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希望のうた ー2019.9.28 live@水道橋Wordsー / Cana sotte bosse
2019年9月28日、土曜日、水道橋Words。
こういうライブに来た。
Manは一人もいない。3 Women Liveだろう。
まあいい。
Canaさんのライブに来るのは、もう数え切れないくらいだ。
あの、40歳を迎えてここ、記憶が曖昧で。
たぶん10回くらいだと…。
すいません、大した数じゃありません。
水道橋Wordsは、地下にある小さなライブスペース。あるいはレジスタンスのアジトだ。
お客さんは主催者発表では5万人。だが、目視で確認できるのは50人くらいか。
会場に入り切らないファンは隣の東京ドームのパブリックビューイングで見ているのだろう。会場はちょうどよい感じの入りだ。
年齢層は若く見積もっても30代以上。
見た感じ40代、50代かなという中年男性もいる。
仕事に、人間関係に、住宅ローンに疲れ果て、癒しを求めているのだろう。
俺だ。
では、Canaさんのライブの感想について、個人的な思い出を交えて語っていきたい。長文だ。
さわひろ子さんと葉山久瑠実さんのレポートは割愛するが、何卒御容赦願いたい。お二人ともとっても良かったけど。
一番手のさわひろ子さんが終わり、ボケーとしていると、ピアノの鈴木史門さん、Canaさんがステージに登場していた。
あっ、ごめん、よく見てなかった。
1曲目、史門さんのピアノに導かれ、何だか知らない曲が始まる。
オオカミ…。あ、わかったわかった。sasakure.UKの『オオカミ少年独白』ね。さわひろ子さんのお伽噺のようなステージを受け継ぐ、いい流れよね。
いや、生で聴いたの初めてでね。知らないわけじゃないんだよ。知らないわけじゃ。Canaさんレパートリー多いからね。いや、決して知らないわけじゃ。
曲が終わり、「Cana sotte bosse と申します」の自己紹介。
ハイハアイ、知ってる知ってる。先生、僕知ってまあす!
くそっ、先生、ちゃんと俺を指してくれよ…。
この国で暮らしていてCanaさんの歌を聴いたことがない人は、実はほとんどいないんじゃないだろうか。
そんなシンガーである。
きっとあなたも聴いたことがある。
雑貨屋さんで、カフェで、友達の結婚式で。
柔らかく、爽やかな、でもちょっとだけクセのある感じのJ-POPのカバー。『言葉にできない』とか『チェリー』とか。
「カバーブームの火付け役」
そんな称号をつけられたこともある。
Canaさんが音楽の世界に登場したのは2004年、ナカムラヒロシさんを核としたユニット、i-depのフィーチャリングボーカルとしてである。
それで、Canaさんとナカムラヒロシさんが2006年に結成した別ユニットがSotte Bosse。
2006年から2007年に立て続けにリリースした、J-POPカバーを主体とした3枚のアルバムは累計70万枚を超えるセールスを記録し、Sotte Bosseはちょっとした音楽好きなら誰もが知るユニットになった。
日本で日本語曲のカバー作品がこれほどリリースされるようになったのは、ほとんどは2006年以降。つまりSotte Bosse以降だ。
もちろん、ある事象が起きる背景には複数の要因がある。
ビートルズが、クイーンが現れなくても、たぶん英国は別の素晴らしいバンドを生み出しただろう。
しかし、Sotte Bosseが、Canaさんが日本語カバー文化のファーストペンギンであったことは間違いない。
もし間違いだとしたら、僕の勘違いだ。傷は浅い。
2曲目は「昼間のライブだから青空を思い浮かべながら」ということで、日比康造さんの『水色』。Canaさんが最近よく聴かせてくれる曲。
日常の音楽。帰り道を歩いている時に、お風呂に入っているときに、独りの時に降ってくる、すぐに忘れてしまう言葉。
余韻を残す、いや、余韻そのもののような曲。
