アレルギー(即興小説)

テーマ 残念な猫 30分
気付かぬうちに床で眠ってしまっていたらしく、体は凝り固まり、浮腫んでいる感じがする。窓は開け放しのままでときおり寒風が吹き込むのでそのたび私の肌は粟立った。仰向けのまま首だけをどうにか動かすと、冷え切ったフローリングの上にきらきらと光るものがベランダから続いているのを見つけた。涙が滲んでいるせいだと思い私は目を手背で擦り、もう一度そちらを見やった。しかしその煌めきは以前変わらぬままで、私はゆっくり体を起こし、その光の筋を指でなぞった。指の腹に引っ付いているのは短く柔らかい、獣の毛であった。
ペットもいない一人暮らしで、来客もない私の部屋になぜこれが落ちているのか、見当もつかないまま、さりとてそれほど気にするわけでもなく私は窓を閉めてベッドに入り直し、また眠った。
翌朝目覚めると、ひどい倦怠感と止まらないくしゃみ、顔は火照っており痛みすら感じた。もぞもぞと体を捩り体を起こそうとすると、何かが私の上で跳ねた。それは猫、不健康そうに太り、元の色など分からぬほどに薄汚れた一匹の野良猫であった。猫は全身の毛を逆立てて、私の方を睨んでいる。ここでようやく私は昨日見た毛の正体に気づいた。なによりおぞましく、汚らわしいものが寝てる間に私の上を、部屋を歩き回っていた。もしやすると排泄もしているかもしれない。考えるだけで寒気がした。私は枕元のランプを手に持ち、振りかぶったまま獣を部屋の隅まで追い詰めると、それを獣の頭めがけて振り下ろした。太った獣は、唯一の武器である敏捷さすら失っており、ただ威嚇することしかできていなかった。私はベランダからぐったりとした肉塊を投げ捨て、湯を沸かし、風呂に入った。
体調不良はいつの間にやら良くなっていた。

#小説 #短編小説 #即興小説

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