引越し狂想曲
私は所謂「子供部屋おばさん」なのだが、今回一大決心をして実家を出ることにした。
「子供部屋おばさん」という言葉、チクチク言葉の中でもかなり殺傷力が高いため、あまり使いたくはないが、自己紹介に便利なのでつい使ってしまう。最初にこの言葉を使い出したやつ、人の心をあまり持たずに生まれてきた…?でもこういうやつほど「壊れるほど愛しても1/3しか伝わらない」とか言うんだよな。こういうやつはチクチク言葉は上手いくせにふわふわ言葉を使う能力は壊滅的なんだよ。表現力の偏りがすごいんだよ。何の話?
今回が人生の中で自分で初めて手配をした引っ越しなのだが、めちゃくちゃ大変なんだとよく理解した。本当にみんなこんなことを平然な顔でこなしながら生きてきたわけ?すごすぎ、特殊能力持ちか??
私はもう暫くやりたくない。就活と引越し、こいつら一生私の敵。
まず物件探しだが、小綺麗な家は油断していると一瞬で持っていかれる。実際途中まで一番気に入っていた家は、契約しようとした瞬間に他の人が契約してしまったことを知り、暗澹たる気持ちで次の物件の内見に向かう羽目になった。気持ちを切り替えたつもりだったけど、実は全然できてなかったらしい。次の家の写真5枚くらいしかなかった。契約する気がなさすぎるだろ。
その後気にいる家を見つけたが、爆速で唾をつけないと何処の馬の骨かよくわからんやつにこの家を持っていかれてしまう!!と焦り、不動産屋に特に価格交渉もせず、提示された価格をヘヘエと大人しく受け入れた。普段営業職として働いている身としては若干の悔しさもあるが、そんなしょうもないプライドより家にマーキングする方がよっぽど大事である。
自分の城が決まった開放感も束の間、その中身に何を詰めるのかという問題が今度は私を苦しめる。
ニトリで家具揃えるとニトリで家具を揃えた人の家になるじゃん。いやニトリの悪口が言いたいわけではなく、自分に組み合わせのセンスがないという話である。「子供部屋おばさん」にどっぷり浸かって生きてきた人間は、何をどう組み合わせれば素敵部屋になるのか、皆目見当もつかない。
そもそも本が大量にある時点で、部屋の色味を揃えるという作業が不可能なのだ。背表紙は良くも悪くもカラフルで、統一感という言葉から最も遠いところにいる。
そのため早々にハイセンスな家にすることは諦めた。統一感がなんだ!住めりゃいいんだ!そもそもセンスに苦言を呈するようなやつは家にあげないし、何か言われたときに備えてぶぶ漬けは買っておくつもりだ。
問題はまだまだ続く。家電である。
ただここは他の問題に比べると苦労が少なかった。家電量販店の店員さんが的確にポイントだけ教えてくれたからだ。
「洗濯機…これとあれだとどっちが良いんですかね…?」と聞いたら、値段が安い方を指差して「こっちです。あっちは洗濯物が乾ききりません。」と簡潔に言い切って済ませたため、無駄なことは言わない人なんだなと思った。
そのあと炊飯器を選ぶ際、私がなるべく安いものにしようとしていたら、すこし遠い目をしながら「人生でこだわるべきは4つ… 1つ目は米の炊き加減」という話を始めたからめちゃくちゃ笑ってしまった。無駄な発言すぎる。洗濯にはそんなにこだわりがないだけだったらしい。面白かったので結局おすすめされた炊飯器を買った。予算は超えたが面白料なので仕方がないのである。
引っ越しの恐ろしいところは、これがまだまだ序章に過ぎないらしいということである。能動的な引っ越しが初めてなので、過ぎないらしい、という予測でしか言えないところも恐ろしい。
私は忙しくなると部屋が大荒れするタイプなので、今かなりがっちゃんがっちゃんな部屋に住んでいるのだが、ここから荷造りをしなければいけないと考えただけで目眩がする。
そしておそらく史上最大の難関、荷解きが私を待ち受ける。無理だよ、ダンボール天国になる未来しか見えない。助けてくれ誰か。もうニトリ女と言われてもいい、ぶぶ漬けも出さないから助けてくれ。
来月の私が新しい部屋で快適に過ごしていることを願って、実家の荒れ果てた自室でこれを記す。
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