Canaさんが音楽の世界に現れた2004年に、僕もちょうど転勤で上京し、テクノ・ハウスの世界の住人としてレコード漁りをする中でi-depを知った。そこがCanaさんとの出会いである。
Canaさんは、それ以前はSOSU MIHARA YASUHIROで働いていたという。
どうでもいいが、僕が若い頃にファッションに傾倒した一つのきっかけがミハラヤスヒロだった。
縁が、あるじゃないか。
このブーツがマイファーストミハラ。
火事場から焼け出されたようなシャツとかね。
僕が上京して最初に見かけた有名人も三原さんだった。青山通りを歩いていると、前から三原さんが歩いてきて痺れた。
早速話が逸れた。申し訳ない。
初めてライブでCanaさんを見たのは、たぶん2006年10月14日、恵比寿リキッドルームで行われた金原千恵子さんのツアーのファイナル『LOVE & RESPECT FESTIVAL』でのこと。
短時間ながらi-depのステージもあったし、Rasmus Faberによる『Stay with me』でCanaさんはボーカルを務めていた。DVD化されているので、機会があれば見た方がいい。桁外れに豪華なライブだった。
3曲目は『砂時計』。2018年、現在のソロプロジェクト「Cana sotte bosse」になって初めてのシングルである。
Canaさんは2010年5月12日に双子ちゃんを出産した。この曲は、子育ての中で生まれた曲だ。
あっ、僕、誕生日一緒なんです。年以外は。
音源だとイントロが長過ぎて、曲が始まる前にたまに寝てしまうが、ライブだとそういうことはない。
ライブに行くべし。「あなたのことが大好きよ」と言われる。
ソロプロジェクトになってからの曲は全てこの1枚に収まっている。言うまでもなく買いだ。
何と、ライブ会場で買うとサインももらえるのである。
さて、上で述べたように、Sotte Bosseの3枚のアルバムをきっかけに、世の中では「カバーブーム」が起きた。
羊毛とおはなの千葉はなさんをフィーチャリングしたLumièreなどクオリティの高いものもあったが、とにかくボッサっぽい女性ボーカルのJ-POPカバーが量産された。
Sotte Bosseのサードアルバム『moment』は半分以上をオリジナル曲が占めていた。
どれも申し分ない楽曲だった。
行ける。Sotte Bosseはもうオリジナルで行ける。
僕はそう思ったし、実際、ナカムラヒロシさんもCanaさんもそう思ったと思う。
それからはオリジナル中心のリリースが続いた。
でも、セールス的にはお世辞にも好調とは言えなかったかもしれない。
世の中はSotte Bosseにカバー曲を期待したと思うし、 Sotte Bosseも折に触れてカバー曲を盛り込んでいった。
そして、潮が引くようにカバーブームは勝手に過ぎ去った。この頃、Sotte Bosseの立ち位置も少し難しかったかもしれない。
Canaさんの出産もあって大きく環境が変わったこともあっただろうし、Cana from Sotte Bosseと名義が変わったり、レコード会社が変わったりと、端から見ていてもたぶん大変なことがいろいろあったんだろうなと思う。
それでもコンスタントに佳作がリリースされていたし、僕も機会が許す限りライブ会場には足を運んだ。
ただ、自分自身、結婚して子供ができたということもあって、自由が丘女神まつりのフリーライブやラゾーナ川崎でのインストアライブなど、あまりお金のかからないものが多くなった。
ラゾーナでもらったゾナ。
Canaさんは、下北沢cafe/fieldのライブなど小さなカフェやライブハウスを拠点とした活動を始められていたが、僕には行きたくても行けないことも多くなった。たかだか3,000円、4,000円程度のお金が作れないこともあった。
強引に自分の話に引き付けて申し訳ないけれど、環境が変わるというのは、そういうことだ。物事の優先順位が変わるのである。
気を取り直して。
4曲目は『手紙』。Massan × BashiryのBashiryさんの作による、待望の新曲である。
