LOVE LETTER / 槇原敬之

昼間に街中で制服姿を見かけ、ああ、もう卒業式は終わったんだな、と思う。

僕の学生時代は、夜の校舎窓ガラス壊して回るほど抑圧されてはいなかったが、今なら言えるだろうか偽りのない言葉、と思うほど素直でもなく、割と人混みに流されても変わっていかない方だった。

ふと槇原敬之の『LOVE LETTER』が頭の中に流れてくる。ファン投票では必ず上位に来るアルバム曲だ。ファンが好きな曲、というのはそのアーティストの個性がよく表れている曲である。

つまり、思い切りダサくて、最高に辛気臭い。

槇原の歌詞の手法には、曲の中で歌詞をちょっとだけ変えてくる、というのがあるのだが、この曲では、就職を機に進路が分かれてしまう想い人に「何回も何回も書き直した」ラブレターを渡せなかった理由を、

「君は遠くの街に行ってしまう」

から

「君は遠くの街に行ってしまうのに

に変え、最後は

「君は遠くの街に行ってしまうから

に変える。

ブラジルに行ってしまう島崎藤村ほどではないが、当時はスマートフォンもなければfacebookもない時代。別れの意味は、今よりもっと重かった。

もう会えなくなってしまうのに、君に想いを告げないままで、そんな人生でいいのか。

いや、会えなくなってしまうから、告げてもどうにもできない。僕には、君に提示できる未来がない。

想いが強いほど、葛藤は強くなる。

持ち切れない、でも伝えることもできない。だから「ずっと言えずの言葉を託した曲達」を詰め込んだカセットテープを作る。

迷惑にはなりたくないから、重くなり過ぎないようにしなければならない。誰の人生にとってもサウンドトラックになるような名曲を選ばなくてはならない。一方では消し難い自分がいる。作業は徹夜になる。

「長い旅の退屈しのぎになればそれでいい」。そうだ、僕の存在もそのくらいでよかったんだ。

いや、本当は、それでは嫌なんだ。



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