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お役所の契約手続き

私は民間経験があるわけではないが、役所の仕事で特徴的だと思ったのが、契約事務だ。
「取引があるところと」という発想は役所にはない。
競争が大原則だ。
「役所の仕事は遅い」と言われる理由の一因だろうか。

民法と地方自治法

契約自由の原則

役所が行う契約は「公共契約」などと言われる。
公共契約だからといって全く異質なものではなく、基本的には民法が適用される。
つまり、行政だからといって上になることも下になることもなく、発注者・受注者として対等だ。
民法の契約分野を勉強すると「契約自由の原則」という用語が必ず登場する。

  1. 契約締結の自由

  2. 契約内容決定の自由

  3. 相手方選択の自由

  4. 契約方式の自由

地方自治法による原則の修正

契約自由の原則は地方自治法により修正が加えられている。
特徴的なのが、地方自治法234条の競争入札の原則だ。
入札が成立したら、相手方の事情を別にして、必ず落札者と契約をしなければならない。
これは契約締結の自由と相手方選択の自由を修正しているといえる。
もちろん例外は多々あるが、基本的にこの競争手続きを踏まなければならないため、傍から見ると時間がかかるように感じる要因だろう。

契約締結方法の種類

公共契約(ここでは自治体が発注者になる契約をいう)の種類は、地方自治法234条1項で3つに区分されている。

  1. 一般競争入札

  2. 指名競争入札

  3. 随意契約

一般競争入札

公告によって不特定多数の者を誘引して、入札により申込をさせる方法により競争を行わせ、その申込のうち、地方公共団体にとって最も有利な条件をもって申込をした者を選定して、その者と契約を締結する方法

総務省(地方公共団体の入札・契約制度)

一般競争入札は公共契約の基本だ。
基本的にこれにより発注を行わなければならない。
広く周知を行い、施行令で除外される者以外は応札できる。
自治体契約では施行令の制限以外に、地域性などを考慮してさらに条件を付す条件付き一般競争入札が行われることがほとんどだろう。
入札参加資格を満たせば誰でも参加できるため、価格競争性が非常に高いが、いきなりよく知らない事業者が落札することもあり得る。

指名競争入札


地方公共団体が資力、信用その他について適切と認める特定多数を通知によって指名し、その特定の参加者をして入札の方法によって競争させ、契約の相手方となる者を決定し、その者と契約を締結する方式

総務省(地方公共団体の入札・契約制度)

これは自治体が「こういう業務をお願いしたいから、あなたとあなたとあなた、入札に参加して」と指名をして入札するものだ(そのまんま)。
あくまでも、一般競争入札に適しない契約でのみ実施できる。
どこに声をかけるかに裁量が働くため、ある程度、信頼おける事業者にお願いができるが、価格競争性は少し下がる。
また、呼ばれていないところからすれば、「なぜうちが呼ばれないんだ」「本当に公正な入札だったのか」と言われかねない。

随意契約

地方公共団体が競争の方法によらないで、任意に特定の者を選定してその者と契約を締結する方法

総務省(地方公共団体の入札・契約制度)

ざっくりいうと一般競争入札・指名競争入札以外の契約である。
イメージされるのは特定の1者とだけ話を進めて行う契約だが、これは随意契約の1類型であり、「特命(1者)随意契約」などという。
入札ではないが、見積もり合わせにより価格競争をする方法やプロポーザル方式により相手方を選定する方法も随意契約である。(プロポーザルは特命随意契約にあたる。)
随意契約を選択できるのは施行令第167条の2第1項で定められている。
事務負担や期間を省略でき、相手方の選定もかなり裁量がある。
しかし、価格競争性は低く、特命随意契約では「言い値」になることがあり得る。
また、相手方選定理由は本当に限定されるものなのかが重要になる。
随意契約が悪いわけではないが、安易に行うべきものではないと考える。

周りの職員を見て思うこと

私は契約担当部署に配属されていたことがあり、契約事務をそこで学んだ。
市役所の新人研修は非常に期間が短く、配属後に現場で学ぶ必要があるが、契約事務から遠いところやルーティン契約が多いところだと、大先輩でも理解していないことが多い。
「入札は面倒、随意契約(特に特命)が楽」という認識の人も多い。
しかし、公共契約の競争原則を理解しておかないと、不適切な事務に繋がりかねないと思う。
一般競争入札は煩雑で時間もかかるのは確かだが、選定理由の説明や価格の適正判断などは比較的楽だと思う。
仕様書さえしっかり作れば安くできることからメリットは大きい。
私の後輩などには、最低限の知識は理解したうえで事務を行ってほしいと思うし、そのためにできる指導はしていかなければならない。

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