ。

元々コラボ企画があることは予告されている。葵の御紋の印籠はまだ出ていない。オラッ、野郎共、拍手だ、拍手。

さあ全員で再登場。いや、すごいね。満漢全席。
黄門様に、助さん格さん、お銀、弥七に飛猿、うっかり八兵衛。オールスターの大乱闘だ。最近の若い奴らって、水戸黄門知らないんじゃないか…?

まあいい。

アンコールは、「お互いに歌ってほしいと思った曲」を1曲ずつやるらしい。

最初はCanaさんから。
突然、曲名を言わずに歌って、終わってから当てる「曲名当てクイズ」の提案。Canaさん、たまにやるんだよねこれ。

曲名を言えない土田さんがどうして歌ってほしかったか説明するのに苦労していた。

「お客さんを見ていて、この世代の感じならわかるかなと思います」と笑うCanaさん。

何だろう。欧陽菲菲とかテレサ・テンとかだろうか。

むっアップテンポで来た。そう来たか。何だろう。

剣豪のように神経を研ぎ澄ましていると、イントロの終わり際に、Púcaのakikoさんが、

「ティッ、ティッ、ティリリッ、ティリリリッ」

というコーラスを入れる。

わかった。槇原敬之の『SPY』だ。

なかなか渋い選曲じゃないか。

曲が終わり、「わかった方いらっしゃいますか?」と問うお二人。

ハイハアイ、知ってる知ってる。先生、僕知ってまあす!

他に誰も手を挙げる様子がない。

えっ、曲名わかったの俺だけ?みんな、後半ロスタイムに入って足が止まっちゃったの?

「槇原敬之の『SPY』」

僕は自信たっぷりにそう答えた。

途端に不安になる。あれ?違ったやろか。

「せ~いか~い」「商品は特にないんですけどね」

土田さんは「だけどしんじてる、し~んじてる」というサビのフレーズをCanaさんに歌ってほしかったそうな。

次にCanaさんが土田さんに歌ってほしかった曲。それは矢野顕子さんの『ひとつだけ』。

あっ、自分はさらっと言っちゃった。ズルい。

この歌の「ねぇおねがい」の部分を土田さんに歌ってほしかったのだと。わかるわ、この部分、中毒性ある。

ところで矢野顕子さんが獄中の槇原敬之さんに手紙を書いたことがある、というのは知る人ぞ知るエピソード。そんなことも思い出しながらアンコールを聴いていた。ワシ、槇原語らせたらちょっとめんどくさい。

アンコールの2曲については、あんまり細かく覚えていない。これでもかと手数を尽くしたバンドの演奏に、圧巻のツインボーカル。もう全部乗せのカレーライスだ。とにかく楽しかった。

この時間がずっと続けばいいのに。

その気持ちを、人は幸せと呼ぶらしい。

どうだ。涙で視界がにじんでいるではないか。

このスマホ駄目だわ。

アーティストと観客が、こんな風に街のライブハウスで音楽を楽しみながら生きていけたらな。そういう仕組みが作れたらいいのに。

僕はそんなことを考えながら近所のセブンイレブンのトイレに走った。

2019.11.16(Sat)@下北沢440
Púca presents two-man show! PAVILION vol.5
Púca × Cana sotte bosse

Cana sotte bosse Live
about 13:30-14:40

Set List

1 ランデヴー
2 *ハロー、プラネット。(sasakure.UK)
3 手紙
4 砂時計
5 ナミダノコエ
6 ぼくらが旅に出る理由(小沢健二)
7 希望のうた
EC1 SPY(槇原敬之)with Púca
EC2 ひとつだけ(矢野顕子)Púca with

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