この曲にまつわるエピソードが紹介されると、周りの中年が皆、目頭を押さえ始めた。ハンカチを取り出して涙を拭う者もいる。
内容は教えない。是非、御自身でライブに足を運んで聴いてください。
曲が終わった時は、涙、涙、また涙。
お通夜のような状態であった。いや、いい意味で。
今度のMassan × Bashiryさんとのライブで正式に披露されるとのことで、「歌詞も変わるかもしれない」そう。
貴重なお通夜であった。いや、いい意味で。
5曲目は『希望のうた』。2014年に、作詞・作曲 Canaでリリースされた曲。
Canaさんが語る。
「人生って流れがあると思うんですよね」「上がったなあ、落ちたなあ、っていう流れが、1日2日じゃなくて1年2年、5年とか、本当にそういう単位で来る」「何度でも何度でも立ち上がろう。そういう思いを込めて作った曲です」
曲を聴いている間中、涙が僕の頬を伝う。
大人はなぜあんなによく泣くのだろう。
なぜ、あんなにすぐ泣くのだろう。
子供の頃、いつもそう思っていた。
そんな大人たちを見るにつけ、僕の心は、夜の砂漠のように乾き、冷え切っていた。
そして、人生観を揺さぶるような音楽をたくさん聴き、自由になって、大人になって、荒野を歩いた。
もう、そんな激しい音楽は必要ない。それは永久に心の中で鳴っているから。必要があれば、自分の力でいつでも取り出せる。
今は、一緒に歩く優しい音楽があればいい。
箸が転がっても笑うのが子供なら、箸が転がっても泣くのが大人なんだな。
最後に、Canaさんが、「一番大切にしている曲をお届けしたいと思います」と言った。
6曲目、『hello』。Sotte Bosseのセカンドアルバム『innocent view』に収録されている曲である。
2007年12月14日に恵比寿ガーデンホールで行われたSotte Bosse First Live "moment"。
思えば、そのアンコールの最後に歌われた曲も『hello』だった。
初めてのワンマンライブは、磐石なバックバンドと金原千恵子ストリングスに支えられた圧巻のステージだった。
あれから10年以上の月日が経った。
2019年6月14日、羽田空港LDH Kitchenで、鈴木史門さんとデュオでのワンマンライブがあった。
カバーからオリジナルまで2時間以上のステージだったが、特にソロになってからの『希望のうた』『砂時計』『さよならの風に』の3曲は、歌詞のひとつひとつが端正に、際立って聴こえた。
声の厚み、低音からファルセットまでの音域の広さ、ボーカル技術の何もかもが昔より遥かに向上しているように感じた。
だけど、会場は満員ではなかった。
「いつかこの会場をいっぱいにしたいと思います!」
Canaさんはそういう趣旨のことを言った。
うん。
Canaさんは、キャパ1,000人の恵比寿ガーデンホールをソールドアウトにした人だ。
本当は、こんな200席程度の会場、すぐ埋められるのだ。
でも、ソロになって、地に足をつけて、身の回りの人を、リスナーを大事にしながら、また一歩一歩、歩み始めたのだ。
Canaさんは、歌うとき、よく右手の人差し指を立てる仕草をする。
何度も何度も
千切れそうな心を繋いで
明日の空を探してた
それは空を指しているようにも見えるし、世界に一人しかいない、ひとりひとりの人間存在の尊さを表しているようにも見える。
歌う場所は、今は少し小さくなってしまったけれど、どんなステージでも、ひとつひとつ全力で、心からお客さんにhelloと声をかけている。
今日もここで歌ってるよ 小さな微笑みを
その、世界にたった一つの声で。
Cana sotte bosse Live@水道橋Words
2019.9.28(Sat) about 13:30-14:15
Set List
1 オオカミ少年独白(sasakure.UK)
2 水色(日比康造)
3 砂時計
4 手紙
5 希望のうた
6 hello
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